
オーストラリア発のダンス・ポップ・ユニット、コンフィデンス・マン(Confidence Man)。フロントに立つジャネット・プラネット(Janet Planet)とシュガー・ボーンズ(Sugar Bones)は、挑発的でユーモラス、そして一度見たら忘れられないパフォーマンスで世界中のフェスを席巻してきた。今年のフジロックで日本の観客を熱狂させた彼らは、新曲「gossip」を引っ提げてさらなる進化を見せつつある。初めて体験した日本の観客の印象から、JADEやナイル・ロジャースの前で起きた”事故”、坂本龍一へのリスペクトについてなど、インタビューで聞いた。
フジロックを振り返って
―日本のファンは、海外アーティストが日本でどのような体験をしたか、すごく興味があるんですよ。フジロックでのパフォーマンスはSNSでもかなり話題になってましたし、熱心なファンもいます。実際にフジロックでのパフォーマンスはどうでしたか?
シュガー・ボーンズ:まさに夢が叶った瞬間だった。ずっと出たいと思っていたフェスだからね。正直、日本の観客が僕らを知ってるかどうかも分からなくて不安だったんだ。昔に一度、小さなショーはやったけど、それ以来で、しかもフェスは初めて。だから全然どういう反応が来るか予想できなかったんだけど、実際には最高の観客で。みんな踊って飛び跳ねてて、本当に驚いたし、最高だった。
ジャネット・プラネット:ステージを降りたとき、二人で抱き合って「最高だった!」って叫んだくらい。日本の観客がすごいって話は聞いてたけど、自分で体験するとやっぱり全然違う。
―意外ですね。日本の観客って”静かで礼儀正しい”イメージがある人が多いと思います。
ジャネット:全然礼儀正しくなかった!(笑)もちろんいい意味でね。静かに拍手されるより、叫んでほしいの。
シュガー:そうそう。エネルギーが本当にすごかった。
ジャネット・プラネット、フジロックでのライブ写真(Photo by Masanori Naruse)
―印象的な瞬間は?
ジャネット:「C.O.O.L Party」で観客と一緒に”C・O・O・L”ってやるんだけど、日本の観客の方が私たちより上手だった(笑)。
シュガー:僕らのダンスはバカっぽくてシンプルだから、すぐに参加できるんだ。最初のビートが落ちた瞬間からみんなジャンプしてて、「これはイケる!」って思ったね。
Primavera Soundでのパフォーマンス映像、「C.O.O.L Party」は20:49〜
―DJの友だちもよくあなたたちの曲をセットに入れてるのを見かけます。日本でもコンフィデンス・マンの楽曲は結構浸透してますよ!
シュガー:めっちゃ嬉しいね。日本で自分たちの音楽が届いてるって知れるのは最高だよ。
ジャネット:うん。絶対また日本に戻りたい!
―フェス自体は楽しめました?
シュガー:ライブ後にちょっと一人で歩いたよ。深夜の出演だったから長くは回れなかったけど、雰囲気はすごく良かった。山の景色もきれいで。
ジャネット:私はカクテル6杯くらい飲んですぐ寝ちゃった(笑)。
―台風に当たらなくてよかったですね。UKのフェスも雨が降ると結構ひどいと聞きます。
シュガー:UKのフェスは本当に泥だらけ。見たくないようなグロい景色もいっぱいある(笑)。

シュガー・ボーンズ、フジロックでのライブ写真(Photo by Masanori Naruse)
JADE参加の新曲「gossip」について
―新曲「gossip」について教えてください。
シュガー:あれは今年のグラストンベリーで初披露したんだ。最初、僕らの夏のスケジュールとしては”ちょっとツアーがあるけどゆるい夏”の予定で、休みも入れてたからチルな期間になるはずだった。そこに「gossip」を急遽リリースすることになって、その”チル”な予定を全部ぶっ壊した(笑)。で、グラストンベリー本番までに振付を完璧に仕上げる必要が出てきて、しかもJADE(リトル・ミックス)はガチのポップスターだから彼女に見劣りしないようにみっちりリハーサルした。ほんとキツかったけど、全部覚えて、土曜のJADEのステージに乱入して初披露したんだ。めちゃくちゃ楽しかった。クレイジーだったね。
―JADEとはどうやって出会ったんですか?
シュガー:Rolling Stone UK Awardsで僕らがベスト・ライブ・バンド賞を獲ったとき、受賞者の紹介で「このバンド(コンフィデンス・マン)は最高!」って10分くらい絶賛してくれた後、パフォーマンスを始めて10秒くらいで僕がジャネットを頭から落としちゃって(笑)。JADEはその時観客としてそれを見ていたらしい。もうすでにめちゃくちゃ気まずいのに、プロフェッショナルとして続けなきゃいけなかったわけだけど。JADEはその姿を見て、「この人たち本物だ」って思ったんじゃないかな。そこから彼女が僕らの音楽を聴き込んで、逆に僕らも彼女のファンで。「gossip」のフィーチャリングを決めるときに名前が出て、完璧だってなったんだ。
ジャネット:床に倒れ込んだ時、上を見たらナイル・ロジャーズに爆笑されてて、「最悪の日だ……」って思った。そのあとシャワーで泣いた(笑)。
―そういうことがあっても、まだこうしてユニットを組めてて良かったです。
シュガー:そう。僕がジャネットを落としたくらいじゃこの関係は壊れないよ(笑)。
Rolling Stone UK Awardsでのパフォーマンス映像
―「gossip」って、かなり”ポップ”色が強い曲ですよね。しかもJADEが入ったことで、あの毒気あるディーヴァ感が完成されて。あれって元々あったアイデアなんですか? それとも今回新しく作ったんですか?
シュガー:実は結構前からあった曲なんだよね。だからちょっと昔のコンフィデンス・マンっぽさがある。いつもそうなんだけど、夏にツアーで外を回っていると、5〜6カ月も経つ頃には「早くスタジオに戻りたい!」って気持ちが爆発しそうになる。みんな頭の中に無数のアイデアを抱えていて、スタジオに戻る最初の数日間はだいたいパーティーみたいな夜を過ごしながら、アイデアを一気に書き出すんだ。その瞬間が一番ワクワクするし、一番楽しい時間なんだよ。だから次に進む方向性はきっとあるはずなんだけど、正直まだ自分たちにもそれがどこに行くのかは分からない。
ジャネット:この曲は前から作ってあったから、たぶん”ちょっと古い感じ”がして、それで少し違って聴こえるのかもしれないね。でも面白いのは、こういう曲をリリースすると必ず「これってあの曲が元ネタ?」みたいにリスナーからメッセージが送られてくること。で、そのおかげで「え、こんなかっこいい曲あるんだ!」って新しい音楽をいっぱい知ることになる。だから、もしかしたらそういう偶然の”逆インスピレーション”から、次の方向性が生まれるかもしれない。
バンドの制作論と「ぶっ壊れた」世界観
―普段はどういう構成で楽曲制作をしてるんですか?
シュガー:今は3人でやってる。レジー(ビートメイク担当のReggie Goodchild)がラップトップで作って、僕とジャネットが後ろで叫びながら口出しする(笑)。それがベストな方法なんだ。
―ソングライティングやパフォーマンスのアプローチは、初期の作品から変わってきましたか?
