現在放送中の連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、柳井嵩(北村匠海)の恩師・座間晴斗を演じた山寺宏一にインタビュー。演じた座間先生をどのように捉えていたのか、また、印象的だった図案科の歌を歌うシーンの裏話などを聞いた。
112作目の朝ドラとなる『あんぱん』は、漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さん夫婦をモデルに、何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描く愛と勇気の物語。小松暢さんがモデルのヒロイン・朝田のぶ役を今田美桜、やなせたかしさんがモデルの柳井嵩を北村匠海が演じ、脚本は中園ミホ氏が手掛けている。
アニメ『それいけ!アンパンマン』でジャムおじさん、めいけんチーズ、カバお、かまめしどんと数多くのキャラクターを演じている山寺が本作で演じた座間晴斗は、嵩が通う芸術学校の図案科教師で、嵩の生き方に大きな影響を与えた恩師。やなせさんの恩師・杉山豊桔さんがモデルとなっている。
学生たちに真の自由を説く座間先生について、山寺は「やなせ先生の本の中に、(座間先生のモデルとなった)杉山先生の言葉として『君たちはすでに紳士だ。自由に責任を持ちたまえ』と書かれていて、そういう気持ちが座間先生にもあるんだろうなと。美術・芸術の分野でやるからにはいろんなものを吸収した方がいい。それをはっきり口にして生徒たちに言っていた人だなと思いました」と解釈。
「『好きにしていいけれど無責任ではいけない』。何よりも『自分の心の声をちゃんと聞け』ということなのかなと。それはずっとやなせ先生がおっしゃってきた『アンパンマン』のテーマにもあり、このドラマでも繰り返し言われている『なんのために生まれて なにをして生きるのか』につながっていくのかなと感じました」と、座間先生を通じてやなせ先生の思いを受け取ったという。
「ワッサワッサワッサリンノ モンチキリンノホイ」という不思議な歌詞の図案科の歌「ワッサン」を歌うシーンも印象的だったが、この歌は、やなせさんが通っていた東京高等工芸学校の図案科の歌で、実在するものだ。
銀座のカフェで嵩や辛島健太郎(高橋文哉)ら学生と「ワッサン」を歌っていた時、陸軍幹部から「ふざけた歌はやめろ」と言われ、座間先生は「我が校の図案科で歌い継がれた名曲ですよ」と言い返し、「やめんか!」と激怒されるも、「やめん!」と歌い続けた。
山寺は最初、「やめん!」に力を入れすぎてしまいNGに。演出担当から抑えるように言われたという。
「ここに座間先生らしさが出ていると思ったので、ものすごく意気込んでやったら、『やりすぎてます。こういうところだし、大人なんですからもっと余裕を持ってください』って(笑)。考えてみたら、あんなところで歌っていたら多少言われてもしょうがないなと」
このカフェのシーンが山寺のクランクインだったそうで、「歌うところが最初だったので、意気込みすぎて言い返してしまいました」と笑った。
座間先生が「ワッサン」の歌詞をすべて黒板に書き出し、嵩と2人で歌詞の解釈を語る場面も描かれた。
「うれしいじゃないか みんなで騒ごうぜ 難しい理屈なんて茶化してしまえ 自由に生きよう」(嵩) 「ワサビ酒ひっかけ シャッポふってブラボー」(座間) 「鬱な気分よ バイバイ!」(嵩)
これは実際にやなせさんが解釈していた歌詞の意味で、山寺は「そういう思いを込めてみんなにも歌ってほしい。あれは先生の実際の解釈なので、僕はそう思って歌っていました。たぶん先生も、いろいろあった時にあの歌を口ずさんでいたから、本にもお書きになって、覚えていらしたと思う」と語る。
そして、「ワッサワッサワッサリンノで紅白に出たい」と『NHK紅白歌合戦』を目標に掲げ、「バズってくれないかな(笑)」と期待。「『アンパンマンのマーチ』と共に皆さんの心の友になっていただけたら。本当に嫌な気持ちが吹き飛びますから。1回覚えると気持ちいいんですよ」と呼びかけた。
1961年6月17日生まれ、宮城県出身。1984年、声優を目指して東京俳優生活協同組合の養成所に入所し、1985年、OVA『メガゾーン23』で声優デビュー。以降、声優として数々のアニメのキャラクターや洋画の吹き替えを担当。俳優としても、映画『あさひるばん』(2013)、連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022)など、多数のドラマや映画に出演している。
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