きょう7日にスタートするフジテレビ系ドラマ『新東京水上警察』(毎週火曜21:00~ ※FOD配信)。吉川英梨氏の同名小説を原作にした、日本の連続ドラマでは初となる“水上警察”を舞台にした警察ドラマだ。

佐藤隆太演じる主人公が熱血漢で、それと衝突する正反対の相棒(加藤シゲアキ)、そしてその仲間たち(山下美月ら)は個性豊かな面々で…と、あらすじをながめると、これまで数多放送されてきた警察ドラマに“水上”という新味を加えただけのようにも思える。

しかし、タイトルの通り“水上”シーンを贅沢に取り入れたスペクタクル映像に負けない、濃密な謎解き要素もたっぷり兼ね備えた、見たことがあるようでない…いやそんな邪念を吹き飛ばすほどの大エンターテインメントに仕上がっていた。

  • 『新東京水上警察』主演の佐藤隆太 (C)フジテレビ

    『新東京水上警察』主演の佐藤隆太 (C)フジテレビ

『踊る大捜査線』がニヤリとする場面も

防犯カメラの普及により検挙率が上がっている“陸上”とは異なり、犯罪の穴場になっているという“水上”での犯罪対策のため、東京の湾岸部に署として復活した「東京水上警察署」。そこへ配属された個性豊かな面々が、海上に漂流していた“人間の指”の謎を追う…というのが第1話のあらすじだ。

このドラマを視聴する上でどうしても避けられないのが、なぜ“水上”を舞台にしているのか?という点だろう。水上だろうと陸上だろうと同じ刑事が捜査すればいいはずで、たとえ“そういうもの”として受け入れたとしても、毎回“水上”を舞台に、その特性を生かした事件が発生するのだろうかという疑問が残る。今回も、発端が“海上に漂流”という理由だけでは、それ以降の捜査は通常の刑事ドラマと変わらないはずで、わざわざ“水上警察”である意味が薄れてしまう。

実際、その導入部から始まってしばらくはそんな“嫌な予感”が頭から離れなかったのだが、水上から陸上へ捜査が移り替わったその瞬間、一気にこのドラマのオリジナリティが発揮される。

警察ドラマの傑作で今作同様火曜9時に放送されていた『踊る大捜査線』で言うところの“所轄”と“本庁”のような対立構造が“水・陸”で生まれ、対立の本質は同じでありながらも、これまでの警察ドラマでは味わえない新鮮さが味わえる。また『踊る』で舞台となっていた「湾岸署」というワードが連発され、それを否定してしまうようなセリフも飛び出すなど、往年の『踊る』ファンが見るとニヤリとできる場面もある。

とはいえ今作の面白さは、舞台が新鮮であるというだけでは全くない。海上に漂流してきた人間の指を発端にして、予想だにできない真相解明のミステリーが待っているのだ。こういった刑事ドラマの場合、粗方想像の範囲内に事件が解決するのが常で、もし想像の範囲外だったとしても「そんなバカな…」と冷めてしまうことの方が多いだろう。

しかし今作は、中盤までは予想通り…と思わせながら、終盤以降全く先が読めない展開へなだれ込んでいく。驚きがありながらも“ありえない”にはさせない、そのバランスが絶妙なのだ。

「最後の最後まで目が離せない」とはよく言うが、今作こそその形容が相応しい。Aqua Timezの主題歌が流れるエンドタイトルが始まる直前まで、全く終わる気配を見せない、まさに目が離せない展開の連続。この第1話を見たら最後で、連続ドラマのダイナミズムへ否応なく誘われること間違いなしだ。

中盤からラストで“邪念”が吹き飛ばされる

この目が離せない物語運びは、屈強な原作があるからに違いないのだが、原作の持ち味を生かしつつも、個性を光らせているのが脚本の我人祥太氏だ。

我人氏は学園ドラマの佳作『ビリオン×スクール』(24年、フジテレビ)を手掛けた気鋭の脚本家で、彼の持ち味は大胆かつ繊細なストーリーテリング。ちょっとやりすぎじゃないか?と思えるキャラクターと物語運びでありながら、実は深みと説得力をしっかりと持たせてくれる。その手腕が今作にも大いに発揮されており、熱血漢の主人公に、それと正反対の相棒、そして個性豊かな仲間たち…と、あまりにもベタな人物配置でありながら、今作を見終える頃には早くも愛着が湧いていることに気付く。

物語についても、“水上”を舞台にすることで自然とスペクタクルになり、大味な展開に陥ってしまいそうなのだが、繊細かつ大胆な筆致によって、驚きつつも謎解きに考えを巡らせることができる、楽しみを最後まで持続させることに成功している。

そして肝心の“水上”の映像も実に迫力があり美しい。警察ドラマというありがちなジャンルでありながらも、映し出される映像の数々で新鮮な気分に。何より熱血なキャラクターを中和するかのように、またそれをさらに熱くさせるように、爽快で雄大な海が今作のオリジナリティをより高めている。

導入部は既視感があるかもしれない。だが中盤以降の展開からラストまで見終えると、その印象は全く異なる。既視感や、水上警察の新しさという持ち味すらも忘れさせる、“邪念”を一気に吹き飛ばしてくれる。まさに快作だ。

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