テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、9月28日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ ほか)の第37話「地獄に京伝」の視聴分析をまとめた。
「あまりの美しさに私、涙しっちゃいまして!」
最も注目されたのは20時09~11分で、注目度73.6%。喜多川歌麿(染谷将太)が釜屋伊兵衛(U字工事・益子卓郎)から依頼を受けるシーンだ。
駿河屋の2階の部屋では、蔦重(横浜流星)と歌麿が並んで談笑している。すると駿河屋市右衛門(高橋克実)が現れ、来客を告げた。やってきたのは栃木の小間物屋・釜屋伊兵衛だ。近頃は黄表紙をよく読むようになったという伊兵衛は、地口をまじえながら自己紹介をする。
蔦重が歌麿の描いた狂歌絵本『画本虫撰』を献上すると、伊兵衛はさらに上機嫌になり「ぱたぱたぱたぱた…」と虫の羽ばたきを真似しながら歌麿の側へ歩み寄る。「歌麿先生の絵本を拝見しまして、あまりの美しさに私、涙しっちゃいまして! ひとつ、うちの屋敷に飾る絵をお願いできねえかと! 肉筆で!」と、高揚した様子で伊兵衛は歌麿に依頼した。
「肉筆で?」願ってもいない申し出に気をよくした蔦重と歌麿は、お互いの顔を見合わせる。「これだよ、これ! ははははは!」このところ暗い話題が続く蔦重にとって、伊兵衛の明るい笑い声はせめてもの救いであった。
ステップアップする歌麿に多くのコメント
注目された理由は、一流絵師への階段を上り始めた歌麿に、視聴者の注目が集まったと考えられる。
江戸では松平定信(井上祐貴)の推し進める質素倹約により、地本問屋や絵師への締め付けが厳しくなっているが、まだ地方までは及んでいないようだ。豪商である伊兵衛は歌麿の熱心なファンであり、そんな伊兵衛からの依頼はきよ(藤間爽子)を幸せにしたいと願う歌麿にとって絶好の機会となった。
SNSでは「歌麿くんもついにお金持ちからオーダーが入るまで有名になったんだね。感慨深いな」「歌麿もこういう席に馴れてる感出てきたね。ちょっと前まではなんか居心地悪そうだったのに」「ついに一流絵師への仲間入りだね」と、ステップアップする歌麿に多くのコメントが集まった。
肉筆画とは絵師が直接筆で描いた絵画のこと。版画とは違い、絹や和紙に絵師自身が描いた1点物であり、絵師の個性や技術が色濃く反映された芸術作品だ。肉筆画は版画に比べて絵師の筆致や色彩感覚を直接鑑賞できるため、美術的価値が非常に高いと評価されている。富裕層や大名が注文することが多く、贅沢品として扱われた。版画では彫師・摺師の技が介在するため、絵師の線・筆触は中和されることがあるが、肉筆画は絵師本人が直接描くため、筆致や線の抑揚・色遣い・タッチの個性がより強く表れやすいという点が特徴とされている。
歌麿に肉筆画を依頼した釜屋伊兵衛は、下野栃木(現在の栃木市)で活躍した商人。古着商から呉服商へと発展し、地域の豪商として名を馳せた。浮世絵師・喜多川歌麿と親交があり、歌麿の雪月花画三部作『深川の雪』『品川の月』『吉原の花』の制作を依頼した人物として有名。三部作に描かれた着物に釜屋家の家紋「九枚笹」が描かれており、それが伊兵衛をあらわしているとされている。歌麿の大作を依頼したことで、江戸美術史における重要なパトロンの一人とされ、栃木の文化振興に貢献した人物として伝わっている。
伊兵衛が依頼した雪月花三部作は、1879(明治12)年に定願寺で善野家の蔵品として一括展示された。その後三作は海外に流出し、現在『深川の雪』は神奈川県箱根町の岡田美術館、『品川の月』はアメリカ・ワシントンD.C.のフリーア美術館、『吉原の花』はアメリカ・コネチカット州のワズワース・アセーニアム美術館とそれぞれ異なる美術館に所蔵されている。
栃木の豪商・釜屋伊兵衛を演じた益子卓郎は、デューズに所属する栃木県出身の47歳。「ごめんねごめんねー」で有名なU字工事のボケ担当だ。大河ドラマは『べらぼう』が初出演。栃木の豪商を益子が演じたことについて、SNSでは「どこからどう見ても栃木の人だ!」「これぞ栃木という人選」と絶妙なキャスティングに大いに盛り上がりを見せた。

