ソニーが開発した立体音響技術「360 Reality Audio」(360RA)が、ゲームサウンド制作の現場に拡がる。同社は8月19日、ヘッドホンで再生可能な立体音響のゲームサウンド制作を実現するゲーム開発者向けプラグインソフトの提供開始を発表。「CEDEC 2024」(会期:8月21〜23日)に出展し、実際のゲームにおけるデモと説明を行う。

  • 「Gaming Virtualizer by 360 Reality Audio」のイメージ

ソフトウェアの名称は「Gaming Virtualizer by 360 Reality Audio」。世界中のゲーム開発会社でさまざまなプラットフォーム向けのゲームにおける立体音響開発に使われているというミドルウェアソリューション「Wwise」(ワイズ)のプラグインとして機能し、「低負荷、低遅延かつ自然な立体感のあるヘッドホン視聴向けゲームサウンドの制作を可能にする」としている。

ソニーでは、昨今は立体音響に対応した3Dゲームが増え、モバイルやPCなどのさまざまなプラットフォームで展開されていることと、ヘッドホンを使ったプレイスタイルの定着も踏まえて「多チャンネルのスピーカー環境だけでなく、ヘッドホンでも立体音響のゲームサウンドを楽しめる環境が求められている」と指摘。

360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)の開発で培った360立体音響技術を生かして、今回発表した「Gaming Virtualizer by 360 Reality Audio」(ゲーミングバーチャライザー・バイ・サンロクマル・リアリティオーディオ)の導入を決めた。

既にコロプラやCygames、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、ナイアンテック、スクウェア・エニックスといった、日本やアメリカ、イギリス、中国のさまざまな企業や開発スタジオなどで、ゲーム開発への実装に向けた検証が進行中。

このうち、コロプラが提供するアドベンチャーゲーム「PRINCIPLES」(プリンシプルズ)では、同ソフトの実装による新たなサウンドデザインにより、「足音やむき出しの電気回路から漏れる音、洞窟内の反響音などを、臨場感のある立体的な音場で体感できる」としている。

同ソフトの実装に向けた検証を行う各社からのコメント

■コロプラ オーディオプログラマー 渡邉大輝氏

「Gaming Virtualizer by 360 Reality Audio」の導入によって、音像の定位感が向上し、視点移動などを行った際にも違和感の少ない定位の変化を感じられるようになりました。ゲームエンジン「Unity」と「Wwise」を利用した開発環境に手軽に導入することができ、モバイルゲームで問題なく利用できる処理負荷である事も嬉しいポイントです。

■ガンホー・オンライン・エンターテイメント シニアサウンドクリエイター 尾崎景吾氏

ゲームに立体音響を取り入れることで、より臨場感を高めた豊かな音響表現が実現できると確信しています。 「Gaming Virtualizer by 360 Reality Audio」の技術はサラウンドシステムのように特定の機材環境に依存しないため、幅広い層に楽しんでいただけるサービスになるのではないかと考えております。

■Cygames サウンド本部 音響研究室 マネージャー 牧村亮治氏

実スピーカーでの立体音響の出力機器をお持ちのユーザー様は少なく、作り込んだ音響体験を多くの方々に届け切れない中で、プラットフォームを問わず、ヘッドホンにて再現度の高い立体音響を提供できる手段があれば、皆さんにより広くお届けできると考え、本ソフトウエアの検証を行わせて頂いております。

Gaming Virtualizer by 360 Reality Audioの技術詳細

一般的に、3Dゲームなどで使われる立体音響をヘッドホンで再生する信号処理には、ゲームをプレイするハードウェアの高い処理能力が必要とされる。

ソニーが今回導入した新しいプラグインソフトでは、最適化された効率のよい信号処理が可能になり、ハードウェアへの負荷を抑えることで、モバイル機器など処理能力の限られた機器でもヘッドホンで没入感ある立体的なゲームサウンドを楽しめるようにしている。

また、360RAで培った立体音響技術やノウハウを生かし、低遅延で自然な立体感のある音場を実現。「音の定位感に優れているためゲーム内で上方や後方から鳴る音の位置感覚が分かりやすく、位相干渉の少ない処理によりプレイヤーの視点が大きく動いた際に追随する周りの音の動きもスムーズに体感できる」とする。

このソフトはAudiokineticの協力を受けて開発しており、同社が提供するオーディオミドルウェア「Wwise」のプラグインとして使える。

Wwiseはさまざまなプラットフォーム向けのゲーム開発に使用されており、モバイルやPCなどのそれぞれのプラットフォーム向けのゲームサウンドのデザインを統一して行える点が特徴。サウンドデザインをプラットフォームごとに調整する必要がなく、ゲームの開発効率が向上するという。

ゲーム内の音を分けてそれぞれ調整することもでき、たとえば人の声や効果音など、位置を明確にしたい音についてはGaming Virtualizer by 360 Reality Audioを用いて立体音響化。環境音などの特定の位置から鳴っていない音は別の処理を行える。こうしたそれぞれの音に合わせたゲームサウンドの制作を可能にし、「ゲームクリエイターの意図をより忠実に反映した自由度の高い空間表現」が可能になるとしている。