チェコ出身のアーティスト、ミコラス(MIKOLAS)が2020年にリリースした「LALALALALALALALALALA」。リリースから約2年半後に日本のリスナーがYouTubeに投稿した和訳動画をきっかけに、何度も「LALALA」と歌うことで生まれる中毒性の高さと、未練を漂わせながらも強気な失恋ソングという特性が受けてバイラル。Spotify Japanの Viral チャート13位にランクインするという異例のヒットを記録した。日本での思わぬヒットに対し、ミコラスは日本語を乗せた新バージョンを制作することを決意。そこで、ミコラスが日本語詞とラップパートの歌唱を依頼したのは、ラッパーでありトラックメイカーでありプロデューサーであると同時に株式会社BMSGの代表取締役CEOとして東京から世界に手を伸ばすSKY-HIだ。SKY-HIのラジオ番組「DIVE TO THE NEW WORLD」で初共演したことできっかけで生まれた「LALALALALALALALALALA (Tokyo Version)」はトラックからアップデートされ、ミコラスとSKY-HIがラップを重ね、英語と日本語が交錯するからこその独特なキャッチーさを宿した楽曲になった。
―ミコラスさんが「LALALALALALALALALALA」(以下「LALALA」)の東京バージョンを作ろうと思ったのはどうしてだったんですか?
ミコラス:2020年に出した曲なんですが、最初イタリアでヒットした後コロナ禍に入ってしまい、クラブなどが営業することができなくなったことで曲がかからなくなり、「この曲のヒットはここまでかな」と思ったんですよね。その2年後にリスナーの投稿をきっかけに日本で口コミでバズりました。せっかくだったら日本語バージョンを作ってさらにこの波に乗りたいなと思っていたところ、4月にSKY-HIさんのラジオに出させてもらい、SKY-HIさんがアーティストとして素晴らしい活動をしているだけでなく、事務所の社長もやっているという自分との共通点を知って、良いコラボレーションができるのではないかと思ってオファーさせてもらいました。7月に東京に来てレコーディングをしたんですけど、SKY-HIさんは素晴らしいバースを歌ってくれて、これまでにないくらいスムーズにレコーディングが進みました。
SKY-HI:何曲かミコラスの曲を聴いて、ジャンルの混ざり方がとてもユニークで、「このアーティストはどういう音楽を聴いてこういうアウトプットになってるんだろう?」っていう興味が沸いたんですよね。だから、チェコの有名なアーティストからオファーがあって嬉しかったというよりは、どういう人なのか会ってみたいという気持ちの方が強かったです。
―すごく雑食なサウンドという印象があります。
SKY-HI:そうですね。いろいろな影響を受けた上でその混ざりをそのままアウトプットする人はそんなに多くない気がしていて。例えば、元々ハードコアなロックをやっていたけどアウトプットはR&Bっていうケースがあったり、いろいろな音楽を聴いていてもアウトプットは割と定まっていることが多いと思うんですが、ミコラスは混ざったまま出してる。その点では日本のアーティストやプロデューサーと通ずるなと思いました。
ミコラス:「LALALA」はまさにいろいろなジャンルやスタイルが入っている曲です。クイーンの「アナザー・ワン・バイツァ・ダスト」をよく聞いていた時期に作った曲なので、その影響でベースを軸にしたサウンドになっている上にポップとダンスを掛け合わせてトラップも少し入っています。これは自分では意識したことではなく、無意識に曲によっていろいろなジャンルの組み合わせが入っていくのかなって思っています。
―ミコラスさんはラジオ出演にあたり、SKY-HIさんの「THE FIRST TAKE」の「LUCE」の動画を見たそうですが、どんなことを感じましたか?
