文●九島辰也 写真●



 アストンマーティンがDBシリーズの最新モデルを発表しました。名前はDB12。シリーズももう12作目って感じですね。とはいえ、欠番になっている数字もあるので12モデルが販売されたわけではありません。DB8は市販車はもちろんコンセプトカーだったという話は聞きませんし、DB10は007の映画「スペクター」に登場しただけでちゃんとした市販車にはなりませんでした。



 それじゃ一番有名なのはどれかというと、やはりDB5に違いありません。1963年に登場以降、何度もスクリーン上でボンドカーの役目を果たしてきました。銃弾で穴だらけにされたり、爆破されたり、踏んだり蹴ったりですが。




DB5

 そのため人気も絶大で今もオークションでは高値がついています。それにクラシックアストンを扱うニューポートパグネルにあるかつてのファクトリーにはレストア待ちのモデルが数台待機しているとか。まさに、アストンマーティンを代表する一台ですね。



 個人的に好きなのはそのDB5以前に売られていたDB4GTです。文字通りDB4をパワーアップしたレーシーなモデルでした。それ以外ではデザイナーイアン・カラム氏の代表作とも言えるDB7。現在のアストンマーティンの礎になったモデルです。マレック・ライヒマン氏に代わってもその面影は生きていると感じます。ロングノーズの流麗なフォルムが特徴ですね。その後にリリースされたDB9もそうですが、アストンマーティンのモデルを“クール&ビューティ”と言わしめた作品となります。




DB12

 話をDB12に戻しましょう。スタイリングはご覧のように、これまでの流れに準じます。というか、DB11よりも古き良きDBシリーズの要素が取り入れられました。グリルとヘッドライトの位置関係、それとボンネットの形状がそんな感じです。



 テーマは“スーパーツアラー”となるそうです。既存のスーパーカーではなく、グランドツアラーでもなく、その両方を高い次元で両立しているとか。その意味からもシートは2シーターではなく2+2になります。要するにGTカーとして使えるということを意味します。でもマックスパワーは680psだし、最大トルクも800Nmあるのですから只者ではありません。ボディの空力、エンジンの冷却、そしてサスペンション周りにもかなり手が入っているようです。



 そんなモデルを2023年デビューさせるには理由があります。それは今年がアストンマーティン生誕110周年であることと、DBシリーズ誕生75周年だからです。そういえば、アストンマーティン100周年のロンドンのイベントは大変盛り上がりました。当時本社メインスタッフと仲の良かったことから日本から唯一ジャーナリストとして招待してもらいました。デザインのトップを担うマレックとグローバルPRのケントのご厚意です。感謝! ケンジントンガーデンに並んだ300台のヘリテージカーは圧巻でした。あの光景はもう二度と見られないでしょう。




DB12

 ところで、DBシリーズの名前の由来をご存知でしょうか。それは実業家デイビッド・ブラウン氏の頭文字です。彼は1946年にアストンマーティン社が売られていることを知ると、翌年に買収し再建を図りました。そして1948年にDB1を製作し、その歴史をスタートさせたのです。一説によると1950年リリースのDB2からDBの名前が正式に使われ、後からDB1にしたという話もありますが、真意は不明です。



 歴史的に興味深いのはまさにその頃で、デイビッドはアストンマーティンの走りとデザインは気に入っていましたが、エンジンには納得していませんでした。そこで、エンジンに定評のあったラゴンダ社を買収、それをアストンマーティンに乗せたのです。おもしろいのはそこで、実はそのエンジンを設計したのはあのベントレーの創業者W.O.ベントレー氏だったそうです。つまりアストンマーティンにベントレーのエンジンを乗せたモデルが存在したことになります。なんとも奇妙なストーリーですよね。まるで究極のコラボです。ところでなぜベントレー氏がラゴンダ社でエンジンの設計をしていたかというと……、その話は長くなるのでまた今度の機会にします。




DB12

 なんて話はともかく、新たに生まれたDB12は第三四半期から本国をはじめ世界中にデリバリーされるそうです。日本に来るのはもうすぐですね。本国も日本を大切なマーケットと位置付けていますから、意外に早く上陸するかもしれません。価格は2990万円から。ご興味ある方はディーラーへ問い合わせてみてはどうでしょう。このクルマで新たなボンドカーの歴史が始まる、かもしれませんね。