シュガー:そうだね。僕らはずっといろんなジャンルの音楽を作ってきたけど、ダンスミュージックに関しては完全に初心者だったんだ。だから1stアルバム(2018年作『Confident Music for Confident People』)以降、とにかくすごく学ぶことが多かった。エレクトロニックの世界をどんどん掘り下げていく中で、「このバンドのサウンドって何なんだろう?」って探る時間が必要だったんだよね。最初はほとんど偶然にできたバンドで、事前に計画して始めたわけじゃなかったから。自分たちの音をつかむまでに何枚かアルバムを作る必要があった。でも今はやっと「これが自分たちのやりたいこと」「これが自分たちのサウンド」っていうのが分かってきて、すごく自然にできるようになった。それはすごくいい感覚だと思う。
ジャネット:私たちにとって大きな転機だったのは、バンドを始めてから4年目くらいに、ブライトンでやったグレッグ・アレキサンダー(ニュー・ラディカルズ)とのライティングセッション。それまで私たちは歌詞を事前に考えすぎたり、「どう歌うか」って頭で組み立てすぎてた。でも彼のやり方は、曲を聴いた瞬間にその場で反応して歌う、完全に即興だった。その”直感的な反応が正解”っていう姿勢を見て、私たちも「考えすぎないでマイクに向かってすぐ歌う」ようになった。これがバンドとしての成長の一番大きな部分かもしれない。頭じゃなくて、心で感じたことをそのまま出すこと、それが一番大事なんだって気づけた。
―改めて、バンド結成を”Wikipedia的”にまとめると?
シュガー:レジーと僕がスタジオで長年ヘラヘラ遊んでて、そこにジャネットが隕石みたいに現れて全部爆発させた。それがコンフィデンス・マンの始まり。
ジャネット:私はフランスから帰ってきたばかりで、めちゃくちゃフランスかぶれでシックな雰囲気だったの(笑)。で、フランス語で1曲歌わせてもらったら、「こいつイケてるじゃん」ってなって、そこから一緒にやるようになった。
―面白いですね。もともとは別々に音楽活動してたんですか?
ジャネット:いや、私はどちらかというとゴーゴーダンサーをやってたの。で、シュガーは……プール掃除してたよね(笑)。
シュガー:そう。ダンスミュージックにどハマりしてたプールボーイ。
―でも、ロックもやってたんですよね?
シュガー:そうだね。ロック系もいろいろやってた。で、僕らはもともとすごく仲が良くて、正直に何でも言い合える関係だったのが大きいと思う。スタジオでもエゴがぶつかることがないし、変な不満を抱え込むこともない。全部オープンだから、ただただ楽しいんだよね。最初にスタジオで火花が散ったあの楽しさが、今もずっと続いてる感じ。
ジャネット:そうそう。ツアーも同じで、ほとんど中毒みたいなもの。あの感覚を追いかけるのがやめられないの。結局、何よりも楽しいのは私たち3人でスタジオにこもって、半分酔っ払いながら曲を作ることなんだよね(笑)。
―曲作り以外の面で、ツアー生活はどうですか? バンドによっては、人間関係が壊れるくらい大変ってよく聞くんですけど。
シュガー:うん、確かにね。でも僕らも年々学んできて、「ツアーを長くやりすぎると絶対に頭がおかしくなる」とか、「公演を詰め込みすぎると回らなくなる」とか。だから今はどうやったら無理なく続けられるかを分かってきた感じかな。しかも僕らは本当に仲が良いから、親友と一緒にツアー回ってるみたいなもので、それが最高。ソロのプロデューサーが一人で世界中回ってるのを見ると、本当に大変そうで「よくやってるな」って思うよ。僕らは常にお互いの背中を押し合ってるし、ツアーを楽しめるやり方を年々うまく見つけてる。もちろん大変な部分もあるけど、楽しくやれてると思う。
―観客の反応について、国ごとの違いから学んだことはありますか?
シュガー:世界中どこに行っても、基本的には反応は同じなんだよね。違うのは”その反応の段階にいるか”ってだけ。最初に僕らを見るときは「何これ?」って感じで腕組みして立ってる。でも最後には必ずトリックにかかって、一緒にジャンプして踊ってる。
―コンフィデンス・マンのパフォーマンスって、まるで”没入型シアター”みたいに感じます。フェスでダンスを観ることもあれば、DJセットを通して曲を知ることもある。同じ世界観の中でいろんな入り口があると思うんです。そこで気になるのは、ダンスの振付や衣装、ステージのビジュアルは、曲作りのプロセスの一部なんですか? それとも別にワークショップ的に考えているんですか?