ミコラス:亡くなった友人に向けて作った曲だと話していましたが、悲しい出来事のことをしっかり心を開いて話しているところに心が動かされましたし、とても美しくて素晴らしい曲だなと思って衝撃を受けました。その後、AAAの曲も含めてSKY-HIさんのいろいろな曲を聴きましたが、本当にたくさんの曲を書いているんだなと。
SKY-HI:20年やってるからね(笑)。
ミコラス:そうですよね(笑)。自分とは違う世界に生きている人ですが、通じるものを感じました。違う世界に生きているからこそコラボレーションすることですごくユニークなものが生まれるとも思ったんです。実際にレコーディングをした際に、「この人はプロ意識がすごく高い人だな」って感じましたね。作曲に関してもそうですし、ボーカルのレンジがとても広い。あと、ミックスについてやり取りする中で、その部分まで人に任せずに自分で担う人だと知ってさらにリスペクトが増しました。
SKY-HI:言語の違いがあるのでテキスト上やオンラインミーティングだとニコラスが言ってる些細なヴァイブスは想像するしかなかったんですが、レコーディング現場だと、例えば「ばっちりタイミング」っていう歌詞の「グ」をしっかり歌ってはいないんだけど、その「グ」のニュアンスの話がニコラスから出てくるので「すごく耳がいいな」って思いました。その上でエモーションやパッションを持って一緒に楽しく作れましたね。
─単に日本語詞を書いてラップを歌唱したというよりは、セッションぽい作り方だったんですね。
SKY-HI:めちゃくちゃセッションでした。オリジナルの歌詞を意識しながら「こういうフロウはどう?」って僕がミコラスに聞いて、ミコラスが音楽的な指示を出して僕がそれを打ち返す。その繰り返しで卓球をやってるようなスピード感でした。
ミコラス:世界大会レベルだったね(笑)。
SKY-HI:(笑)僕の制作スタイルとして、スタジオに入ってその場でどんどん作っていくことは珍しくないし、ここ数年はほぼコライトで作ってるんですが、ミコラスが「ここはこうでもっとこういう音が入らないかな?」っていう風に話す内容がとても具体的だったので、そのこだわりを失わないよう意識して作っていくのがすごく面白かった。ゲームみたいな感覚もありましたね。ミコラス、最後の方は日本語の歌詞も覚え始めて、「ヤバすぎ ガチ無理」って歌ってたよね(笑)。
ミコラス:そうだった(笑)。僕が日本語で歌ったラップも入ってるしね。
SKY-HI:「♪Yeah もういいって その目 戻る気なんてねえ」のところとかね(笑)。
ミコラス:(一緒に歌い出す)
SKY-HI:だから本当発語に対する耳がいいんだなって。
―そういう作り方は最初から想定してましたか?
ミコラス:準備もなく白紙の状態でスタジオに入って「とりあえずやってみよう」っていう感じだったので最初は「どんなものが生まれるんだろう?」と思ってドキドキしてました。でも、やっていく中ですごく盛り上がっていったのでワクワク感が強かったですね。SKY-HIさんはとにかく仕事が早いのでどんどん手応えを感じていきました。僕は携帯に日本語の歌詞を写して一生懸命覚えるっていうこれまでにないことをやりましたけど、チェコのアーティストが日本のアーティストとこういった形でコラボすることは珍しいと思うのですごく良かったんじゃないかなって思います。
SKY-HI:僕としてもミコラスとスタジオに入るのは初めてだったので「どういう風になるんだろう?」と思ってドキドキはしてました。あと、今回はゼロイチではなくて、既にある曲に対してどういう解釈をしてどういう風にすり合わせをするかっていうことを多言語でやるわけだからもちろん不安はありましたが、人生ではそういう不安をひとつでも多くも経験した方がいいと思ってるので楽しんでやろうって思ってました。そうしたらミコラスがすごく良いヴァイブスでプリプロスタジオにいらっしゃって。バゲッジはロストしたらしいんだけど(笑)。
ミコラス::あははは。
SKY-HI:(笑)バゲッジはロストしたままタンクトップ姿で現れてすごく楽しかったです。
―BMSGの新オフィスのスタジオですか?
SKY-HI:いや、その時期はビル自体は稼働してたんだけど、スタジオスペースはまだ稼働してなかったんですよね。
ミコラス:その新しいオフィスにはリタ・オラが行ったんだよね?
SKY-HI:そうそう。よく知ってるね。
ミコラス:TikTokで流れてきた。
SKY-HI:「行きたい」って言ってくれて。それでBE:FIRSTとTikTok撮って。
ミコラス:来てくれて良かったね。
SKY-HI:本当嬉しかった。僕がLAのSTONES THROWに行った時はテンションが上がったけど、BMSGはまだ歴史がないからそういう感動はなかっただろうけど、用事がないのに来てくれるってだけで嬉しいです。
ミコラス:(SKY-HIにCoke STUDIO LIVE 2024 で撮ったリタ・オラとの2ショットをスマホで見せる)。
SKY-HI:おお。ミコラスも会ったんだね。
ミコラス:オフィスにリタ・オラが来たならカニエ(・ウエスト/Ye)も来る?(笑)。
SKY-HI:カニエも来るかもしれない(笑)。友達何人かがカニエと遭遇したみたいで、あとスタジオに行った友達もいて。日本でスタジオを探してるっぽかったから「うちのスタジオ使ってよ」って言ったら来るかもしれないね(笑)。
―スタジオで1から作りだして何時間くらいで完成したんですか?
SKY-HI:どれぐらいいたっけ? でもそんなに長くなかったよね。
ミコラス:2時間ぐらいかな。作業がどんどん進んだのですぐに「これは絶対うまくいくな」っていう確信が湧きました。人となりを知る時間がなかった中で、音楽を通して「今すごく波長があってるな」っていうことがわかったんですよね。ラップトップを出して、「例えばこんな感じ」っていう風に聞かせたら、SKY-HIさんが歌詞を書いて、じゃあマイクで歌ってみるよ、みたいなスピード感で進んでいって。そもそもSKY-HIさんが「LALALA」のオリジナルを気に入ってくれていたことは大きかったと思います。ラジオで曲をかけてくれた時、体を揺らして乗ってくれたので気に入ってくれてることが実感できたから、スタジオに入る前から良い予感はありました。
─最後に効果音が入っていたり、トラックも結構アップデートされていますが、それもフロウやリリックを考えていくことと並行して作業ししましたか?
