国土交通省と北海道庁は9月3日、「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議」の「中間とりまとめ」を公表。本誌も「北海道新幹線延伸後も函館本線(海線)『必要』貨物鉄道の機能確保へ」と報じた。この結論に異論はない。しかし筆者は落胆した。「鉄道貨物輸送を残す」ことは、2023年7月に国と北海道、JR貨物、JR北海道が合意済み。それから2年以上経つにもかかわらず、その間の議論は一体何だったのか。有識者検討会議には、合意の次の段階、実際の運営の枠組みを決めてほしかった。

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    北海道から本州方面へ向かう貨物列車

ここに至る経緯を振り返る。北海道新幹線は新函館北斗~札幌間で延伸工事を進めている。新幹線の着工条件として、「建設後にJRが営業を引き受ける」その代わり「赤字になる在来線をJRは手放してもいい」そして「自治体はJRの並行在来線撤退を了承する」ことも挙げられている。この取り決めに則り、2010年にJR北海道は函館~小樽間を経営分離すると表明した。このうち長万部~小樽間は沿線自治体の意向により、バス転換が決まった。

残る函館~長万部間について、北海道新幹線並行在来線対策協議会渡島ブロック会議は2023年12月の時点で、函館~新函館北斗間を鉄道維持、新函館北斗~長万部間をバス転換という方針に固めつつあった。バス路線の具体案も検討された。

しかし、この区間は旅客列車だけでなく、貨物列車も走っている。しかも青函トンネル経由で本州と北海道各地をつなぐ重要なルートである。沿線自治体が「鉄道を維持しない」と決めたとしても、貨物輸送のために鉄道を維持する必要がある。あるいは鉄道をあきらめ、トラックや船舶に切り替える必要がある。

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    北海道新幹線の札幌延伸に伴う並行在来線のうち、旅客列車の運行が断念された「海線」区間

そこで、2022年9月から国土交通省、北海道庁、JR貨物、JR北海道の4者で協議会を設置。2023年7月に鉄道貨物機能を維持する方針を確認した。函館新聞の2023年7月28日電子版に、「今後は有識者会議を設置し、費用負担の在り方や人員確保が議論される見通し」「有識者会議が2025年度中に最終的な結論を出す」と書いてある。

それから2年が経過し、有識者検討会議が2025年度に出した「中間とりまとめ」が、「海線の維持により貨物鉄道の機能を確保することが必要であるとの結論に至った」である。つまり、「4者会議の方針はごもっともです」と言っている。2年もかけて、国、北海道、JR貨物、JR北海道の仰る通り。これで「結論」と言えるか。

筆者にとって、行政用語の「中間とりまとめ」は、有識者会議における「結論」である。有識者検討会議は行政機関ではないから、最終的な決定権はなく、「中間とりまとめ」という言葉遣いになる。このあとは行政が結論として政策を打ち出し、法整備や予算確保の段階に入る。これまで見聞きした鉄道関係の「中間とりまとめ」のほとんどがそうだった。その意味で、「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議」は4者会議の方針をなぞっただけ。「まとまって」いない。

しかも、「貨物鉄道の機能を維持する場合に整理すべき多岐にわたる課題の解決に当たっては国をはじめとする関係者においてなお一層検討を深度化させていくことが必要」(「中間とりまとめ」概要より)と付記しているが、「検討を深度化」こそ有識者会議に求められていたことではないか。前出の函館新聞も、「今後は有識者会議を設置し、費用負担の在り方や人員確保が議論される見通し」と書いている。これが国民の期待ではないかと思う。

さらに、今後の進め方として、「札幌延伸が2038年度末頃」になるから、「旅客輸送に係るブロック会議の動向等に留意しながら、課題解決に向けた議論を継続」(「中間とりまとめ」概要より)するとも書かれてある。まだ議論を続けていくつもりか。「新幹線の延伸開業が先延ばしになるから、貨物鉄道の議論も先延ばしにしてもいい」とも読める。そんなことはない。JR北海道が経営を分離し、沿線自治体が旅客列車を断念するだろう。新幹線の工事が遅れようと、この現実は変わらない。

だから必要な議論は、「新幹線工事が遅れようとも、貨物鉄道維持の方針となった以上は、どのように残すかを議論し、結論を出しておく」ことだった。工事の遅れは議論の延長ではなく、結論づけた貨物鉄道の枠組みを実行する準備期間に当てるべき。新幹線開業と枠組みの決定の足並みをそろえる必要はない。いまできることを先延ばしにしてはいけない。

