日本各地の自然や風土に根付いた音、伝統文化の音などを紹介していく日本テレビのミニ番組『音のソノリティ~世界でたった一つの音~』(毎週日曜20:54~)が、2003年10月のスタートから20年となる10月1日の放送で1,000回を迎える。『世界の果てまでイッテQ!』と『行列のできる相談所』という人気バラエティに挟まれる中で放たれる静寂のインパクトによって、ミニ番組の中でも人気が高いコンテンツだ。
日テレのアーカイブから“神回”を紹介するTVerの番組『神回だけ見せます!』で取り上げられ、伊集院光と佐久間宣行というテレビのプロたちも絶賛した名番組だが、正味わずか2分弱という放送尺にどんなこだわりが詰まっているのか。制作の舞台裏を、番組の立ち上げから演出を手がける宮本靖広氏(日テレ アックスオン)に聞いた――。
■自然の音から人が紡ぎ出す音にも拡大
今でこそ、耳心地の良い感覚として「ASMR」という言葉が定着しているが、映像がメインのテレビの世界において、スタート当時は斬新なコンセプト。最初の企画書に明記されていたのは『サウンドスケープ』というタイトルで、その名の通り“音風景”を紹介するという内容だった。
そこからさらに“音”にフォーカスし、その時に聞く位置や角度によって様々な表情を見せるという切り口にブラッシュアップ。フランス語の音楽用語で「共鳴」「音色」「音の響き」を意味する“ソノリティ”を正式タイトルに入れて番組が立ち上がった。
初期は、スポンサーのJ-POWERがエネルギーと環境の共生を企業理念に掲げていることもあり、第1回の「立山 称名滝」(富山・立山町)、第2回の「宮城野のすずむし」(宮城・仙台市)など、“自然が紡ぎ出す音”を紹介。しかし、それだけではネタが尽きてしまう懸念が出てきたため、スタートから1年半が経った2005年4月から「阿蘇の野焼き」(熊本・阿蘇町)、「穂高の水車小屋」(長野・穂高町)と、“人が紡ぎ出す音”も取り上げていくようになった。
担当スタッフは、“自然が紡ぎ出す音”と“人が紡ぎ出す音”で特に班分けされておらず、リサーチ会社からの資料も参考にしながら、6~7人のディレクターが毎週2~3ネタを提出。日頃から音を気にしているディレクター陣は、他の番組のロケで面白そうな音に出会うこともあれば、「近くにカワセミが来てるので、ちょっと録ってきます」と自宅近くで見つけてくることもあるそうで、「家に近いと何日も粘りやすいので、それで録れるパターンもあります」(宮本氏、以下同)という。
また、「祭り」や「発酵」というような切り口を発見すれば、そこから新たな音が見つかっていく“鉱脈”になることも。こうして集めたネタから、季節や並びのバランスを考えて、放送のラインナップを決めている。
■調べると次から次に出てくる“奇祭”
“自然が紡ぎ出す音”は、確実に撮影・録音ができる保証がないため、苦労が多いのだそう。「オニヤンマの産卵」(岡山・和気町)は、トンボが来てから産卵まで丸3日待ち続けたが、通常はもっと深い水場に産卵するところ、浅い場所にグサグサ挿す様子が録れたため、珍しい音を記録することができた。
「女王蜂の産声」(三重・松阪市)では、待ち続けてもスタッフが音を収録できず、後日、養蜂農家の人がスマホで撮影してくれたものを放送に使用したことも。
さらに、産卵のために浜に打ち上がったホタルイカが水を吹き出す「ホタルイカの身投げ」(富山・富山湾)は、潮の満干のタイミングに加え、地元の人が捕まえに集まってくるため、静かな撮影場所を探すのに困難を極めた。何人かのディレクターが「今年も行ってみますか」と挑戦しては「今年もダメでした」というのを繰り返し、半ば諦めていたが、「6~7年かかってようやく録れました」と、ついに努力が実った。
そんな成功例もあれば、「奄美の森に住むアマミアオガエルが産卵のときに鳴く声」「みかんのジューンドロップの音」など、数日間粘っても録れなかった音もあるという。
一方、“人が紡ぎ出す音”では、様々な祭りや伝統行事が、どれも個性的な音を奏でている。『神回だけ見せます!』では、1円玉を投げて故人の冥福を祈る「投げ銭供養」(徳島・美波町)、集落の男衆が「飯っ!」「汁っ!」と叫んでご飯や汁を催促する「おこもり」(青森・佐井村)が紹介された。
「お神輿を一つとっても、ぶつけるものもあれば、投げつけて壊すものもある。この10月に放送するのは、お神輿の中に石を入れて担ぎ手が飛び跳ねて音を出す祭りがあります。他にも、新婚のお婿さんを投げる『むこ投げ』(新潟・松之山温泉)や、南に行けば沖縄の宮古島には体に泥を塗りたくる『パーントゥ・プナハ』など、調べていくと次から次へと“奇祭”がいっぱいあるのが分かって、面白いですね」