「自動車文化」の本質がここにある|イタリア・コモ湖畔で開催された「フォリ・コンコルソ」は要注目!

4回目を迎える「フォリ・コンコルソ」が5月24~25日の週末、イタリア北部はコモ湖畔に位置するヴィラ・グルメロとヴィラ・スカートにて開催された。

【画像】クラシカルでエレガント!4回めながら存在感を増す、初夏のイタリアのクラシックカーイベント「フォリ・コンコルソ」(写真20点)

「フォリ・コンコンコルソ」とは、直訳するなら”コンクールの外”とでも言えようか。まさに同じ日程にて、フォリ・コンコルソの会場から徒歩20分ほど離れたところで、コンコルソデレガンツァ・ヴィラデステが開催されていることから、その番外編とでもいうニュアンスでの命名だ。ミラノサローネ(ミラノデザインウィーク)が展示場で開催されるのと同時期にミラノ市内で、数々のインディペンデントな展示やイベントが開催され、それらを「フォリ・サローネ」と称していることにかけた”洒落”でもある。

とにかく、世界最古とも言われる自動車コンクールデレガンスが、クラシカルに、かつ伝統的なエレガンスを評価する場として存在していることに対する、ある種のアンチテーゼとも言えよう。このフォリ・コンコルソはミラノ発祥のラグジュアリーブランドであるラルスミアーニのCEO、グリエルモ・ミアーニのエンスージアズムから誕生したものであり、こちらもエレガントということではヴィラデステのイベントに負けてはいない。

コモ湖を望むヴィラ・デル・グルメロとヴィラ・スコータの自然に満ちた会場で開催された2日間は、アイコニックなコンペティションマシンやハイパーカーの展示だけでなく、パートナー企業の提供によるユニークな体験や、世界の自動車業界のキーパーソンたちの思い描くアートなどが満載だ。イノベーション、スピードというコンセプトを贅沢に表現したイベントのコンセプトは型にハマったものではなく、多彩な興味を満足させる。

であるから、その客層もバラエティに富んでおり、カーマニアのみならず、若い女性層がその独特の世界観を楽しんでいる姿も多く見られた。一般の入場料は180ユーロ(1日)と少々お高いが、若年層の割引も用意され、一日ゆっくり楽しめることを考えれば、当地のイベント参加フィーとしては許容範囲であろうか。

「フォリ・コンコルソは、私たちが”自動車文化”と呼ぶものの本質を表現することを目的としています。エンジンの気筒数の違いや特定の場所に最適なネジの種類を知ることよりも、自動車の夢のバックグラウンドにあるすべてを理解することが重要なのです。レースカーや一般的な車の技術革新、唯一無二の名車を作り上げるクラフトマンシップといったものを再認識することがフォリ・コンコルソの原動力になります。自動車文化の本質を次世代に継承することが重要なのです」と主催者グリエルモ・ミアーニは語る。

今回、グリエルモ・ミアーニとチーフキュレーターのアンドレア・ルザルディが選んだテーマは『Velocissimo(=Very fast)』。つまりイタリアのモータースポーツを祝福しようというコンセプトであった。会場であるヴィラ・グルメロとヴィラ・スカートの庭園は、かなりの距離があり、高低差もある。その山道に沿って、とんでもないレアな個体が無造作に並ぶワケであるから、エンスージアストはエキサイトしないワケがない。結果として結構な坂道を何回も行ったり来たりすることになる。今回は天気にも恵まれ、どのシーンもまさに目を楽しませてくれるものばかりであった。

『Velocissimo』のプレゼンテーションはヴィラ・スコータのエントランスに設けられた、歴代グランプリマシンが並ぶスターティング・グリッドからスタートする。先頭に並ぶのはニーノ・ファリーナがステアリングを握ったアルファロメオ・ティーポ159アルフェッタだ。続いて1954年型マセラティ250F、1961年にフィル・ヒルがスクーデリアのドライバーズタイトルとコンストラクターズタイトルを獲得した1961年型フェラーリ156。やはりフェラーリには華がある。ベルガーとアルボレートがドライブしたF187-88が並び、出展スタッフはその栄光のヒストリーを淡々と語り、周りの人垣は静粛にそのコメントを噛みしめる。なんともワクワクする光景ではないか。

ダラーラによるスクーデリア・イタリアF188やマウロ・フォルギエリの手による1991年のランボルギーニ291もグリッドに続く。そしてF1のスターティング・グリッドを抜けると、その戦歴を表すかのようにエージングの利いたフェラーリ250GTOが鎮座し、モナコGPをペースカーとして走ったランボルギーニ・カウンタックLP400Sが並ぶ。

かと思えば、2024年のル・マン24時間レースで優勝を飾った499P、IMSAシリーズで活躍した重要なフェラーリF40 LM、ランボルギーニとして初めて開催したワンメイクレース、スーパートロフェオのために作られたランボルギーニ・ディアブロSV-Rといったエンデュアランス・レースのアイコンが並ぶ。そう、フォリ・コンコルソは単なるドリームカーの集まりの域を超えていることは間違いなく、その展示内容には唸らせられるばかりだ。まさにもうひとつのヴィラデステとして、”フォリ”を名乗るに十分な内容ではないだろうか。

”あちら”がエレガンスの頂点を表現するなら、こちらはイタリアのモータースポーツ史の最高峰を魅せている。そして、同時にモータースポーツにおけるエレガンスとは何か?をも、じっくりと味あわせてくれる。

アルファロメオがヴィラ・スコータを貸し切って33ストラダーレにフォーカスを当て、彼らのモータースポーツの系譜を見せてくれるなら、マセラティはMCXtreamaとGT2ストラダーレ、そして往年のエルドラドやMC12でマセラティコルサ健在をアピールする。

そして見逃せないのが、ランチアが歩んだラリー史の総括である。ランチア・デルタ・インテグラーレ、ランチア・デルタS4、037ラリーはもちろん、ランチア・フルビアF&Mフルヴィエッタなどレアな個体が並ぶ。先だってもオートモビル・カウンシルで多彩な車両を展示してくれた故ジーノ・マカルーゾのコレクションからの個体も持ち込まれ、よくぞこれだけ集めたと感心だ。

とにかく会場には多くのギャラリーが集まり、イベントとしては大成功であろう。年々、その存在感を高めているのは間違いない。前述のアルファロメオやマセラティに加えて、ポルシェ、パガーニやケーニグセグなど現行モデルの展示も見逃せない。そう、現行モデルどころか、アルピナの創業家による ボーフェンジーペンは、ここフォリ・コンコルソでワールドプレミアまで行ったのだ。

5月の週末はコモ湖で、この二つのイベントが、お互いに切磋琢磨して、より興味深い存在となっていくのは素敵なことだ。今まで、コンコルソデレガンツァ・ヴィラデステで一日を過ごしていた貴殿も、ぜひ少し早起きしてフォリ・コンコルソを満喫してはどうだろうか。特にフォリ・コンコルソは夜8時までやっているから(注:この時間でも当地ではまだ十分明るい)一日を有効に使うことができるのだ。

文:越湖信一 写真:越湖信一、フォリ・コンコルソ

Words: Shinichi EKKO Photography: Shinichi EKKO, FuoriConcorso