エレガントでエモーショナルな「フェラーリ296スペチアーレ」、日本初上陸|EVモデルの導入も予定通り

今年で日本で第10回目の開催を迎え、富士スピードウェイで開催されたフェラーリ・レーシング・デイズ2025の前日、プレスと報道陣に対してフェラーリ・ジャパンは「296スペチアーレ」を披露した。チャレンジ・ストラダーレ、430スクーデリア、458スペチアーレ、488ピスタといった、レース由来のテクノロジーをつぎ込んだ特別なロードゴーイング・バージョンの系譜として、マラネロ産の最新バージョンである。PHEVでV6ターボユニットをベース車両とする点でも、新しい時代のスぺチア―レと捉えることができるだろう。

【画像】最新のスペシャル・バージョンモデルであるミッド・リアエンジンのプラグイン・ハイブリッド・ベルリネッタ、フェラーリ296スペチアーレ(写真33点)

このプレゼンテーションのために来日したプロダクトマーケティング責任者のエマヌエレ・カランド氏は、296スペチアーレの特徴をよく表すキーとして「+50ps、-60kg、+20%」という数値を挙げた。それぞれがノーマルモデル比での、最大出力のトップアップ幅、達成された軽量化、250km/h走行時のダウンフォースの増加分に相当する。とくにダウンフォースは435kgに達する。さらにカランド氏が強調するのは、フェラーリは各カテゴリーのモータースポーツを闘っており、F1からはエンジンテクノロジーを、GT3やチャレンジからは空力を、WECハイパーカーからはハイレベルな統合システムと軽量化技術を、296スペチアーレに還元しているという。

外観で目を引くのは、ハイパフォーマンス版特有のアグレッシブさは感じさせつつも、全体としてベース車両と同じくエレガントな抑制を効かせたアピアランスと空力デバイスだ。エアロ・ダンパー・コンセプトを組み込むため、フロントには大型のインテークダクトが設けられ、気流をアンダートレイからボンネットへのダクト、さらにはルーフへ通すことで、ダウンフォース量を増大させつつ、加速時のフロント側のダウンフォース作用の変化を抑えた。

フロントバンパー左右両端のアウトレットは波打っており、アンダートレイ内のヴォ―テックス・ジェネレーターと協調して気流を圧縮し、ダウンフォースを得ると同時にタイヤ周りのアウトウォッシュ効果を高めている。熱管理の視点では、フロントラジエーター・ダクトの断面積は12%拡大され、スプリッターの左右両端にも3つの水平スリットが設けられ、フロントラジエーターの排熱を促しつつ、エンジンの吸気インレットに干渉しない流れを作り出す。しかもブレーキシステムの熱負荷についても、ディスクとパッドの接触面を流れるエアの量を最大化して制動時の熱を拡散すると同時に、キャリパー内のフルード加熱を防ぐという。

ボディサイドではサイドシルカバーが、リアのタイヤハウスに空気を吹きつけ、リア周りの整流の制御に重要な役割を果たす。しかし空力制御に画竜点睛を加えるのは、リアの「ガンマウイング」ことサイドウイングだ。リアフェンダーからボディ後端を包み込むように立てられたこのウイングは中央部分は潔く省かれているような形だが、水平面がダウンフォース発生を、垂直に立てられたフィンが整流を果たす。無論、アクチュエーター制御によるアクティブ・スポイラー機能は296GTBより受け継がれているが、制御ストラテジーはまったくの新規で、ミディアム・ダウンフォース領域が新たに加わり、ハイ・ダウンフォース領域への移行も素早くなっているという。

かくも大きく進化を遂げた空力デバイスでありながら、アグレッシブさよりエレガントさが際立つ理由を、カランド氏はこう説明する。

「スペチアーレはつねにアグレッシブですが、圧倒的パフォーマンスと日常での乗りやすさ、一人一人のフェラリスタ、顧客によりよく合う形を提供していきたいのです。スペチアーレはよりハイレベルなドライビングを求める方向けで、そこに男性か女性かの区別はありません」

