2025年10月3日に発売された『将棋世界2025年11月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)は、将棋好きでも知られる人気芸人のかまいたち・山内健司さんと、お笑い大好きの福間香奈女流六冠による異色の対談を収録しています。本稿では当記事より、一部を抜粋してお送りします。
同郷対談 女流棋士×お笑い芸人
同じ島根出身で将棋好き、そんな共通項を持つ2人が『将棋世界』で出会いました。トップ女流棋士の福間香奈女流六冠と、お笑い界でもトップレベルの人気芸人かまいたち・山内健司さんが、時間を忘れて語り合います。2人にとって将棋の魅力とは?
(以下抜粋)
福間 同郷の島根出身で、すごく将棋好きでいらっしゃるということもあって、一度お話ししてみたいなと思っていました。実は、新幹線に乗るときにお見かけしたこともあったんですが、そのときはお声かけすると申し訳ないかなと思いまして……。
山内 全然、声かけてください。一般の方に声をかけられるのは苦手なんですけど(笑)。
福間 山内さんのユーチューブでも、本当に将棋がお好きなのが伝わってきて、すごくうれしかったんです。
山内 えー! うれしいです!
(中略)
福間 実は私、お笑いが好きで、なんばグランド花月にもよく見にいっていたんですよ。19歳で大阪に出てきて、将棋一本でずっと指していると、やっぱり行き詰まってくるので、お笑いが癒しでした。
山内 そんな大阪のお笑いを見て、アホにならないですか? 大丈夫でしたか?
福間 いやいや、昔から好きなんですよね。その頃も、かまいたちさんが出演しているとうれしくて。将棋ってひとりで勉強しているので、お笑いっていう華やかな場がすごく息抜きになるんですよ。
山内 息抜きといえば、将棋のマンガもいますごくはやっているじゃないですか。僕も『龍と苺』とか読んでいるんですけど。
(中略)
これがいままでの将棋マンガであまり描いていなかった、研究の部分を描いてるんですよ。その場の勝負ももちろん大事なんですけど、その勝負に至るまでの過程がどれだけすごいことなのかっていうのがめっちゃ勉強になりました。
福間 いまは、「前にこういうことをしていて、最近はこういうことをしている」っていうのがデータで見られるんです。だから、相手がこうきたらこうするっていうことを考えておく準備は大事ですね。
山内 福間さんのことも、相手は研究してくるわけじゃないですか。そしたら、福間さんが普段は指していない手をいきなりやったら、相手は大パニックというか、準備してきたことが無になる可能性もあるわけじゃないですか。そのへんの駆け引きっていうのはどうされてるんですか?
福間 そういうことも本当にありますよ。でも、初めてやることって、相手だけじゃなくて、こっちも経験がないわけじゃないですか。だからある程度は賭けになりますね。それに新しいことっていうのが、なんでいままで指されていないかというと、大抵の場合、あまり優秀じゃないから指されていないんですよ。だからその分、深く研究しないといけないですとか、いろんなことが大変になってくるんですよね。
これまでの経験値を生かす道を採るのか、新しく開拓をしていくかっていう選択は難しいです。対局をしていても、研究していた手とは別に、実戦だからこそ見える手があるんですよ。本来、自分が研究してきたこととは違うんだけど、そっちのほうがよく見えてしまうときがあって。そっちに飛び込むのか、まずは用意してきた将棋にして、新しい手は家に帰ってから考えるのかっていうのは、私も悩むところです。
その時々で、大事な勝負でも好奇心が勝ってしまうときもあります。そこが将棋の楽しいところですね。勝ち負けの世界ではあるんですけど、それだけじゃないところに惹かれて続けているところもあるので。
山内 いまお話を聞いてて、めっちゃ似てると思ったのが、お笑いでも、この形の漫才をやってる人っていないよなってなって、ええやんええやんってやるんですけど、やっぱりやられてないのには理由があって、ウケないんですよ。ああ、ウケへんねやって。みんな見つけたけどやらなかったのかなって。
(中略)
ーー(編集部から)対談の前に指導対局をされてみて、福間女流六冠は山内さんの棋風をどのように分析しましたか。
福間 実戦型の将棋、体で覚えた将棋という感じでした。特に中盤のあたりは、手の善悪というより、山内さんのセンスを感じるところで、これからもずっと続けられたらもっと伸びるんじゃないかと思って楽しみです。芸人界でいちばんになってもらいたいです。
山内 なりたい。めっちゃうれしい。
福間 でも本当に、すぐトップレベルにいくんじゃないですかね。お忙しいとは思うんですけど、芸人1位を目指していただきたいです。
山内 いま、芸人界でいうと、新喜劇の松浦さんであったり、あとザブングルの加藤さんも強くて、ほかにもシャンプーハットのてつじさんとか、強い方がおられて。ま、知名度で言ったら多分、僕がいちばんだと思うんですけど(笑)、棋力で1位っていうのは頑張りたいと思います。
ーー(編集部から)将棋の魅力はどういうところにあるとお感じですか。
山内 将棋ウォーズの話になってしまいますけど、終盤の持ち時間が少ないところでも、そこで考えるのをやめたら絶対負けるんですよ。「ええい、いってまえ」ってなったときって全部負けてて、最後までちゃんと考えて考えて指した手じゃないと、絶対負ける。諦めたやつが負けんねんなっていうことはめっちゃ思いますね。将棋に関しては。
福間 そうですね。私も本当に一緒です。棋力関係なく、最後まで気を抜かないことが大事だと思います。努力しないことには勝ちはないので。でも結局は、大事な勝負って、全ての私生活がかかわってきてると思ってるんですよ。だから私も奨励会のときは、睡眠と食事以外はずっと将棋指してたりとか。それくらいじゃないと、勝てないと思っていたので、こういうふうに理解してくださっている方がいるのがありがたいですね。
私は個人的に、年齢性別関係なく、対等に勝負できるのは将棋のいいところかなと思っています。いま女性棋士はいないですし、差はありますけど、これから人口も増えていけば、棋士になれる可能性も出てきていると思います。
あとひとつは、最終盤のどちらが勝つかわからないっていうハラハラドキドキ感ですね。あの心臓がバクバクする感じは、日常では味わえないものなんですよね。それで負けたらやっぱり悔しいんですよ。夜も寝つけないですし、翌朝くらいになっても「ああ、やっぱり負けだったな」って感じで出てくるんです。その悔しさがどんどん将棋に吸い込まれる楽しさでもあると思います。
山内 僕、麻雀もやったりすることがあるんですけど、麻雀だったら、おそらく100回やれば1回はプロの方にも勝てます。運の要素で勝つこともできるゲームだと思うんですよ。でも将棋だと、プロの方と平手で指した場合、100回やって100回負けるわけですよね。
有無をいわさぬ頭のバトルというか。何手先も相手の考えていることや変化を読んでいく、それでねじ伏せられたときには悔しいのと、勝ったときのうれしさもあって。そこに運の要素がないと思ってるので、「ちゃんと考えられるようになったんだ、レベルが上がってきているんだ」って実感できるのが将棋の魅力だと感じてますね。
(同郷対談 福間香奈女流六冠×かまいたち・山内健司(タレント) 「私たちが将棋を好きな理由」 構成/會場健大)
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といった記事もあり、指す将・観る将・それ以外の方にも楽しんでいただける一冊になっています!
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発売日:2025年10月3日
特別定価:920円(本体836円+税)
発行:日本将棋連盟
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