アメリカ大統領選の明暗を分けたのは“ポッドキャスト”だった? ニューヨークZ世代が独立型メディアの台頭を考える
ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。

11月27日(水)のテーマは「大統領選で勝利をもたらしたのはセレブではなくポッドキャスト アメリカZ世代がその理由を討論」。アメリカにおけるポッドキャストの影響力について、「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が意見交換しました。


※写真はイメージです



◆巨大メディアと化したアメリカのポッドキャスト

アメリカのポッドキャストは、従来の伝統的メディアとはまったく違う視点を提供してくれる独立型メディアとして非常に高い人気があります。なかでも、常にチャートのトップにいるジョー・ローガンは、Spotifyフォロワー数が1,450万人で、YouTube登録者数が1,860万人と、絶大な支持を集めています。リスナーの8割が男性で18〜34歳が中心です。

アメリカの若者たちに人気のポッドキャスト番組に、ドナルド・トランプ氏は集中的にゲスト出演。ジョー・ローガンのポッドキャストでは、トランプ出演回の再生回数は5,000万回を突破しています。激戦のアメリカ大統領選で勝利を掴んだのは、ポッドキャストの影響が大きかったと考えられています。ニューヨークZ世代で構成されたラボメンバーたちに意見を聞いてみました。

メアリー:たしか、ペンシルベニア州のニュース局が若い男性にインタビューしたときに「ジョー・ローガンのポッドキャストにトランプが出ていた回を聴いて、その影響で投票に行った」と答えていた。彼らはただトランプの話を聞いて、「カッコいい。腐った社会を綺麗にしてくれてありがとう」ってなるんじゃないかな。トランプはエイディン・ロス(ポッドキャスター)の番組にも出演したよね。

トランプの熱烈な支持者で、総合格闘技団体UFC代表のダナ・ホワイトが、当選のスピーチ中にポッドキャスターに向けて感謝の言葉を言っていたでしょう? エイディン・ロス、ネルク・ボーイズ、ジョー・ローガン、すべてが新しいメディアで、彼らが若い層をどんどん取り込んでいるんだ。今はもう、こういう独立メディアの時代なんだよね。

「ジム・ブロ」と呼ばれる、男はたくましくあるべきと考えている男たちって、みんな独立メディアを聴いているよね。そもそも、普通のニュースなんてもう誰も聴かない。テレビがないからね。

カマラがポッドキャストに出たのは1回だけ。「call her daddy」という女性向けの番組だった。ジョー・ローガンのポッドキャストにも出る予定だったけど、結局出なかった。そのために多くの人が「なんで出ないの!?」と怒ったほどだった。

ケンジュ:人は独立メディアをより信頼するんだよね。ジョー・ローガンのようなオルタナティブなメディアは、数日で6,000万回も再生されるんだよ。CNNは一晩で100万回再生がやっとって感じじゃない。

それに、CNNはただ台本を読んでいるだけだし、スポンサーが巨大な医薬品企業だったりするから、薬を売りつけるためにやっているのではないかって思ってしまう。それよりも、人間的なつながりを感じられるポッドキャストのほうがより信頼できるんだよ。

シェリー:民主党のカマラには、テイラー・スウィフトやビヨンセみたいなセレブが応援したけど、それは影響しなかったの?

メアリー:影響はない。どれも本物とは思えないからね。

ネットをのぞけば何もかもわかってしまう時代。若いZ世代は政治にも“リアル”を求めます。それに応えているのがポッドキャストです。「こうした人気ポッドキャストは、はっきりモノをいうクセの強いゲストと、台本のない歯に衣着せぬトークを数時間に渡って繰り広げます。それに比べると、ちょっと出てきただけのセレブが嘘っぽく感じるのは当然かもしれません」と、Z世代専門家のシェリーはラボメンバーの発言を分析します。


(左から)ミクア、シェリー、ヒカル、ノエ、シャンシャン、メアリー/©NY-Future-Lab



◆メディアのあり方が問われた大統領選となった

ポッドキャスト番組のリスナーの多くは、ジム・ブロ、すなわちジムに通って体を鍛えている男たちではないか、という指摘がありました。「男は強くたくましくあるべき」という、伝統的な“男らしさ”の復権が若者たちに響いて、トランプ勝利につながったと考えられています。しかし、この動きが必ずしもいいことではないという意見も出ました。

ノエ:たとえば、アンドリュー・テイトのような、多くの若い男性に強い印象を与えるインフルエンサーがいるよね。彼が主張しているのは、男は「家庭の長であるべき」で、「強くて体格がよく」て「背が高い」ってこと。

だから、みんな彼に惹かれるんだ。その人柄に惹かれるから、彼がいうことに耳を傾けるようになる。彼が「女性は家のなかにいるべきだ」と言えば、それをみんなそのまま鵜呑みにする。

メアリー:彼らは本当に面白いからね。その影響でトランプに投票しようという気になるのは、そんなに難しいことではなかったと思うな。だけど、笑ってばかりはいられないよ。あれからネットでは女性に対して「お前の身体のことを決めるのは俺だ」みたいな、嫌なジョークが出回っている。

それってまるで、「言いたい放題で構わない」と強気になっているみたい。このギャップをどう埋めればいいかわからない。きっと、分断はなくならないんだろうなって思ってしまう。

「お前の身体のことを決めるのは俺だ」というのは、女性たちが人工妊娠中絶の権利を取り戻すためのスローガンとして使っている「私の身体のことを決めるのは私自身」というのをもじったもの。メアリーはこうした男たちの強気で女性蔑視とも言える態度が、今後レイプなどの性犯罪の増加につながるのではないかと不安を感じています。

こうした男性中心主義とも言える価値観を持つ男たちのゆるやかなコミュニティは、「マノスフィア」と呼ばれています。「ジョー・ローガンやエイディン・ロスのポッドキャストが、マノスフィアのメッセージを育んできたとも考えられています。その背後には、男よりも女の権利のほうが優先されていると感じる男性の不満や怒りがあるとも指摘されています」とシェリーは解説。

今回の選挙はある意味、伝統的な男女の役割や価値観を重視するマノスフィアと女性の権利を打ち出すフェミニズムがぶつかって、マノスフィアが勝ったとも言えます。もちろん、すべてのポッドキャストがマノスフィアなわけではなく、フェミニズムのポッドキャストもあります。なかには、政治はまったく関係ない、スポーツやエンタメのポッドキャストも数多く存在しています。

一方で、ここ数年人気が急上昇してきたポッドキャストがこれほどの力を持つようになり、選挙結果にここまで影響を及ぼすとは、ほとんどのアメリカ人は予測していませんでした。

「既存のメディアとは違い、ほとんどファクトチェックされないポッドキャストに対しては、フェイクニュースや陰謀論の温床になっているという懸念も出てきています。そういうことも含めて、メディアのあり方の激変がはっきりと表れただけでなく、結果にもつながった大統領選だったと言えます」とシェリーはコメントし、話題を締めくくりました。


----------------------------------------------------

<番組概要>
番組名:NY Future Lab
放送日時:毎週水曜日18:40~18:55放送
出演:シェリーめぐみ
番組Webサイト: https://www.interfm.co.jp/nyfutureweb
特設サイト:https://ny-future-lab.com/