「SNSでの町おこし」はここ数年盛んになっている。近年では、長崎県南島原市が、満島ひかりが天草四郎を演じるブランディング動画を制作し、それが全国的なニュースにもなった。しかしこれは数少ない成功例であり、実際はSNSを使った「町おこし」をどうすれば盛り上がらせるか、苦労している自治体も多いだろう。そこで「ナウル共和国政府観光局(公式)」のアカウントの中の人に取材。そのヒントをもらった。
――Xアカウント開設のきっかけを教えてください。
当局は2020年10月1日に設立されました。コロナ禍中ではありましたが、ナウル観光公社がナウルとは所縁の深い日本市場向けの日本事務所をつくろうとしたことがきっかけです。予算もありませんし、コロナ禍中でしたので、まずは費用のかからないX(当時はTwitter)アカウントを開設することとなりました。今では、中野区で実際の事務所の改修を進めております。
――当初、これだけ話題になることは予想されてましたでしょうか? 最初にバズるきっかけとなった投稿内容や、どのようにプロデュースされていったのか。またご苦労など、振り返って詳しくご教示ください。
話題になるとは予想しておりませんでした。最初はたしか、ナウルの人口1.2万人を目指したいですというような趣旨の投稿をしたところ、皆様が応援してくれてバズりました。あまり苦労はないのですが、国土が小さく、店舗や観光スポットも少ないので投稿ネタが尽きないようには気を付けています。
――ズバリ、ナウル共和国の魅力とは?
ナウル人の素朴な優しさ、ゆったりとした島の時間、美しい海でしょうか。
――バズってうれしかった投稿は?
TOKYO2020でナウル選手団が入場した時でしょうか。10万いいねを超えたような気がします。日本の皆様がナウルを知ってくれたんだと思って感動しました。あとは、変な投稿でバズっているのも多いので、何とも言えないのですが、フォローバック30万達成とかを投稿させていただくと、皆様の応援の言葉をもらえてありがたいです。
ナウル共和国入場
— ナウル共和国政府観光局(公式) (@nauru_japan) July 23, 2021
――ポストを見ますと、「ナウル共和国は大阪環状線の中に入る」、フォロワー数があの都道府県の人口に到達、ナウル共和国とあの都道府県の面積比較、など日本の地方と絡めたポストも注目されています。ご担当者はどのような発想でポストされているのでしょうか。
これも思い付きの企画なのですが、自分の地方や地域の話がでますと自分事として捉えてくれるような気がしますので、無理やり関係性をつくるというか、関係人口を人工的に増やしていくという発想ですね。
Q. ナウルは大阪環状線に入りますか?
— ナウル共和国政府観光局(公式) (@nauru_japan) May 5, 2024
A. 少しはみ出る pic.twitter.com/QRF1z69Jgm
【速報】
— ナウル共和国政府観光局(公式) (@nauru_japan) June 2, 2025
フォロワー数が鳥取県民人口52万6338人に到達
※一部の鳥取県民様の方々からご指摘がありましたが、かねてより万博を中心に鳥取県庁様と広報連携を進めており、鳥取県民様の方々を馬鹿にするような意図はございません。あくまで客観的な数値をお伝えしました。ご理解いただければ幸いです。 pic.twitter.com/ZL7GUIUDW2
――「バズらせようと思えば思うほどバズらない」と書かれてありましたが、バズった例、バズらなかった例を挙げながら、その工夫や、バズる難しさ、見つけられたコツなど教えてください。
これも難しいですね。具体例は覚えてないのですが、なんかこれはいけるだろうと思うほど、だめで、なんとなく自然に投稿したほうが成功している印象です。
――現在、実際に日本からの観光客は増加しましたでしょうか? またグッズ通販販売なども。効果を教えてください。
日本人観光客は、コロナ禍前は年間数名でしたが、現在は二桁になっています。しかしながら、円安と航空運賃の関係で、これ以上増やすには長期戦になるかなと考えていますので地道に広報を続けていきます。グッズはボチボチですね(笑) 一個も売れない日もありますので、是非、買ってくださいね!!
