「このアルピーヌA310は、ただの趣味じゃなくて家族の思い出の中心なんだよ」

「次こそはフランス車が欲しかった。ちゃんとした”物語”を持った車を」

【画像】オーナーが一目見た瞬間に惚れ込んだ、アルピーヌA310(写真16点)

そう語るのは、1983年式のAlpine A310 Pack GTを所有するGallais Stéphane(ギャレ・ステファン)氏。これが彼にとって、3台目となるクラシックカーだ。2017年には1964年式のフォード・マスタング クーペをアメリカから輸入。続く2023年には、400ciビッグブロックV8を搭載したプリムス・サテライト セブリング・プラスを入手。これは当時、Chrysler Franceが正規輸出していためずらしいフランス仕様だった。

だが2024年末、とあるクラシックカーの集まりで、運命の出会いが訪れる。「あの時、A310を見た瞬間に惚れ込んだ。プリムスを売ってすぐに探し始めた」

求めたのは、よりスポーティな仕様として生産台数も限られるファクトリーオプションのパックGT(Pack GT usine)。

そしてついに、南仏トゥールーズで1台の個体と出会う。購入を即決し、その足で高速道路を一気に北上しパリまで走って帰ってきた。

「トゥールーズからパリまで約680km。出会ったその日に長旅を共にしたことで、この車との距離は一気に縮まった」

この一言に、このA310がオーナーにとっていかに特別な存在であるかが凝縮されている。

この個体は、オリジナルでブラン・ナクレ(白真珠色)のボディカラーを持ち、ボンネットにはジャン・ラニョッティ(Jean Ragnotti)のサインが入る希少車。3in1エキゾーストマニホールド、ハイカムシャフト、Devil製マフラーにより、V6 PRVエンジンは現代的な吹け上がりを手にしている。

A110からA310へ:進化するフレンチ・スポーツ

1970年代初頭、名車A110がラリーで世界を席巻するなか、アルピーヌは次世代のロードゴーイング・スポーツカーの開発に着手した。より広い市場に向け、快適性とスタイリング、そして実用性を加えた新しい流れが求められた。

1971年に登場したA310は、ポリゴン調のシャープなスタイリングに変更され、当初は直列4気筒を搭載。だが本領を発揮するのは1976年以降、ルノー・プジョー・ボルボ(PRV)共同開発によるV6エンジンが搭載されてからだ。リアに縦置きで搭載されるこの2.7Lユニットは、後期型A310にスポーツカーとしての確固たるキャラクターを与えた。

Pack GT Usine——スタイルと性能の象徴

オーナーがこだわった「Pack GT」は、1983年を中心に設定された特別装備パッケージ。

・ワイドフェンダー化された前後ホイールアーチ

・ボディ同色の大型リアスポイラー

・15インチのワイドアルミホイール

・スポーツサスペンション

などが特徴で、A310のラリーイメージを色濃く反映した構成となっている。外観の迫力はもちろん、機能面でもワインディングを自在に操る性能を持ち合わせている。

「息子のクレモンは13歳。F1とアルピーヌF1チーム、そしてピエール・ガスリーの大ファンなんだ。だからこの車は、ただの趣味じゃなくて、家族の思い出の中心になっているんだよ」

今、このA310は、親子の時間とフランスの自動車史が交差する、かけがえのない存在となっている。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI