中部地域の先端テクノロジーに関わる企業の取り組みを伝え、人材交流を促す新しいイベント「TechGALA Japan」(以下、TechGALA)が船出の時を迎えました。2月4日から3日間、名古屋市内で開催されたイベントを現地で取材してきました。

  • 中部地域に集まる日本の先端テックを世界に発信するイベント「TechGALA Japan」が名古屋市内で開かれた

中部発の先端テクノロジーを育てて世界に発信

TechGALAは愛知・名古屋・浜松地域のスタートアップ・エコシステムを作る目的で結成された「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」が主催するイベントです。今回が記念すべき第1回の開催となりました。

同地域は、コンソーシアムの一員である中部経済連合会に加盟する企業、名古屋大学と行政がそれぞれの立場からテクノロジーの発展に力を尽くしてきました。2024年10月には、名古屋市の鶴舞地区に日本最大級のオープンイノベーション拠点「Station Ai」も開業しています。

TechGALAの総合プロデューサーに就任した奥田浩美氏に、イベントが実現した経緯を聞きました。

  • TechGALAの総合プロデューサーを務める奥田浩美氏

「この地域には、先進的な企業や学術研究機関が集まっています。Station Aiのような立派な施設も完成しました。残る足りないピースは何かと考えた時に、優秀な人材や研究開発のために必要な資金を集めることであると考えました。ひと息に達成できることではありませんが、私たちが目標を実現するために立ち上がったことを知らせるためにも、最初に爆発的なインパクトをもたらしたいという思いからTechGALAの開催が決まりました」(奥田氏)

「GALA」(ガラ)とは、フランス語で「祝祭・祭典」を意味する言葉です。イベントの名付け親になった奥田氏が、GALAという言葉に込めた思いを次のように語ります。

「いま、世界的にGALAパーティーというかたちで、富裕層やインフルエンサーたちが課題解決を目的とするプロジェクトを立ち上げ、仲間づくりや情報発信のためのイベントを精力的に開催しています。イベントをプラットフォームとして、富裕層の個人による投資文化、あるいは寄附文化のようなものを日本にも少しずつ根付かせたいと私は考えています。TechGALAも、ある一定の成功を収めて富を手にしている人たちが、次世代のためのペイフォワードとして社会に貢献できる機会になり得ると思います」(奥田氏)

  • 海外のスタートアップ企業もTechGALAに多く参加。ピッチセッションで独自の技術やサービスを紹介しました

TechGALAには「地球の未来を拓くテクノロジーの祭典」というテーマがあります。3日間の開催期間中、名古屋市内の複数の施設が会場になり、テクノロジー業界の著名人、スタートアップの代表者450名以上が登壇する基調講演やピッチセッションが開催されました。同時に、参加者によるネットワーキングイベントやワークショップ、勉強会などサイドイベントも賑やかに行われました。奥田氏は「コンテンツの質と量の両方にこだわり、圧倒的に充実させること」にもプロデューサーとして注力したと振り返ります。

スマートメーターとAIを活用する見守りサービス「eフレイルナビ」

イベントのメイン会場である名古屋市内・栄地区の中日ビルとナディアパークには、参加企業がブースを展示。筆者が見つけたいくつかの面白い展示をレポートします。

地域を支える総合エネルギーサービス企業である中部電力もTechGALAに参加していました。同社では、高齢者宅の電気の使用状況をモニタリングして、生活者の健康と安全を見守る「eフレイルナビ」というサービスを2023年4月にスタートしています。

  • 中部電力が提供を開始した、スマートメーターとAI解析を活用する見守りサービス「eフレイルナビ」

サービスの名称でもある「フレイル」とは、日本老年医学会が2014年に提唱したFrailty(虚弱)という概念に由来しています。フレイル状態とは、すなわち身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。一人暮らしの高齢者など、フレイル状態が懸念される家庭に設置したスマートメーターの使用量を定期的にチェックし、さらにデータをAI解析にかけます。異状が見られた場合は、eフレイルナビを導入する自治体が職員を派遣して、見守り・声かけを行う支援サービスとの連携にテクノロジーを活用する事例です。

eフレイルナビは個人の生活者ではなく、自治体が契約して、生活者の個人情報を安全に管理しながら活用することを前提としたサービスです。2025年現在で、三重県東員町、長野県松本市をはじめ、全国13の自治体に採用が広がっています。同社のスタッフによると、電気データがあれば中部エリア外の自治体でも利用できることから、TechGALAへの出展を全国に向けたサービス紹介の契機にする狙いもあったそうです。スマートメーターの使用状況をAI解析するサービスなので、生活者が宅内にカメラやセンサーを置かなくても「見守り」ができるということで、自治体と利用者の双方からポジティブな反響があるそうです。

自動車部品の端布をライフスタイル雑貨にアップサイクル

愛知県清須市に拠点を構える豊田合成は、エアバッグや自動車のハンドルを製造販売するメーカーです。TechGALAには、エアバッグの製造後に余った端布をバッグや小物入れなどの商品にアップサイクルした同社の取り組みにスポットライトを当てていました。

  • 豊田合成のライフスタイルブランド「Re-S」の商品。自動車の部品に使う素材をアップサイクルして作られています

豊田合成では、2020年に独自のアパレルブランド「Re-S」(リーズ)を立ち上げ、ライフスタイル雑貨を中心に多数の商品を展開しています。エアバッグの生地は気密性を高めるため、表面にシリコンを塗布します。不要な端材は、このシリコンをあとから取り外して通常のポリエステル生地に戻すことが難しいため、Re-Sのブランド商品を作るまでにもさまざまトライアルアンドエラーがあったそうです。現在は、アシックスのシューズにエアバックの生地を活用したり、他業界とのコラボーレションにも力を入れています。

