JR四国は6月25日に取締役会を開き、四之宮和幸氏が代表取締役社長に就任。7~8月にかけて、新聞・テレビ等で新社長のインタビューが公開された。2023年度の運賃改定もあって、鉄道事業は黒字を達成。今後はコストカットも必要になる中で、ローカル線問題の存廃問題は先送りとなった。四国新幹線に向けた働きかけも必要になる。これからのJR四国はどうなっていくだろうか。
新社長となった四之宮氏は59歳。愛媛新聞の2024年7月17日付の記事によると、出身地は愛媛県西条市だという。東海道新幹線の父、十河信二がかつて市長を務めたところでもある。
四之宮氏は西条高校を卒業し、京都大学大学院工学研究科修了後、1989年にJR四国へ入社。技術系の業務を担当した後、徳島県のグループ会社でホテルや駅ビルの運営を経験した。その後は愛媛企画部長、総合企画本部担当部長、鉄道事業本部営業部長、取締役財務部長など歴任。JR入社組の社長としては、JR東海の丹羽俊介氏、JR東日本の喜勢陽一氏に続いて3人目となる。前任の西牧世博氏から10歳も若返った。
業務経歴の中で、2004年から約2年間の愛媛企画部長時代に注目したい。2004年は「愛媛街並博 2004」が開催された年である。愛媛新聞ONLINEで2024年7月17日に公開された独占インタビューによると、JR四国の担当者として、地域の人々や自治体担当者と会う機会が多かった中で、「JR四国の活動について、地域に何も伝わっていない」と思い知らされたという。鉄道ファンの誰もが知っている下灘駅も、地域の人々に知られていなかった。
そもそもJR四国と地域の間に窓口がなかった。四之宮氏は積極的に地域と関わるプロジェクトに取り組んだ。この経歴は、今後のJR四国の活動に大きく関わってくる。
地域ぐるみでおもてなしを行う観光列車「伊予灘ものがたり」の誕生は2014年。その後、JR四国は「四国まんなか千年ものがたり」「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」などの「ものがたり列車」を手がけ、成功していく。
四之宮氏は社長就任前に代表取締役専務総合企画本部長として、愛媛企画部、徳島企画部、高知企画部を統括する立場だった。JR四国と四国を結ぶ役割を担ってきた。
閑散線区の存廃議論より鉄道全体の利用促進
四之宮氏の社長就任で、前社長の西牧世博氏から大きく変わった施策は、閑散線区の考え方だろう。西牧前社長は2023年4月、予土線全線(北宇和島~若井間)と予讃線海回り区間(向井原~伊予大洲間の「愛ある伊予灘線」)、牟岐線の阿南~牟岐間・牟岐~阿波海南間の3路線4線区について、自治体に「入り口の議論」を申し入れたと発表した。再構築協議会の設置ではなく、「どのように議論を始めるかを話し合いたい」というものだった。しかし自治体の反発が強く、協議は進んでいなかった。西牧前社長は会長就任にあたり、「社長時代に入口の議論がかなわなかったことが心残り」と語った。
これに対して、新任の四之宮社長は就任会見で、「これまでも自治体と利用促進などについて対話している」とし、「協議体の設置を急がず、まずは自治体と協力して利便性向上や利用促進の取り組みを優先したい」と抱負を述べた。
この方針の背景として、四之宮社長が地域に寄り添った仕事をしてきたことと、西牧前社長時代に2023年度の業績が改善したことが挙げられる。会社全体の営業収益は533億円で、目標額の496億円を超え、前年度比22.3%の増加となった。しかもコロナ禍の影響が少しあった2019年度を上回った。鉄道運輸収入は223億円で、目標額の221億円を超えた。前年度より45億円、25.8%の上昇となり、2019年度の99.4%まで回復した。45億円の増加のうち、24億円はコロナ禍からの回復、21億円は西牧前社長時代に実施した運賃・料金の改定によるものだという。
西牧前社長時代には、老朽化した駅舎を簡素化し、自治体が駅舎を新築するほか、駅舎を自治体に譲渡して改修してもらうなどの施策を進めている。こうしたコストカット部分も、四之宮社長時代以降の好業績を支えることになる。
四之宮社長はNHKのインタビューに対して、「利用の少ない線区は経費も削っているので、赤字額自体はそれほど大きくない。赤字額が本当に大きいのは、都市間をつなぐ幹線」という主旨の発言をしている。鉄道の利用促進について、「全国から瀬戸大橋を渡って四国に来ていただく」と「駅周辺のまちづくりによって、地域の人々が鉄道を使って県庁所在地に行く」という取組みを示した。
高知駅・高松駅に続き、松山駅・徳島駅を拠点化
そのために、鉄道にとどまらずグループ全体の取組みが必要となる。JR四国の業種別売上高は、運輸事業が約40%、建設事業が約20%、ホテル事業が約10%、駅ビル不動産事業と飲食物販事業が約8%。JR四国は鉄道以外の事業比率が高い。多角経営に成功したJR九州の場合、運輸事業の占める割合は約35%である。ちなみに本州3社の場合、JR東日本は約67%、JR東海は約80%、JR西日本は約54%と、いずれも運輸事業が半数以上を占めている。
鉄道事業者にとって、多角経営は重要であり、鉄道を中心に不動産や生活サービス事業を展開することで相乗効果を狙える。鉄道と鉄道以外の事業を組み合わせることで、鉄道事業の売上も伸ばせる。