【ナウル政府観光局発表】
— ナウル共和国政府観光局(公式) (@nauru_japan) June 4, 2025
ナウル共和国政府観光局は、日本の皆様が東京都西之島とナウル島の面積を急に比べなければならなくなった時に、瞬時に使用可能な最新機器「ナウル西之島比較缶バッジ」の開発に成功しました。ここに謹んでご報告申し上げます。 pic.twitter.com/bspe40k3Tf
――万博のパビリオンへのお客様の入りは現状、どれぐらいありますでしょうか。「ナウルの台座」効果を教えてください。
人員と予算不足で入場のお客様を数えていませんが(笑)、万博協会の方によると、ナウル台座や当パビリオンを目的にいらっしゃる方は多いようです。毎日、数百人はいらっしゃっているのではないでしょうか。
――以前、インフルエンサーにお話を伺ったとき、バズったりフォロワーが多くても、コアなファンや集客力はフォロワー数の100分の1あればいいほうだとおっしゃられていました。どんな課題を感じてらっしゃるでしょうか。
それは仰る通りだと思います。当アカウントで換算すると5,200人ということですよね。平均的ないいね数を見るとそんな気がします。課題ですか……。お陰様で既に52万を超える方にフォローいただいており、見て知っていただけるだけでありがたいですし、それが目的ですので、特に困っていることはありません。
――国おこし、町おこしのためのXの重要性、大切さについてどのように考えてらっしゃいますか?
重要だと思います。Xは特に日本人のアクティブユーザーが多いかつ無料で始められますから、特に日本の町おこしや外国政府の宣伝には積極的に活用すべきだと思います。
――SNSで町おこしをしたい地方自治体のなかには、「何もアピールするものがない」と悩まれたり、もしくは実直に観光案内をしすぎて、SNSユーザーに受ける内容でなかったりすることもあると思います。参考までに町おこしアカウント運用のアドバイスを含め、お願いします。
アピールするものが少ないというのは、ナウルも国土が小さく、オーストラリアのコアラのような特別にアピールできる動物がいるわけではないのでよくわかります。確かに実直な観光案内は重要ですが、それは押しつけの広告になってしまう部分もあるかと思います。こちらが勝手に見せたいだけですからね(笑) ですから、当アカウントはナウルの観光情報をあまり発信していませんし、それについてお叱りも受けています。でも、たまには観光情報をしっかり出しています。
アドバイスですか? これは企業秘密なので(笑)あまり教えたくないのですが、役所の方は真面目なので町おこしや観光を正面に捉えすぎちゃっている気がします。そうすると似たような投稿ばかりになってしまいますよね。そういうような事態に陥らない方法はいくつかあります。例えばですが、名物料理、食材、昆虫、魚、植物、古墳等なんでも地場のものを活用することです。必ずどの分野にも、特定のファンやマニアの方がいます。特にXのいいところは本当に専門の学者さん、フリーで在野の研究者がいらっしゃって、またSNSの仕様的にやり取りもしやすいです。そういう方が勝手に新発見をして、情報を広めてくれることもあると思いますよ。
その町の、様々な小さなものに焦点をあてて一定期間、深堀してフォロワーの方と交流をしながら情報を逆にいただくというのも面白いのではないでしょうか。あと党派関係なく町の議員全員や役場管理職に適当に町紹介や自分の失敗経験の漫談を動画で投稿するのもありです。うちの町には〇〇川があります!! ドン!! (画像だけ)よりは面白いから。
他にもフォロワーを増やす方法はたくさんありますので、地方自治体の広報部門から御相談があれば有償でお受けしますよ(笑) なんちゃってネ……。
……回答は以上となる。ちなみに、同アカウントによれば、「実はナウル共和国を訪問したことがある方々・タモリさん・赤塚不二夫さん・ゴルゴ13さん」とのこと。ナウル共和国へ行くには日本からは飛行機に乗り、オーストラリアのブリスベンまで約9時間、そこからナウルまで約5時間かかる。それでも年間、二桁は日本人観光客が訪れるとか…。「町おこし」を考えている自治体は是非、参考にしてもらいたい。
実はナウル共和国を訪問したことがある方々
— ナウル共和国政府観光局(公式) (@nauru_japan) May 14, 2025
・タモリさん
・赤塚不二夫さん
・ゴルゴ13さん