シンガー、ソングライター、プロデューサー、マルチ奏者と多彩な才能を持つトロントのアーティスト、シャーロット・デイ・ウィルソン(Charlotte Day Wilson)が10月中旬に日本ツアーを開催。10月13日(日)には静岡県富士宮市の朝霧アリーナで開催される朝霧JAMに出演し、同月15日(火)には東京・渋谷WWW Xで単独公演を行う予定だ。
地元トロント勢からビッグネームまで広く共演
様々な顔を持つシャーロット・デイ・ウィルソンは、幼少期に学んだクラシックピアノから音楽の道に足を踏み入れた。その後中学生の頃にGarageBandでのDTMを始め、ハリファックスの大学に進学し音楽を短期間学んだ後に音楽活動に専念するため中退。2012年にはEP『Palimpsest』をリリースしている。
その後ファンクバンドのジ・ウェイヨー(the WAYO)を結成し、2014年にはバンドでのEP『Wonderings EP』を発表。バンドでの活動は長く続かなかったものの、その経験からクラシカルなR&Bやソウルの基本構造と他者をサポートすることの価値を学んだという。その後トロントに戻り、同地のレーベルArts & Craftsにインターンとして勤務。この時期にバッドバッドノットグッド(以下、BBNG)やダニエル・シーザーといった気鋭アーティストとの交流を深め、トロントのシーンで頭角を現していく。
そんなウィルソンがさらに一つステップアップするきっかけとなったのが、2016年のEP『CDW』だ。同作のリードシングル「Work」はiPhoneのCMやドラマ「Grace & Frankie」で使用され、カナダの各種音楽賞にノミネートされた。
また、この頃には他アーティストとのコラボレーションもいくつか発表。「CDW」収録の「Where Do You Go」でリヴァー・タイバーをプロデュースに迎えたほか、トロントの盟友BBNG、ダニエル・シーザーなどの作品に参加している。BBNG人脈との共作をさらに進めた2018年のEP『Stone Woman』の後には、ケイトラナダやDJDSの作品に参加。さらに同郷のスーパースターであるドレイクが製作総指揮を務めたドラマ「Euphoria」で「Work」が流れるなど、トロントに根を張りつつもその音楽を外に広げていった。
バッドバッドノットグッド「In Your Eyes」(2016年リリース『Ⅳ』収録)は、シャーロット・デイ・ウィルソンのライブでも定番曲
2021年には初のアルバム『ALPHA』をリリース。BBNGやダニエル・シーザー、ムスタファといったトロント勢のほか、Mk.gee、ベイビーフェイス、ジ・インターネットのシド、シルク・ソニック作品で知られるプロデューサーのDマイルなどとコラボレーションを果たした。さらにデラックス・エディションでは「Take Care of You」のリミックスでキング・プリンセスとアマレイ、ミシェル・ンデゲオチェロをフィーチャーしている。
さらに前後してロイル・カーナーやSG・ルイスの作品に客演したほか、ジェイムス・ブレイクやドレイク(とトラヴィス・スコット)の楽曲でサンプリングされるなど多方面からその音楽が求められた。今年に入ってからもケイトラナダやネリー・ファータドの作品に参加。錚々たる面々と共演してきた。
ドレイク&トラヴィス・スコット「Fair Trade」(2021年)で、シャーロット・デイ・ウィルソン「Mountains」(2021年)をサンプリング
自身のカラーが色濃く出た最新作
そんなウィルソンは、今年5月に2枚目のアルバム『Cyan Blue』をリリースしている。メイン・プロデューサーはウィルソン自身とジャック・ロショーン。H.E.R.やタミア、最近ではビヨンセやケラーニなども手掛けているカナダのプロデューサーで、前作『ALPHA』にも参加していた人物だ。そのほか曲単位ではBBNGと並ぶ古くからの盟友リヴァー・タイバー、SZAの大ヒット曲「Snooze」などで知られるレオン・トーマス、ニッキー・ミナージュやエミネムなどの作品に関わるマシュー・バーネットらが名を連ねている。
しかし、作品自体は驚くほどこれまでの作品で聴かせたものと同じウィルソンのカラーが色濃く表れている。ジ・ウェイヨーでの活動で学んだというクラシカルなR&Bやソウルのエッセンスと、BBNGとも通じるヒップホップ以降のセンス。シャーデーとも比較される深みのあるソウルフルな歌声、そしてそれをピッチ調整や各種エフェクトで大胆に改造していく先鋭的な感覚。『Cyan Blue』ではこういった本来の持ち味をそのままに、前作と比べてどこか解放感のある作風が楽しめる作品となっている。
そんな中、前作との違いを考えるとしたらボーカルの早回しが挙げられる。これまでウィルソンは声のピッチ調整をする際、「Take Care of You」のように低速化して男声のように響かせることが多かった。しかし、今作での「Money」や「Forever」などでは高速化したボーカルを使用。思えばウィルソンの「Mountains」をサンプリングしたドレイクの「Fair Trade」もウィルソンの声を早回しして使っており、一見遠い立ち位置に見える二人だが刺激を受けていたのかもしれない。
