肥満の増加に伴い、肥満から起こる病気が社会問題となっている昨今。スリーブ状胃切除術がますます注目されています。すでに保険適応となっており、これからも件数が増えていくことが予想されます。一体どんな手術なのか、手術の概要や効果、適応について解説します

  • ※画像はイメージです

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■スリーブ状胃切除術とは?

スリーブ状胃切除術は、食事摂取量を制限するために胃を小さく形成する外科手術のひとつです。胃の外側に膨らんだ部分(大弯側)を切除し、バナナ1本分くらいの細さに整える手術で、単なる減量ではなく「健康寿命を延ばすこと」を目的として行われます。比較的シンプルな術式で術後合併症が少ないことから、現在、世界の減量・代謝改善手術の中で最も多く実施されています。

日本では2010年に先進医療として導入され、2014年4月に保険適用となりました。以降、手術件数は年々増加し、2020年に国内で実施された減量・代謝改善手術の約95%を占めています。

手術は開腹ではなく腹腔鏡下で行われます。お腹を大きく切開する必要はなく、5〜6カ所に5〜15mmの小さな穴をあけ、カメラ(腹腔鏡)を挿入。その画像をモニターに映し出しながら胃を切除します。胃のおよそ75〜80%を切り取り、残る胃の容量は約100mLに。残した部分は縫合されてスリーブ(袖)状に形成され、切除した胃は小さな切開部から摘出されます。一度手術を行うと胃を元に戻すことはできません。入院期間は1週間〜10日程度で、術後はリバウンドを防ぐために引き続き食事管理と運動療法が必要となります。

■スリーブ状胃切除術による変化

BMI35以上の高度肥満症の方では、この手術により長期的に減量効果を維持でき、さらに肥満に伴う糖尿病の改善効果も期待できます。日本人患者322例を対象とした研究では、手術前の平均体重110.9kgが術後1年目には82.2kg、2年目には82.6kgに減少・維持されました。総体重減少率は1年後で30.5%、2年後で29.9%という結果でした。また、術後2年間の糖尿病完全寛解率(HbA1c<6.0%かつ糖尿病治療薬が不要となった割合)は75.6%でした。

減量効果は、食欲が低下して食事量が減ることによります。これは単に胃が小さくなるからではなく、胃から分泌される食欲刺激ホルモン「グレリン」が減少するためです。グレリンは胃の最上部(胃穹窿部:いきゅうりゅうぶ)から多く分泌されますが、この部位が切除されることでホルモン分泌が抑えられます。グレリンはインスリン分泌を抑制する作用もあるため、その低下が糖尿病改善につながっていると考えられています。

体重減少率や減量維持効果は薬物治療より高く、脂肪肝・高血圧・脂質異常症などの改善効果も報告されています。

■スリーブ状胃切除術の適応

スリーブ状胃切除術は肥満症治療の一環として行われる外科手術です。肥満症と診断されてもすぐに手術となるわけではなく、まずは食事療法・運動療法・行動療法・薬物療法といった内科的治療を6カ月以上続け、効果が十分でない場合に手術が検討されます。

次の条件を満たすと保険適用の対象となります。

・病気が原因の肥満ではない
・内科的治療を6カ月以上続けても十分な効果が得られない
・BMI35以上で、糖尿病・高血圧症・脂質異常症・閉塞性睡眠時無呼吸症候群・非アルコール性脂肪性肝疾患(NASHを含む)のうち1つ以上を合併している。または、BMI32〜34.9で、糖尿病(HbA1c 8.0%以上: NGSP値)、高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、非アルコール性脂肪肝疾患(NASHを含む)のうち2つ以上を合併している

ただし、アルコールや薬物依存がある場合、重度の精神疾患でコントロールが難しい場合、全身状態が不良で全身麻酔が困難な場合、家族の同意が得られない場合などは対象外となります。また、18歳未満や高齢者は慎重な判断が必要になります。

■健康寿命を延ばすために

スリーブ状胃切除術は「痩せるため」ではなく「健康寿命を延ばすこと」を目的に行われる外科治療です。誰でも受けられるわけではなく、適応基準を満たし、なおかつ他の治療で十分な効果が得られなかった場合に検討されます。

外科手術である以上リスクも伴います(縫合不全、出血、逆流性食道炎など)。しかし、減量効果だけでなく糖尿病をはじめとする生活習慣病改善効果も証明されており、世界中で広く行われている手術です。医師からすすめられた場合は、手術内容やリスク、術後の生活の変化をよく理解したうえで検討していきましょう。

最後にスリーブ状胃切除術に関して、専門医に聞いてみました。

肥満症ではBMIが増加するほど心疾患や脳卒中リスクの上昇と死亡リスクの上昇が報告されています。特にBMIが35を超えると高度肥満症に分類され、早期の減量治療が必要となります。しかしながら、従来の食事運動療法のみでは十分な減量が困難であることやリバウンド率が高いことが課題となっていました。

スリーブ状胃切除術は、主に高度肥満の方に対して高い減量効果と長期的な体重維持に優れた治療方法として位置づけられています。スリーブ状胃切除術は腹腔鏡下で実施され、他の一般的な消化器外科手術と比べて手術自体の合併症は少ないとされています。また、術後の体重減少に伴い糖尿病や高血圧などの治療薬剤の減量や中止が可能となる例も多く、薬物療法単独と比べ長期的な医療コストを軽減できる可能性があります。

一方で、術後の急な食習慣の変化により、心理的な負担を感じる場合があります。そのため、手術適応は慎重に判断され、治療内容への十分な理解に加え、術前後の心理的サポートを含めた包括的なケアが重要です。

伏見 宣俊(ふしみ のぶとし)先生

一宮西病院内分泌・糖尿病内科
日本糖尿病学会 糖尿病専門医 日本内科学会 総合内科専門医 日本消化器病学会 消化器病専門医