• 平成ノブシコブシ結成の吉村崇

2018年にはアメリカ・ニューヨークで「バーレスクイベント」に出演、そして昨年は韓国でもライブを行い大盛況だった。そこで吉村に衝撃的な光景を見せつけられた。それは、日本の観客とはまったく異なる、熱狂的なエネルギーだった。

「目ん玉飛び出るかと思うぐらい驚きました。お客さんの盛り上がり方が。ニューヨークでやったときは、本当に席とか関係なく舞台にやってきて両手をついて、受けたらそこをバンバン叩くんですよ。そういう環境でお笑いをしたのが初めてだったので」。

日本の観客は、世界的に見れば「重い」という吉村。時には腕を組み、静かに舞台を品定めする光景にも出会う。だが、吉村はその厳しい環境こそが、日本の芸人を強くしたのだと分析する。だからこそ、揺るぎない確信がある。

「みんな日本の笑いは世界一だって思っている。でもそれを証明するものはなかったんです。だったらやってみようかって。どれくらい世界に通用するのかみたいな感覚で始めたのがきっかけですね」。

渡辺直美や、ゆりやんレトリィバァのように、個の力で世界に挑む才能を尊敬しつつも、吉村が目指すのは少し違う地平だ。それは、一個人の成功物語ではなく、「日本の笑い」という文化そのものの価値を証明する壮大な旅。だからこそ、海外に媚びる必要はないと断言する。

「エンタメって多少傲慢性がないとダメだと思うんです。お客さんに寄せすぎてもよくないっていうか。ハリウッド映画とか、アメリカの音楽ってまったくどこかに寄せるということがない。それぐらいの傲慢さを持ってやった方が、丁寧に合わせるよりはいいのかなって僕は思いながらやっています」。

自分の置かれている環境も変わってきた。「言葉も急に出てこなくなってきたし、スピードが落ちたなと感じることが多い」と自身の年齢的な衰えを正直に話すと、戦い方が「合気道の域に入りつつある」と笑う。今は「他力をどう利用するか」というチームプレーに活路を見出す。それは、決して後ろ向きな変化ではない。“チームお笑い”という大きなくくりのなか、仲間と共に“日本のお笑い界”として大きな夢を掴みに行く。

「将来的には、岩倉使節団みたいな……。俺ら死んだ後、NHKが特集組んでくれたらいいなっていうぐらいの思いです。来年は東南アジアで現地のお笑いの人たちとセッションをしてみたい。昨年、韓国の芸人さんとコラボしたのですが、本当に面白くて刺激的だったんです」。

平成ノブシコブシ結成から25年の歳月が流れた。吉村は「NSCに入学した1年は先も見えないし、不安も多くてめちゃくちゃ長く感じましたが、その後はあっという間」と振り返る。ただがむしゃらに走ってきた今、吉村は新たな地図を広げ、仲間たちと共に、まだ誰も見たことのない景色を目指して、再びギアをフルスロットルに入れる。

  • 平成ノブシコブシ結成の吉村崇
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■吉村崇
1980年7月9日生まれ、北海道札幌市出身。2000年に同じく北海道出身で東京NSC5期生の徳井健太とお笑いコンビ・平成ノブシコブシ(旧名コブシトザンギ)を結成。フジテレビ『ピカルの定理』、『ノンストップ!』、テレビ朝日『しくじり先生 俺みたいになるな!!』、『くりぃむクイズ ミラクル9』など、数々のテレビ番組で活躍。2017年に吉本芸人によるボーイレスクショー「Butterfly Tokyo」を立ち上げ、2018年にはアメリカ・ニューヨークで行われた世界3大バーレスクイベント「NewYork BurlesqueFestival」に出演。また、昨年、韓国でお笑いライブを初開催し、今年も第2回を開催している。