四之宮社長によると、「JR四国も鉄道以外の業種に伸び代があり、鉄道事業を支え、伸ばす力を持ちたい。全国から四国に来る人の数はコロナ前を上回っており、四国に来訪した人が四国内を公共交通で巡ってもらいたい」とのこと。つまり、鉄道の利用促進を促し、赤字を抑えるためにも、鉄道以外の部門を伸ばしていきたい。
そのしくみにおいて、県庁所在地の駅は重要な拠点となる。高知駅は2008年の高架化に向けて、2002年に高知運転所を土讃線の布師田駅付近へ移転。JR貨物の高知オフレールステーションも高知港へ移転した。高知駅周辺では、高知市による区画整理が行われた。いまのところ大型商業施設はないものの、将来の開発余地は多い。
高松駅はかつて本州と四国を結ぶ宇高連絡船の連絡駅だった。瀬戸大橋開業にともない宇高連絡船は廃止。高松駅も2001年に内陸側へ移転した。これらの用地を「サンポート高松」として再開発し、2001年に新しい高松駅ビルが落成。「サンポート高松」の再開発に合わせて駅ビルが拡張され、2024年に大型商業ビル「TAKAMATSU ORNE」が開業し、初日から10日間で34万人を集客したという。「TAKAMATSU ORNE」の成功が駅ビル不動産事業と飲食物販事業を押し上げる。
松山駅は9月29日に高架化が完成する予定。これに先立ち、2020年3月に駅西側の松山運転所と駅南側の貨物駅を南伊予駅に移転した。この跡地を松山市と愛媛県が取得し、駅前広場やイベントホールなどを整備する。駅東側には現駅舎があり、高架化によって駅施設が移転するため、JR四国の開発用地となる。JR四国はここに駅ビルを建設する意向としている。「TAKAMATSU ORNE」の経験が反映されるだろう。
四之宮社長は、「駐車場の整備も重要」とも語っている。商業施設においてマイカー利用者が重要だと理解している。鉄道利用者を増やすための施設であっても、鉄道利用者を主眼に置いては心許ない。むしろパークアンドライド施設としても駐車場は重要になる。
徳島駅も駅周辺の開発構想がある。駅北側にある車両基地を徳島城趾の南側にある徳島市立文化センター跡地に移転し、駅の周辺を高架化して車両基地跡を再開発する。松山駅と同様、車両基地側に高架駅を建設して、現在の駅ビルを拡張する形になるだろうか。
この構想に対して、西牧前社長は消極的だったが、四之宮社長は徳島県や徳島市に協力する意向を示している。候補地の面積は現在の車両基地より手狭になるが、「今は貨物列車もないし、車両数も昔より減っている」ため、実現可能だという。
拠点駅から始まる多角経営と鉄道利用促進
四国にとって、鉄道の拠点駅は「玄関」にあたる。高松駅や松山駅は、本州から瀬戸大橋線で訪れる人々にとっての拠点駅。ここで宿泊やショッピングなどを楽しみ、さらに鉄道・バス等で観光目的地に向かってもらう。徳島駅は京阪神から大鳴門橋経由のバスで訪れる人々の拠点である。和歌山からフェリーで訪れる人もいる。徳島駅までバスで来て、鉄道で次の目的地へ向かう。高知駅は空路で訪れる人も多い。しかし空港は玄関ではない。空路で到着した人々は、連絡バスで拠点駅に着き、初めて四国の暖簾をくぐる。だからこそ、拠点駅周辺の開発は鉄道利用を促す装置として期待できる。
一方で、閑散線区となっている予土線や「愛ある伊予灘線」(予讃線海回り区間)、牟岐線の阿南駅以南は拠点駅から離れている。鉄道で行く方法が最も便利で、これらの線区の沿線地域でホテル・リゾート等を展開すれば、拠点駅からの鉄道利用を促せるだろう。
現在、閑散線区の沿線地域はホテルがあっても客室数が少なく、観光客を呼ぶためにもホテルが必要。観光地巡りにレンタカーも必要だが、業者がいない。空港からも遠く、鉄道が最も頼りになる地域といえる。沿線のどこかに観光拠点が必要で、これもJR四国の出番になるだろう。
交通事業に伸び代はないが、多角経営の相乗効果で利用促進を図りたい。不動産部門は都内で賃貸レジデンス「J.リヴェール学芸大学」を取得した。JR四国は東京都から離れた場所にある会社だが、鉄道会社は近年立ち上がった不動産ベンチャーより信頼されている。その強みにJR四国は気づいた。お手本はJR九州に違いない。
不動産部門としては、経営安定のために利回りが高い物件を獲得しようとすれば三大都市圏になる。不動産激戦地の情報を直接得るための手がかりになり、その知見は四国の物件開発にも生きてくる。
ちなみに、東急グループの場合、部門別売上高構成比は交通事業が約20%、不動産事業が約26%、生活サービス事業が約47%、ホテルリゾート事業が約8%。JRグループの中で、この比率に最も近い会社がJR四国といえる。もともと他のJR各社と比べて鉄道事業の売上が小さいからともいえるが、目標のひとつになりそうだ。
JR四国は2011年度に策定した「経営自立計画」で、2020年度に経常利益3億円の目標を掲げていた。しかし、実際はコロナ禍の影響で12億円の赤字となり、国から経営改善指導を受けた。新たな目標として、2031年度までの経営自立をめざす。経営自立化を達成し、安定すれば、株式上場と完全民営化も視野に入る。
幹線線区にとって赤字脱却の特効薬は四国新幹線と思われるが、そこまでのつなぎ策は必要。新幹線を抱えるために経営を盤石に整える必要もある。
2021年、JR四国など四国の企業と団体が連携組織「四国家」を創設した。JR四国と四国は運命共同体である。行くと楽しい四国、暮らして楽しい四国、関わるだけでも利がある四国。そんな四国になるために、JR四国へ向けられる期待は大きい。