テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、15日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ ※きょう22日は19:14~ ほか)の第23話「我こそは江戸一利者なり」の視聴分析をまとめた。

  • 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第23話より (C)NHK

    『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第23話より (C)NHK

「皆様、俺に賭けてくだせえ」

最も注目されたのは20時40分で、注目度73.7%。蔦重(横浜流星)が忘八たちに日本橋への進出を嘆願するシーンだ。

「皆様にお願いがございます。俺に、日本橋に店を出させてくだせえ!」駿河屋で蔦重は忘八たちに頭を下げた。忘八たちは先日あった和泉屋三郎兵衛(田山涼成)の葬儀での扱いにはらわたが煮えくりかえっているところだった。蔦重の突然の申し出に一同は騒然となったが、「とち狂ってんじゃねえ!」と、駿河屋市右衛門(高橋克実)は怒りをあらわにし、蔦重を蹴り飛ばす。吉原への裏切りといえる蔦重の訴えに養父は怒りを抑えられない。

「忘八にも程があんだろうが!」階段から蹴落とされた蔦重はふじ(飯島直子)に支えられたが、その額からは血が流れていた。「俺ゃ忘八でさ。けど親父様。俺ほどの孝行息子もいませんぜ。江戸の外れの吉原もんが日本橋のまん真ん中に店張んですぜ。そこで商い切り回しゃ、誰にも蔑まされたりなんかしねえ」蔦重は立ち上がり、着物を尻端折る(しりっぱしょる)と階段を1段1段上り始めた。

「それどころか、見上げられまさ。吉原は、親もねえ子を拾ってここまでしてやんだって! 大したもんだ、吉原の門だ、丑寅の門は懐が深えって。俺が成り上がりゃあ、その証しになる。生まれや育ちなんか人の値打ちとは関わりねえ屁みてえなもんだって。そりゃこの町に育ててもらった拾い子の一等でけえ恩返しになりゃしませんか。皆様、俺に賭けてくだせえ」一歩も引かない蔦重に、忘八たちはすっかり圧倒されている。「勝ち目は?」りつ(安達祐実)が沈黙を破った。「俺に足んねえのは日本橋だけなんでさ」ともに本を作る仲間たちは日本一だと蔦重は豪語した。

  • 『べらぼう』第23話の毎分注視データ推移

「髪が乱れて、口から血が流れても美しい」

注目された理由は、鬼気迫る蔦重の姿に視聴者の視線が「くぎづけ」となったと考えられる。

ふじやいね(水野美紀)に店を任せ、得意先の接待を受けたり、女郎屋のなじみ客の要望の仕事に消極的であったりと、市右衛門からすると蔦重はすっかり天狗になっていると思ったのだろう。一方、蔦重も市右衛門が小言を言ってくるのをわずらわしく感じていたようで、義理の父子の間には険悪な雰囲気が漂っていた。

そのような状況下で、吉原の店を置いて日本橋へ新たな店を出したいという蔦重の申し出は、市右衛門を激怒させるには十分だった。これまでもたびたび、市右衛門に階段から突き落とされてきた蔦重だったが、今回は折れることなく階段を上り、正面から自分の考えを主張する。その強い意志は市右衛門にも伝わり、最終的には吉原全体で蔦重の日本橋進出をバックアップすることになった。

SNSでは、「当時の江戸って本当に自由と差別が交差する場所だったんだな。蔦重の生き方が胸に刺さるよ」「蔦重見ていたら世の中を変える力ってたった1人の情熱からも始まるんだなって思える」「この階段上りとセリフのために今までの階段落としがあったんだな。カッコいいわ」と、本シーンにカタルシスを感じた視聴者が続出した。

また、鬼気迫る横浜流星の演技も大きな話題となっている。「横浜流星さんの演技、すごく魅力的。夢を追い続ける蔦重を演じる揺れ動く心模様がしっかり伝わってくるし、美しい」「親父さまに訴えるシーン、ほんとうにステキだった! 流星くんのすねからふくらはぎにかけた筋肉も超美麗」「髪が乱れて、口から血が流れても美しい」などと、横浜とその熱演に数多くの称賛が寄せられている。

余談だが、蔦重が階段を上る際に着物の裾をまくり上げていたが、これは「尻端折り (しりっぱしょり)」という長着の裾が邪魔になるときに行う処置。着物の裾を外側に折り上げて、その端を帯に挟み込む。長着の裾が邪魔になる時に行った。

また、蔦重が市右衛門を説得する際に口走った「丑寅の門」は北東を指し、鬼門と呼ばれ鬼や災いがやってくる方角と考えられていたようだ。吉原は、江戸城の鬼門に当たる丑寅に位置し、出入り口もその北東に置かれていた。今回亡くなった和泉屋三郎兵衛は、「干鰯問屋(ほしかどんや)」 だった。干鰯問屋とは、江戸時代において、鰯を加工して作った肥料を専門に扱う問屋のこと。当時は、農地の肥料として魚肥が非常に重要であり、その流通を担う干鰯問屋は、商業的に大きな力を持つ存在だった。