軽量化はボディシェルの一部にカーボン・ファイバーを用いたのみならず、エンジンブロックとクランクケースをマシニング加工によって切削することで、従来比でー1.2㎏。ヘッドのボルトやスタッドボルトをチタン製にし、フェラーリのロードゴーイング・バージョンとして初となるチタン製コンロッドも採用した。強化ピストンや軽量化クランクシャフトをも入れることで約-9kgの軽量化を果たしたのみならず、内燃機関としてプロファイルはまったく別物となった。かくしてF1譲りのノック・コントロール・システムを採用し、出力向上のみならず、燃焼から生じる3次・6次・9次周波数成分のみの倍音で構成したエグゾーストノートをも実現し、吹け上がりのフィーリングにも格段の磨きをかけたようだ。ちなみにノーマル比+50psのうち37psが、エンジン側による出力向上だ。

ヴィークル・ダイナミクスに関しては、まずサスペンションはスプリング剛性とリンケージ・ジオメトリーは専用設計で、チタン製スプリングを採用。ライドハイトが296 GTBより-5mm下がって軽量化と低重心化により、296スペチアーレの最大横加速度は4%高められている。

だが296スペチアーレの本質を端的に語るものは、スペック数値以上に制御システムだろう。ドライビングの興奮をこのモデルの開発のカギとして根底にあったと、カランド氏は証言する。

「官能性と感応性、すべてのエレメントを統合するアルゴリズムをエンジニアたちと作り上げました。目的は880㎰をリアルドライブで使い切れること、定量的に評価できそうな5つのパラメーターのすべての要素で、五感を刺激することです。例えば、フェラーリファストシフトは、パドルに触れたらシフトするぐらい速くなっています」

5つのパラメーターとは、横方向と前後方向の加速度、シフト変速、ブレーキング、そしてサウンドのこと。横方向加速度はステアリング操作、前後方向加速度はスロットルペダル、それぞれに対する車両の反応特性を指す。これらパラメーター値をECUが受け取ってから制御するというより、フェラーリはサプライヤと共同開発した「ABS Evo」というヴィークル・ダイナミクス推定機能の効果を強調する。4輪の目標スリップ値を高い精度で推定することで、直線制動時もカーブ内での制動でもブレーキングの再現性を高め、制動時に4輪で発生する前後方向の力を緻密にコントロールできるというのだ。

「880psは後輪駆動車としてはほぼ最大ですが、今も将来的にも馬力のみが開発対象ではありません。私たちのビジネス、開発の考え方は、ダイナミクスを楽しめること。数年ほど前は何かと最高速が重要視されていましたが、今はドライビング・エモーションについての努力が顕著です。開発で焦点を当てているのは、ワインディングで然るべき瞬間にフルパワーを解き放てるようにすることであり、新しい世界が開けるのはそこなのです」

すでに通常のモデルの296 GTBならびに296 GTSは完売していると、フェラーリ・ジャパン代表取締役社長のドナート・ロマニエッロ氏は述べる。今後予想される296スペチアーレへの台替え需要と実際に購入可能となるエリジビリティについては、無論すでに296 GTB/GTS他のフェラーリを所有しているオーナーが対象になるだろうとしつつ、次のように語る。

「顧客がフェラーリを購入する時はつねにエントリーポイントであり、ガレージに入れて満足してもらうのみならず、トラックやロードでのパフォーマンスを通じて楽しんでいただくこと。そして今回は富士ですが、鈴鹿と隔年で交互開催するフェラーリ・レーシング・デイズをはじめとする体験型のイベントでオーナー同士がノウハウや経験を共有できるコミュニティ作りをしつつ、プロダクトの幅を広げるのが私たちの役割。既存の顧客の満足度を向上させつつ新しい顧客層を開拓することです。その意味で、正規代理店で201点以上もの点検項目を経て、販売する認定中古車は、顧客の一人一人にテイラーメイドのサービスを新しい若い層にも提供する方向性と軌を同じくします」

ミッドシップ・フェラーリのスペチアーレとして初のハイブリッドモデルが登場したことで気になるのは以前から報じられている純EVモデルの市販タイミングだが、直前に一部メディアで報じられていたEVモデルの投入計画の遅れについては、エマヌエレ・カランド氏は否定した。

「EVのプロジェクトの遅れはなく、予定通りに進捗しています。ル・マン24時間の直前にも走行テストを行ったばかりで、フェラーリらしいクオリティで進んでいます」とエマヌエレ・カランド氏はコメントしてくれた。

文:南陽一浩 写真:フェラーリ・ジャパン

Words: Kazuhiro NANYO Photography: Ferrari Japan