良曲揃いの今作だが、ハイライトを挙げるとしたらスノー・アレグラをフィーチャーした「Forever」だろう。柔らかで多幸感のある美しい音像に乗せて歌う同曲は、正統派ソウルシンガー然としたスノー・アレグラの歌声との絡みにより、生霊のクワイアを従えるようなウィルソンのボーカル・アプローチの面白さが際立つ一曲だ。また、ローファイで繊細なドラムと不自然な切れ目の声ネタを用いた「I Dont Love You」も素晴らしい。終盤で顔を出すデモのようにシンプルなパートからは、ウィルソンがエッジーな側面を取り払っても十分に魅力的な存在であることがしっかりと感じられる。
叩き上げマルチミュージシャンとしてのライブ力
そう、ウィルソンはボーカルの大胆な加工などの編集感覚をトレードマークとしてきたアーティストだが、そもそもファンクバンドでの活動で叩き上げられた実力あるミュージシャンなのである。そのためスタジオという武器を捨て去って生身で勝負するライブの場でも強い。今年リリースされたライブ音源集『Charlotte Day Wilson (Live at Maida Vale)』は、その剥き出しのパフォーマーとしての実力が堪能できる作品となっている。
これはBBC Radio 1の番組「Benji Bs BBC Radio 1 show」のためにレコーディングされた音源をEP化したもの。BBNGとの連名で2023年にリリースされたシングル「Sleeper」、最新アルバムから「I Dont Love You」と「Cyan Blue」の三曲を披露している。「I Dont Love You」は同期音源も使っているものの、基本的にはピアノのみで歌うシンプルなライブだ。憂いを帯びた繊細な歌声は加工せずとも魅力的で、BBNGらしいヒップホップ以降の感覚を備えたジャジーな路線だった「Sleeper」は別種の美しさを獲得。ビートと一体となって聴かせるような楽曲だった「I Dont Love You」では、歌が前に出てきてライブならではの生々しい感情表現が突き刺さってくる。「Cyan Blue」は自身でバックボーカルも担当したポストプロダクションありきの作りだったが、ここでは歌声は一本ながらアルバム音源以上にエモーショナルなピアノがそれを補って余り得る魅力を放っている。いずれも単なる音源の再現以上のものがあり、ウィルソンの強みがプロデューサー的なセンスだけではないことが窺える。
しかし、ウィルソンのライブの魅力は『Charlotte Day Wilson (Live at Maida Vale)』を聴くだけでは全てを感じることができない。ウィルソンが弾くのはピアノだけではないからだ。カナダの公共放送局「CBC Music」のYouTubeチャンネルにアップロードされているマッセイ・ホールでのライブ映像を見ると、ウィルソンはピアノ以外にもギター、サックス、タンバリンをプレイしている。さらにこの時はバンド編成で、アレンジもフォークやサイケデリックロックなどの要素があったりとレンジの広さも感じられる。
エッジーな編集感覚を持つプロデューサー的な魅力を持ったアーティストでありながら、ライブを通してクラシカルなR&Bやソウルの構造を学んできた叩き上げミュージシャンでもあるシャーロット・デイ・ウィルソン。一つの側面に限定されない引き出しを持つこの多才なアーティストが、今回の日本ツアーでは一体どんなライブを見せてくれるのか要注目だ。
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Charlotte Day Wilson単独公演
2024年10月15日(火)渋谷WWW X
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4225
「朝霧JAM'24 (Its a beautiful day~Camp in ASAGIRI JAM'24)」
開催日:2024年10月12日(土)・13日(日)
会場:富士山麓 朝霧アリーナ
公式サイト:https://asagirijam.jp
チケット国内 e+:https://eplus.jp/asagiri/
インバウンドe+(ENG & CHINESE) https://ib.eplus.jp/asagirijam2024
Charlotte Day Wilson
『Cyan Blue』
発売中
日本盤ボーナストラック収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13954
『Charlotte Day Wilson (Live at Maida Vale)』