筆者の期待が大きすぎたか

「海線」の残し方について、筆者の見通しとして「JR貨物が第1種鉄道事業者となり、線路も運行も引き受ける」「線路を維持する第三セクターを設立して線路を維持、JR貨物が線路使用料を支払って運行する」「線路を維持する第三セクターを設立して線路を維持、国道などと同じ枠組みで、JR貨物は線路使用料なしで運行する」などが考えられる。

その上で、「JR貨物が第1種となった場合の国や自治体の支援のあり方」「第三セクターに参加する自治体や企業の出資配分や国と道の支援のあり方」など検討する必要がある。これを議論し、提言することが「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議」の役割だと考えていたが、どうやら筆者の期待が大きすぎたようだ。2年間の期待が徒労に終わった気がする。きっと期待しすぎた筆者が悪いのだろう。

「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議」の議事概要を読んでいくと、意見交換の冒頭で、「最終的には、貨物鉄道の下部構造の部分を誰が持ち、どのように費用負担していくのかということを議論しなければいけないことを認識しつつ、今後、ヒアリング等を行いながら議論を進めていきたい」(第1回の議事概要より)とある。

第1回の議事概要から、さらに言葉を拾っていくと、「どのように貨物鉄道を残すかという議論を行いたい」「受益者負担を一定のベースとしながら、財源確保を考えていく必要性がある」「どのような枠組みで誰が費用負担するのかという議論を早く進める必要がある」「定量的な分析に基づいた、合理的な納得のいく費用負担や着地点を見出していきたい」「どうしたら持続可能なスキームになるかということについて、議論をしっかりとしていただきたい」「貨物鉄道を維持する上では、事前に人員の採用・教育が必要だということも議論いただきたい」など、課題解決に前向きな意気込みを感じる。

これらの初志はどこへ行ってしまったのか。

第2回から第4回まで、関係企業からのヒアリングが行われている。第2回は通運業者、第3回は荷主、第4回は物流業者である。ヒアリングだけでなく、現状の状況報告も行われている。しかし、これらのヒアリングは2022年3~7月に開催された「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」の内容と重複する。これでは有識者のための勉強会である。いつまで経っても鉄道の保有主体をどうするか決められない。その上、問題の直視を避けるかのように、「北海道新幹線の開業が決まらなければ経済の見通しが立たない」とか、「海線の沿線自治体が鉄道の維持に関して決定していない」などの文言がある。

じつは、並行在来線のほうも揺らいでいる。2023年12月の時点で、新函館北斗~長万部間はバス転換に固まりつつあった。北海道から運行計画も示され、函館バスと協議する意向も示された。しかし、2023年7月に国などから貨物列車を残す方針が示されたことで、鉄道が残るのであればバス転換は不要という考え方も生まれた。バス運転手も不足している。直近の報道で、函館バスは10月に2路線を廃止する方針を示している。

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    函館発長万部行の普通列車。1両での運転も珍しくない

並行在来線の自治体としては、貨物路線として鉄道を残すのであれば旅客列車も走らせたい。一方、「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議」は、バス転換しないのであれば貨物路線の枠組みの前提が崩れるとして、結論を定められない。つまりは「お見合い」状態が続いている。「どうせ誰かが鉄道を維持してくれるだろう」と思っていると、結果的に誰も手を挙げず、廃線になってしまいそうだ。

「お見合い」状態でなんらかの結論を出しにくいことは理解できるし、有識者たちも気の毒とは思う。しかし、有識者検討会議は政策決定機関ではないのだから、提言の中に「貨物鉄道専用線としての枠組み」「並行在来線存続の場合の枠組み」の2つを用意しても良さそうなものに思える。「お見合い」状態打破への提言も欲しかった。

結果として、「中間とりまとめ」は出したものの、決定的な提言は出せないという中途半端な結果に終わってしまった。これでいいのか、という感想を抱かざるをえない。関係団体の北海道経済連合会、ホクレン農業協同組合連合会、北海道商工会議所連合会、北海道機械工業会、人北海道消費者協会はお怒りではないのか。

折しもJR貨物が今年度も馬鈴薯輸送専用列車を運行すると発表した。将来、「海線」の枠組みが決まらず、貨物列車を運行できないとなれば、馬鈴薯をはじめとする北海道の農産物は首都圏など大消費地に届かない。ヒアリングでも、トラックや船舶輸送の切替えは難しいとされた。しかし貨物列車がなくても消費地側は困らない。北海道から届かなくても海外から輸入できる。困るのはおもに北海道側だ。もっと危機感を持っていただきたい。