ジャネット:うーん、どちらかと言えばつながってるけど、別物でもあるかな。たとえば『3AM (La La La)』(2024年の最新アルバム)のときなんかは、音がちょっとダークでムーディーに変わったから、それに合わせてステージの雰囲気もそうしたかった。私たちはずっとニューヨークのアーティスト、Bráulio Amadoと一緒にやってきていて、彼がすごくいいクリエイティブ・コラボレーターになってくれてるの。美学的にもずっと一貫してて、白と黒を基調にしているのもそう。正直、私が自由にやるとすぐ”やりすぎでバカみたいな衣装”を選んじゃうから(笑)、ある程度の”檻”が必要なの。だからベイビーゴス的な要素を保つようにしてる。制約がある方が創造性にとっては良いのよ。制限がないと逆にどこにでも行けちゃうし、選択肢が多すぎる。そういう意味では音楽とビジュアルはつながってるけど、切り離されてもいて、その二面性が面白いと思う。
シュガー:そうだね。全部”コンフィデンス・マンの世界”の中にはあるんだけど、その世界自体がすごく奇妙で、ちょっとぶっ壊れてる感じ。
坂本龍一への敬愛、二人が思い描く未来
―その”コンフィデンス・マンの世界”は、これからも進化し続けると思いますか? 具体的にどんな方向へ向かうイメージですか?
ジャネット:もちろん進化し続けると思う、なぜなら自然とそうなるから。新しいアートやカルチャー、いろんなインスピレーションに触れることで世界観は変わっていく。でも一貫しているのは、すべてが私たち自身のフィルターを通して生まれるってこと。だから一見すると”めちゃくちゃでカオス”に見えても、最終的には全部つながっているし、統一感があるように見える。自分たちでクリエイティブも音楽もコントロールしているから、バラバラで切り離されたものにはならない。それが大事だと思う。
シュガー:そうだね。それこそがこのバンドの楽しさでもあるかな。最初から僕らは「ルールなんてないバンド」でいたかった。何をしてもいいし、どんなことを言ってもいいし、どんな曲を作ってもいい。ジャンルや型にハメられない自由さを持ち続けたかった。そのエネルギーは今も変わらない。ただ、今はそこにちょっとした”セクシーなひねり”を加えてるだけさ(笑)。
―影響を受けた、あるいはコラボしてみたい日本のアーティストやサウンドはありますか?
シュガー:僕が大好きなのは坂本龍一だね。本当に大好きな作曲家の一人。美しい音楽をたくさん残してるし、同時にいろんなクレイジーな挑戦もしてきた。日本からは常に新しいインスピレーションが生まれていると思う。特にテクノロジーと音楽を組み合わせる分野では、ずっと最前線にいる感じがするしね。あと、ポップの世界でもそう。日本の”カワイイ”衣装文化とか、そういうものからもかなり影響を受けている気がする。
ジャネット:私が大好きなのは、キャラクターを”体現する”感覚。よく私たちは「バービーとケンみたい」って言われるんだけど、それって日本や韓国のポップカルチャーから来ている部分も大きいと思う。オーバーすぎるくらいデフォルメされたキャラクターを演じること、それが私たちの表現にすごく影響してる。
―面白いですね。坂本龍一を挙げたのは意外でした。コンフィデンス・マンの音楽とは全然違うように思えるけど、でも彼はYMOでエレクトロニック・ミュージックを切り拓いた人ですから、納得できます。
シュガー:そうそう。僕らは本当にいろんな音楽が好きで。だからコンフィデンス・マンの音って、いろんな”バイブスとサウンドのコラージュ”になってるんだと思う。インスピレーションの引き出しがめちゃくちゃ広くて、どこからでも持ってくる。文字どおり”何でも”だね。
ジャネット:実際、クラシックからもかなり引用してて。この間も「月の光(Clair de lune)」のメロディをちょっと盗んで、ポップに落とし込んでみたり。違うジャンルや文化から引っ張ってきて、それを”脱文脈化”してポップに再構築するのって、すごく面白い。
―最後に日本のファンへ一言お願いします。
シュガー:いつになるかはわからないけど、必ず戻るよ!
ジャネット:日本はナンバーワン、最優先の場所!