ミコラス:SKY-HIさんがラップを録ってる時に僕が卓の方にいて出した音に対して盛り上がったので、それをそのまま入れたりしましたね。最後の「スクーッ」っていう声とか(笑)。
SKY-HI:あのリアクションボイスね(笑)。
「LALALALALALALALALALA (Tokyo Version)」に込めた「感情」
─「LALALA」はアコースティックバージョンが既に配信されていて、今回Tokyo Versionが生まれたことでどんどんバージョンが増えていますよね。
ミコラス:アコースティックバージョンは悲しい曲ですよね(笑)。
SKY-HI:そうだね(笑)。
―オリジナルと手触りが大きく違いますよね。Tokyo Versionはどんな感触だと思いますか?
ミコラス:オリジナルより肩の力が抜けた感じがします。オリジナルはヒットするかわからない中、必死で良いものを作るっていうストレスがあったけれど、ヒットさせることができたことでリラックスできたヴァイブスがTokyo Versionにはあるのかなと。
―「LALALA」は実体験を元にした失恋ソングでもありますが、SKY-HIさんはオリジナルに宿っている感情をどう咀嚼してTokyo Versionに落とし込んだんでしょう?
SKY-HI:恋バナテンションですよね。実は一回、もっと長くメンヘラテンションでリリックを書いたんですよ。内容はめっちゃ気に入ってて。自分の曲はロングバースの曲も多いので書きたいことを全部書いちゃうんだけど、今回はポップソングとして決まってる音数の中でニコラスの求める音像に合わせて自分の吐き出したい言葉を乗せていくケースなので入れなかったんですよね。このTokyo Versionは行間がたくさんある曲だとは思うから、各々が嫌な恋愛を思い出しながら聞いてもらえれば嬉しいなって思います。僕はそのロングバースにちょこちょこ「インスタのDM「とか「LINEのブロ削」とかっていうワードを入れてたんですけど、ニコラスが新たに「Slide in the DMs like Tokyo Drift」っていうフレーズを入れてて「ちょうど俺そういうリリック削ったんだよな」って思ってめっちゃ笑いました(笑)。
ミコラス:(笑)。
―ミコラスさんは「LALALA」をはじめ、曲作りは自分にとってセラピーだと言っていますが、SKY-HIさんにもそういう感覚はありますか?
ミコラス:恋愛がうまくいかなくても曲にしてヒットすることによって別の恋人ができる可能性があるかもしれないし(笑)。僕の場合、そういう出来事が起きた直後は自分の気持ちが混乱してるから曲にできないんだけど、時間がしばらく経って客観的に自分がその時どういう気持ちだったのかが見えてくると曲が書けるんです。
SKY-HI:僕はものによりますね。自分にとっての時事ネタか、今回の「LALALA」みたいにそうでないものかによっても変わってくるし。すぐ出さないと意味がないものもあるけど、今はありがたいことに納期に追われる生活をずっとしていて。早くやらなきゃいけないことが他にあるので、リリースしないで寝かせちゃってる曲が今4~5曲あって。早く出したくなってきました(笑)。
―SKY-HIさんは今回の「LALALA」の他にも「JUST BREATHE feat. 3RACHA of Stray Kids」やタイのシンガーソングライター、Stampとの「ジェイルハウス feat.SKY-HI」や「Good 4 You feat. DABOYWAY」といった海外のアーティストのコラボを多くやっていますよね。
SKY-HI:確かに。今度出るBMSG POSSEのアルバムではCHANGMOともやってるしね。
―その際に何か意識していることはありますか?
SKY-HI:日本語を大事にすることですかね。「LALALA」の日本語詞の「ヤバすぎ ガチ無理」とかもジャパニーズスラングだなって思って入れたんですけど、そういう日本語を絶対に入れたいとは思ってるかもしれない。今回はミコラスが僕を呼んでくれたわけですが、僕がミコラスに絶対に負けないところは日本語のうまさだと思うんですよね。それは当たり前のことではあるんだけど、地球規模で見た時のアーティストとしての自分の特性は日本語で上手にラップができるっていうことになると思うので、そこを大事にしたいんです。「LALALA」もストリーミングやラジオとかで曲を聴いた人が「あれ? 日本語だ」っていう風に思うきっかけになるといいなって思ってます。
<INFORMATION>
「LALALALALALALALALALA (Tokyo Version)」
MIKOLAS, SKY-HI
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