ロート製薬は6月10日、「こどもの目の白書2025」を公開した。調査は日本を含む世界5カ国(日本、中国、シンガポール、アメリカ、ドイツ)の小学生とその親を対象に行われた。

世界のこどもの裸眼視力を調査、日本は良好

日本、中国、シンガポール、アメリカ、ドイツの小学生のこどもを持つ親に調査したところ、裸眼視力1.0未満の小学生の割合が高かったのはシンガポールで71.9%、次いでドイツが62.9%、アメリカが54.7%、中国が46.5%、日本は39.1%で、調査した5カ国中では、日本が最も良好な視力を保っているという結果となった。

中でもシンガポールの数値は日本の約1.8倍ほどにのぼっており、アジアの中でも視力低下の傾向が特に深刻であることがうかがえる。また、欧州のドイツや北米のアメリカでも半数以上が裸眼視力1.0未満という結果であり、こどもの視力低下は全世界的に広がっている問題であることが明らかになった。

  • 小学生における裸眼視力1.0未満の割合

小学生のこどもの目について、「視力低下」や「眼精疲労」、「ドライアイ」といった問題があるか尋ねたところ、「ある」と回答した割合は中国が最も高く78.0%、次いでシンガポールが65.0%、アメリカが61.0%、ドイツが53.0%という結果だった。一方で、日本は41.0%にとどまり、5カ国中最も低くなっている。

日本は視力低下の割合も低く、かつ目の不調も比較的少ない(または認識されていない)ということがわかる。

  • 小学生のこどもに目の問題があると回答した割合

小学生におけるメガネやコンタクトの装用率を国別に見ると、最も高かったのはシンガポールで60.0%、次いでアメリカ57.0%、中国55.0%と続く。対して、ドイツは40.0%、日本は21.0%とやや低い結果となった。

この装用率が、実際に視力が低いこども(裸眼視力1.0未満)にどれほど行き届いているかを比べると、各国の矯正意識の違いがより明確に浮かび上がる。

中国は視力1.0未満の小学生のうち82.6%が矯正しており、視力低下に対する積極的な対応がうかがえる。シンガポール(70.3%)、アメリカ(68.1%)も同様に高い矯正率を示している。

一方で、ドイツは52.3%にとどまり、視力1.0未満でありながら矯正されていない小学生が半数近くいる状況だった。日本も58.8%と5カ国中下から2番目で、視力1.0未満の割合は最も少ない(39.1%)ものの、必要な矯正が十分に行き届いていない可能性が浮かび上がった。

  • 小学生におけるメガネやコンタクトの装用率

  • 裸眼視力1.0未満の小学生におけるメガネやコンタクトの装用率

小学生がメガネやコンタクトを装用している理由については、シンガポール、アメリカ、中国、ドイツの4カ国すべてで「近視」が最多だった。中でも中国は92.7%と突出しており、近視による矯正ニーズが極めて高いことがわかる。

一方で、アメリカでは「遠視」と「近視」がともに40.4%と同率1位で並んでおり、シンガポール(45.0%)、ドイツ(30.0%)でも遠視の割合が高く、これらの国では近視だけでなく遠視への対応も重要な課題となっていることがうかがえる。

  • 小学生がメガネやコンタクトレンズを装用している理由

視力低下による生活への影響と親子間ギャップ

視力が1.0未満の小学生本人に対して、視力低下による生活への影響を尋ねたところ、「黒板が見えにくい」「目が疲れる」「読書がしにくい」などが上位に挙がり、各国共通で"見えにくさ"が学習や日常生活に影響していることがわかった。

中でも中国は、7割以上のこどもが「授業中に黒板が見えにくい」と回答しており、視力低下による生活への影響が深刻といえる。

一方、ドイツでは「日常生活に影響はない」と回答した割合が29.5%と比較的高く、他国と比べて視力低下による影響の自覚が少ない傾向が見られた。

  • 裸眼視力が1.0未満であることで小学生のこどもが感じる生活への影響

裸眼視力が1.0未満の小学生に生活への影響を尋ねた結果と、それを親が把握していたかどうかを比較すると、国によって親子間のギャップに差が見られた。

アメリカ、シンガポール、ドイツでは、視力低下による影響のうち親が「把握していなかったものがある」と答えた割合が9割前後にのぼり、多くの親がこどもの困りごとに気づけていなかったことがわかる。

一方、日本や中国ではその割合が低く、親がこどもの視力による生活の不便を比較的よく把握している傾向が見られた。視力の不調に対する家庭内でのコミュニケーションや意識の違いが、国ごとのギャップに影響している可能性がある。

  • 裸眼視力が1.0未満であることによる生活への影響で把握していなかったものがある親の割合

「こどもの目のケア」各国の方針は?

小学生のこどもの目に対するケア率については、日本とそれ以外の国で大きな差が見られた。

中国では98.0%、アメリカ94.0%、シンガポール88.0%、ドイツ85.0%と、いずれも9割前後の親が目のケアをしていると回答しており、こどもの目の健康に対する意識の高さがうかがえる。

一方、日本のケア率はわずか26.0%にとどまり、5カ国中最下位で、 4位のドイツと比べても3分の1以下の水準だった。日本は裸眼視力1.0未満の割合こそ他国より低め(39.1%)だが、文部科学省の調査では1979年度の17.91%だった裸眼視力1.0未満の小学生は、2024年度には36.84%へと2倍以上に増加しており、適切なケアを行わないと、今後さらに視力低下が進行するおそれがある。

  • 小学生のこどもの目をケアしている割合

  • 裸眼視力1.0未満の小学生の割合

小学生の目に対するケアの内容を5カ国で比較すると、各国で対策の方針に違いが見られた。

中国は「屋外活動の促進」「視力検査」「デジタルデバイスの接触時間管理」だけでなく「睡眠」や「食事」など、ほぼすべての項目で高い実施率を示しており、幅広く充実したケアが行われていることがうかがえる。

シンガポールは裸眼視力1.0未満の割合が最も高いこともあり「メガネやコンタクトの使用」が最多で、続いて「デジタルデバイスの接触時間管理」や「適切な照明」など生活環境への配慮が目立った。

アメリカは「メガネやコンタクトの使用」や「定期的な視力検査」が上位に挙がり、矯正や検査など、眼科的なケアに重きを置く傾向が見られる。

ドイツは「視力検査」や「デジタルデバイスの接触時間管理」「適切な照明」などが「メガネやコンタクトの使用」よりも多く、視力矯正よりも予防的な取り組みに力を入れている様子が見て取れる。

日本はサンプル数が少ないため参考値ではあるが、多くの項目で他国と比べて実施率が低い傾向にあった。日常生活におけるケアの取り組みが進んでいない状況がうかがえる。

  • 小学生のこどもの目に対するケアの内容(中国、シンガポール)

  • 小学生のこどもの目に対するケアの内容(アメリカ、ドイツ)

  • 小学生のこどもの目に対するケアの内容日本)

世界のこどもの生活習慣の違い

デジタルデバイスの接触時間や屋外活動時間と視力には一定の関連があると言われていることから、今回の調査では各国の実態を比較した。

アメリカやシンガポールでは、こどものデジタルデバイス接触時間が長く、それぞれ96.9分、93.3分となっている。一方、中国は56.8分と5カ国中で最も短い結果となった。屋外活動時間については、ドイツが最長の115.3分、日本が最短の72.8分という結果に。日本は、デジタルデバイスとの接触時間が長く、外遊びの時間が短い傾向があることが明らかになった。

  • デジタルデバイスの接触時間(1日平均)

  • 外遊びやスポーツなどの屋外活動の時間(1日平均)

日常生活の中で取り組めるケアは?

調査の結果を受け、眼科医・松村沙衣子氏が以下の見解を示している。

今回の国際調査から、日本の小学生は5カ国中で最も裸眼視力が良好である一方、日常的な目のケアを行っている家庭の割合は26.0%と著しく低いことが明らかになった。松村氏によると、この背景には、「見えているから問題ない」という安心感や、学校健診結果に対する眼科受診率の低さ、また近視や視力低下への関心の低さがあると考えられるという。しかし、裸眼視力1.0未満の小学生は文部科学省の報告でも年々増加しており、今後、対策が遅れれば近視の低年齢化と進行リスクがさらに高まるおそれがあると、松村氏は指摘する。

各国の対策を見ると、中国は食事や睡眠、屋外活動に至るまで包括的なケアを実施している。これは2022年に中国が学童近視総合予防管理計画を掲げ、近視予防に関する教育の強化を行っている結果が影響していると考えられ、特にスマートフォンの使用の削減、睡眠時間や運動時間の増加、学校視力健診などに力を入れている。シンガポールも同様に生活環境の整備に重点が置かれ、視力矯正やデジタルデバイスの接触時間管理が実施されている。アメリカは眼科ケアを重視し、ドイツは予防的アプローチを取るなど、いずれも子どもの視力を守る取り組みが定着している。これに対し日本では、適切なケアや矯正が不十分な例も見受けられ、「今後の予防対策が急務である」と松村氏は述べている。

日常生活の中で取り組めるケアとしては、「1日2時間を目指した屋外活動」や「30分近業ごとの休憩」「正しい姿勢と視距離の確保(30cm以上)」「500ルクス以上の明るさの照明」「スマートフォンなどの使用時間の制限(小学校低学年は1.5時間以内、高学年は2時間以下)」「睡眠の質の向上」などが挙げられている。

近視の予防と進行抑制は家庭の意識と日常の工夫が鍵となる。また現在は、近視の進みを遅くできる治療もあるため、学校健診での指摘があった際には必ず眼科受診をするよう、松村氏は勧めている。