広島市からフェリーで約30分、瀬戸内海に浮かぶ「江田島」。自然を生かしたアクティビティや心洗う島の風景、そして広島名物の「牡蠣」の一大名産地でもあり、近年では穏やかな気候を利用したオリーブの栽培などでも有名だ。そんな江田島へ、食から伝統工芸まで、職人たちのクラフトマンシップを体感する旅に出かけてきた。
朝獲れの新鮮な“瀬戸内さかな”が味わえる「割烹大学」
まず訪れたのは、京都の和食料理店で修業を積んだ、この道35年の料理人・佐々木鉄次さんが営む「割烹大学」。店内に入るとまず目に飛び込んでくる大きな生簀が、これから味わう料理への期待感を高める。注文後にその生簀から取り上げて捌く「御造り」や、職人が握る「にぎり寿司」は、まさに瀬戸内の海の幸そのものの新鮮さである。
今回は、小鉢や椀物、お造りや天ぷら、サラダ、和牛などが味わえる「江田島御膳」(2,800円、数量限定の要予約、内容は仕入れ状況によって変動)をいただいた。ハモの椀物やキスの香り揚げ、サワラの木の芽味噌など江田島産の魚介が盛りだくさん。タイやハモのお造りには香ばしいゴマ醤油を合わせるなど、瀬戸内さかなの魅力を引き出した料理が並ぶ。この日は、朝獲れたばかりの生シラスを使ったご飯も登場。チンゲンサイや甘長唐辛子、カボチャやキュウリなど江田島産のフレッシュな野菜を使ったサラダや天ぷら、広島和牛が味わえるなど、広島の美食尽くしだ。
料理に合わせて、広島県産の日本酒も味わいたいところ。呉市にある宝剣酒造が手掛けた「寳剱」や、盛川酒造の「白鴻」など、軟水醸造法で仕上げたなめらかでキレのあるお酒が魚料理によく合う。
江田島が誇る牡蠣料理が味わえる、オーシャンビューレストラン「OYSTER CAFE江田島」
江田島が誇る最高の食材といえば、やはり牡蠣である。その生産量は広島県内でも有数であり、島の恵まれた地形で育まれた牡蠣は、濃厚な甘みとうま味が特徴だ。
そんな至極の牡蠣を、オーシャンビューの絶景と共に味わえるのが「OYSTER CAFE江田島」。使用する牡蠣は厚生労働省登録の第三者検査機関にて自主基準をクリアしたもののみを仕入れ、さらに洗浄システムで牡蠣の体内中の雑菌を取り除き、再度厳しい自主基準をクリアした、安心・安全な牡蠣のみを使用している。
「生牡蠣」(3個1,980円)はぽってりとしていてみずみずしく、うま味の余韻が長い。こだわりのパン粉で揚げた熱々ジューシーな「広島産牡蠣フライ」(5個1,045円)には、ガリを隠し味に使用した自家製のタルタルソースがよく合う。
牡蠣以外にも「瀬戸内しらすと季節野菜のスパゲッティー ペペロンチーノ」(1,870円)など、江田島産食材を使ったイタリア料理のレベルも高い。穏やかで美しい瀬戸内海を眺めながら、海の恵みを満喫する時間は、まさに至福のひとときである。
日本酒の蔵元敷地内でビールの醸造を行う「江田島ワークス」
今江田島でホットなのが、2024年に誕生したマイクロブルワリーの「江田島ワークス」だ。江田島の日本酒の蔵元である「津田酒造」の敷地内に醸造所を構え、地元の産物を使ってビール造りを進めている。
「江田島ワークス」では、イギリス産、ドイツ産、オーストラリア産の麦芽とアメリカ産のホップを使用。地元江田島の水を仕込み水として使用して「ゴールデンエール」や「ヴァイツェン」、「IPA」などを醸造している。同社のビールは要冷蔵商品なので、ぜひとも現地で味わいたい。
世界が認めた江田島オリーブの二大巨頭の一つ「いとなみ舎」
