
2025年7月、アウトモビリ・ランボルギーニが初のサステナビリティ・レポートを発表。ESG(環境・社会・ガバナンス)の状況を包括的かつ透明に開示した。「環境への影響」「社会への影響」そしてより社内的な「企業の統治構造」の3つの要素でサステナビリティを推進するランボルギーニが目指すものとは?
【画像】ランボルギーニ印のハチミツも!ランボルギーニが推進するサステナビリティ活動(写真7点)
ランボルギーニがミツバチの飼育に取り組んでいることをご存知だろうか? ひょっとすると、似たような話をどこかで耳にされたかもしれないが、ランボルギーニは工場の片隅にただミツバチの巣箱を置いているだけではなく、サンターガタボロネーゼにランボルギーニ・パークを建設。17エーカー(約69,000m2)もの敷地に1万本ものオークを植樹するとともに、およそ60万匹ものミツバチをここで飼育しているのだ。
スーパースポーツカーとは何の縁もないように思えるミツバチの飼育にランボルギーニが取り組んでいる理由はどこにあるのか? ミツバチは周囲3~4kmを飛び回って花のミツや花粉を持ち帰り、自分たちのエサとしている。もしもこの地域の環境が汚染されていれば、敏感なミツバチの身体に異変が生じる。裏を返せば、ミツバチが健康に暮らしている限り、周囲の環境は正常ということになる。つまりミツバチは環境汚染のバロメーターとしての役割を担っているのだ。
ランボルギーニ・パークで行われている研究はこれだけではない。
前述したオークは場所によって密な間隔で植えられていたり、反対に広い間隔で植えられていたりする。そうすることで、どの程度の間隔で植樹するともっとも効率的に二酸化炭素を吸収し、酸素を生み出せるかを調査しているのだ。
こうした研究を価値あるものとするため、ランボルギーニはボローニャ大学、ボルツァーノ大学、ミュンヘン大学などと提携。学術的な立場からランボルギーニ・パークの運営に協力してもらうとともに、その調査を委託している。 私は2022年にランボルギーニが開催したサステナビリティデイに参加する機会を得た。ランボルギーニパークを始めとする同社の環境保護への取り組みについて取材し、深い感銘を受けた経験がある。
そもそもランボルギーニが環境問題に取り組み始めたのは2009年のこと。このときは本社工場内に15,000㎡ものソーラーパネルを敷設し、年間250kWhを発電。これにより年間2000tのCO2を削減した。
それだけではない。本社工場からおよそ6kmの距離にコジェネレーション・プラントを建設。ここで地域の農家などで生じた産業廃棄物をバイオガス燃料として活用するとともに、85℃の熱湯をパイプラインによって導き、工場で用いる熱エネルギーの一部をこれでまかなっている。ちなみに、サンターガタボロネーゼがあるエミリア・ロマーニャ地方は農業や酪農が盛んなことで有名。そういった地元の特質にあわせてCO 2削減を図っている点も特徴的といっていいだろう。
もっとも、ランボルギーニ本社で消費されるエネルギーのすべてを自前でまかなうことは、残念ながら現時点ではできていない。そこで不足分については、いわゆるグリーン電力で補うことにより、企業活動としてのカーボンニュートラルを実現している。ランボルギーニが最初にカーボンニュートラルを達成したのは2015年のこと。それ以来、彼らの年間販売台数は3倍以上まで伸びているが、現在にいたるまでカーボンニュートラルの状態を維持しているそうだ。
こうしたランボルギーニの環境保護に向けた動きが、今年、新たな一歩を踏み出した。同社にとって初となるサステナビリティ・レポートを制作・発表したのである。 サステナビリティ・レポートとは、企業の環境保護への取り組みを示すもの。今後、各国政府は自国の企業にサステナビリティ・レポートの公開を義務づける方針を示しているが、ランボルギーニの動きはそうした動きに先んじたものといえる。
今回、発表されたレポートはランボルギーニ自身の企業活動だけに留まらず、ランボルギーニが生み出した製品や関連企業が発生する CO2まで勘案した内容で、50以上の企業がその作成に関わるとともに、100以上の組織横断的な作業を経て完成したもの。ちなみに、その内容は国際的な第三者機関であるGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)やESRS(ヨーロピアン・サステナビリティ・レポーティング・スタンダード)が定めた書式に準拠しているという。
このなかで、CO2排出量が2023年と2024年でいかに変化したかが示されている。
これを見ると、ランボルギーニ自身が直接排出したCO2の量は15,653tから19,738tへと増えているが、これは前述したコジェネレーション・プラントの効率が悪化したことと、新しい熱エネルギー・プラントの立ち上げが原因とされる。ただし、これらについても、いわゆるカーボンクレジットの購入によってオフセットしているという。また、ランボルギーニが企業としてCO2排出量のさらなる削減を目指して活動を続けていくことは間違いないと思われる。
サステナビリティ・レポートでは従業員の人権についても報告されている。そのなかでランボルギーニは「人材こそは企業ビジョンの中心であり、これはウェルビーイング、インクルージョン、自己啓発などで構成される」と明言。顧客や地球環境だけでなく、従業員の健康にも配慮することが企業の持続性にとって重要との認識を示した。
ランボルギーニがサステナビリティを重視する理由はどこにあるのか?そう訊ねると、ステファン・ヴィンケルマン会長兼CEOは次のように答えてくれた。
「ランボルギーニも地球を構成する一員です。そして地球に暮らす私たちの誰もがCO2排出量削減に向けて努力しなければいけないのは当然のことです。今回のサステナビリティ・レポートで、私たちは企業活動と製品の両面についてCO2排出量を公開しました。このうち製品に関していえば、エミッションをできるだけ減らす努力をしております。こうした努力をしなければ、世の中から『こんな車は要らない』と言われても仕方ないでしょう。そうならないためにも、私たちに課せられた社会的責任をしっかり果たし、現実を見極めながら企業活動を行っていくことが重要だと考えています」
中長期的な電動化戦略『ディレッツィオーネ・コル・タウリ』を2021年に発表したランボルギーニは、2024年中に全モデルのPHEV化を終え、CO2排出量の50%削減を目標として掲げた。昨年はテメラリオをリリースし、全モデルのPHEV化を予定どおりに完了したが、ここで重要なのは、PHEV化によって「ランボルギーニらしさ」が失われたのではなく、むしろその魅力に拍車がかかったことにある。これこそ、ランボルギーニのサステナビリティを考えるうえでもっとも重要なポイントといって間違いあるまい。
文:大谷達也 写真:アウトモビリ・ランボルギーニWords:Tatsuya OTANI Photography:Automobili Lamborghini
ランボルギーニの『サステナビリティ・レポート2024』(PDF)はこちらからご覧いただけます。