  • TechGALAのエコバックを制作。パートナー企業とのコラボレーション商品にも力を入れています

豊田合成は2019年1月に、スタートアップへの投資を専門に行うコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立しました。同社から出資を受けて、2023年2月に起業した福岡県・北九州市のロボティクス系スタートアップ、TriOrb(トライオーブ)もTechGALAに参加していました。

トライオーブが出展していたのは、球体のホイールとモーター駆動機構を載せて、全方向型に自律移動ができるロボット「TriOrb BASE」です。本機の技術をベースに、1台で最大1トンの荷物を運ぶロボットが作れるそう。トライオーブはロボットのハードウェアだけでなく、ソフトウェアも手がけるメーカー。2台のTriOrb BASEを協調動作させて、丈の長いものをロボットで運搬するソリューションなど、顧客のニーズに合わせた柔軟なカスタマイゼーションができることも同社の強みです。

  • トライオーブの自律走行ロボット「TriOrb BASE」

  • 3台のモーターと球体ホイールにより全方向へ自在に移動します

  • 耐久性の高いウレタン製のホイールを採用

工場作業員の安全を支援するLED照明技術

パイフォトニクスは、浜松市で2006年に設立した光学機械器具のメーカーです。小さなキューブ型の業務用LED照明「ホロライト」シリーズは、太陽光線と同程度で対象を強く、まんべんなく照らせる擬似平行光を発生できます。

  • 太陽光線と同等の疑似平行光を発生させる小型LED照明「ホロライト」

強いLED光源をレンズなどを使って曲げ、さまざまな形の光模様を作り出すこともできます。例えば、実線・点線の円や矢印はお手のもの。ホロライトを工場内に設置して、色とりどりの光で「立ち入り禁止」の標識や位置決めのためのガイドラインを描くツールとして採用する企業も多くあるそうです。ホロライトシリーズはLED光源を採用しているため、低発熱・低消費電力・高安全性を実現できることも特徴です。

  • 工場の光による安全ガイドとしても活用されています

  • 矢印や円弧など光で色と形状を明確に描けます

現在、国内では自動車本体や関連部品メーカー、鉄鋼業界の工場などが多くホロライトを採用しているそうです。同社のスタッフは、TechGALAのようなイベントに出展して、海外から足を運ぶ来場者の反応も見たかったといいます。今回はその成果も十分に得られているそうです。

高い指向性と視認性を持つLED照明の技術を、エンターテインメントを目的とするイベントに活用する道も開拓が進んでいます。映像作家と照明デザイナーがホロライトを使い、海岸に打ち寄せる波に青い光を当てて幻想的な光景を作り出すアートプロジェクト「NIGHT WAVE」も開催されました。

未利用の食品を発酵させて新たな価値を作り出す

ファーメンステーションは独自の発酵技術により、残さ(食品や飲料の残りかすなど)のような未利用バイオマス原料から、微生物の力を借りて機能性バイオ原料を作り出す技術を研究開発しています。2023年には、経済産業省が運営するインパクトスタートアップ育成支援プログラム「J-Startup Impact」にも選定されました。続く2024年には、東京都が主催するアジア最大級のスタートアップカンファレンス「SusHi Tech Tokyo」で最優秀賞に選ばれています。

  • ファーメンステーションがコーヒーかすを使って試作した香料素材

TechGALAに出展したブースには、コーヒーかすを多段階発酵させて作った香料の試作品などを置いていました。筆者も匂いをかいでみましたが、ブランデーのように甘く上品な香りが楽しめます。お菓子などの香り付けに使えそうです。

同社はパートナー企業と組み、アップサイクル素材を活かしたアイテムの共同開発にも力を入れています。柑橘系果皮を使った香料は、宝酒造が販売するアルコール飲料に「甘すぎないドライな風味」を与えてくれるフレーバー素材として採用されています。ファーメンステーションには、未利用資源の選定から発酵設計、成分の評価と初期製造までワンストップで提供するノウハウがあります。同社のスタッフは「これからも多くの企業と一緒に、新規性があり、なおかつ持続可能なものづくりに取り組みたい」と語っていました。

  • ファーメンステーションが作った柑橘系果皮をもとにした香料は、宝酒造の商品に採用されています

  • 残さを原料にしたアップサイクル商品の実験的な試みも各社と実施しています

第2回のイベント開催も決定

「中京地区のテクノロジー企業はたくさんの強みを持っているのに、これまでは十分な発信ができていなかったと思っています。TechGALAを開催するもうひとつの大きなテーマは、私たち日本人が自身の地域社会に対して誇りと愛着を持ちながらシビックプライドを高めるきっかけを作ること。最初は小さなインパクトかもしれませんが、TechGALAにご参加いただいた多くの方々に、イベントを通じて自分たちの地域や街には世界に誇れる企業とテクノロジーがあり、人材がいることを意識してもらえれば嬉しいです」

奥田氏はグローバルな交流を促進して、中部地区の最先端を世界に発信する拠点としてもイベントを機能させたいと語っています。

イベントを主催するコンソーシアムは、2026年に第2回のTechGALAを開催することを発表しました。世界中にTechGALAの名前と注目が広がることを期待しましょう。