近年、江田島の新たな特産品として注目されているのがオリーブである。その品質を世界レベルにまで高めているのが「いとなみ舎」と「江田島オリーブファクトリー」という二大巨頭だ。
今回は、2016年にオリーブ専門の地域おこし協力隊として神奈川から江田島へ移住した、峰尾亮平さんが手掛ける「いとなみ舎」を訪ねた。
ここでは、地域と連携しながらオリーブを栽培し、イタリア製の搾油機でワールドクラスのオリーブオイルを製造している。その実力は折り紙付きで、2024年の「ニューヨーク国際オリーブオイルコンペティション」では、「江田島ブレンド ストロング」が金賞を、「ルッカ 単一品種搾り」が銀賞を獲得するという快挙を成し遂げた。
収穫時期や品種によって風味の異なるオイルを製造しており、焼き魚や肉料理に合う辛みの強いものから、卵料理などにコクを加える甘みの強いものまで、料理の可能性を広げる「調味料」としてのオリーブオイルを提案している。
残念ながら昨年収穫分のオリーブオイルは完売しており購入が難しいが、オリーブオイルのテイスティング体験(2,500円、完全予約制)は可能だ。和食の甘い味わいを引き立てる「江田島ブレンド マイルド」や、苦みと合わさって塩味が増す「江田島ブレンド ストロング」の特徴を、食材との組み合わせで体感することができる。
和紙を糸にして織物に仕立てる紙布製造を行う「津島織物製造」
江田島には、古くからの伝統技術を継承する工房もある。明治23年創業の「津島織物製造」は、和紙をひねり糸にして顔料で染め、それを織り上げて作る「紙布(しふ)」という伝統的な織物を製造する工房だ。
最盛期には江田島に5社ほどの紙布織物の会社があったというが、現在は静岡にもう一社あるだけで、「津島織物製造」は日本に現存する数少ない紙布織物の会社となっている。
この紙布は、吸湿性や通気性に優れていることから「呼吸する壁紙」とも呼ばれる。その独特の風合いと機能性が高く評価され、大手ハウスメーカーや、世界的ラグジュアリーブランドの国内店舗の壁紙にも採用されるなど、国内外で評価が高い。江田島市の温泉宿「江田島荘」のロビーの壁にも「津島織物製造」の紙布が用いられている。
現在は5代目の津島久人さんとお母さま、職人の3人で、伝統的な技術を受け継ぐ。完全予約制で紙布を使ったうちわ、しおりの製作体験(1人1,000円、5人以上で予約可能)もできるので、江田島ならではの紙布文化を体感してみるのもいいだろう。
牡蠣殻が美しき陶器に生まれ変わる「江田島焼 沖山工房」
最後に紹介するのは、江田島ならではの素材を活かした焼き物「江田島焼」である。この焼き物の最大の特徴は、江田島名産の牡蠣の殻を利用して作られた「カキ肌釉(かきはだゆう)」という釉薬にある。
この釉薬をかけて焼くことで、器の表面は白く濁り「禾目(のぎめ)」と呼ばれ、まるで兎の毛のような繊細な線状の模様が現れるのが特徴だ。その唯一無二の優しい風合いは、多くの人々を魅了している。
「沖山工房」では、茶器や食器のほか、招き猫などの可愛らしい陶人形も制作している。また、5名以上のグループであれば陶芸教室(1,000円~)も体験でき、旅の思い出を形にすることも可能だ。
心豊かな時間を探しに、広島の宝島へ
瀬戸内の穏やかな海と豊かな自然に抱かれた江田島。この島には、職人たちの情熱と技の結晶が息づいている。日常を離れ、心豊かな時間と本物のクラフトマンシップを探しに、広島の宝島・江田島へ足を運んでみてはいかがだろうか。
取材協力: 広島県






















