パーマカルチャーとは

人が自然と共存し、恒久的に持続可能な環境・社会を作り出すためのデザイン体系をパーマカルチャーといいます。permanent(永続性)とagriculture(農業)を掛け合わせた造語であると同時に、permanent(永続性)とculture(文化)の短縮形でもあります。その狙いは、生態学的に健全で経済的にも成り立つシステムを作り出していくことにあります。

パーマカルチャーの歴史は1974年、オーストラリアのタスマニア大学で教えていたビル・モリソンが、教え子のデビット・ホルムグレンと2人で一つの永続的な農的暮らしの枠組みを考案し、これを「パーマカルチャー」と呼んだことから始まります。モリソンは、その目的を「地球上を森で埋め尽くす」ことだと述べています。以来、人と自然のみならず、水、エネルギー、コミュニケーションなど、生きるための全ての要素を対象にその理論体系が実践されています。

パーマカルチャーが注目される背景

1970年代、自然の消失や生態系の破壊など環境問題への関心の高まりから、パーマカルチャーは世界的に広まり、今ではオセアニアや北米を中心に世界各地でパーマカルチャーの実践や教育を行うエコビレッジなどの施設が設立されています。日本では、1996年にパーマカルチャー・センター・ジャパン(PCCJ)が設立されました。

2015年には国連でSDGsが採択され、サステナブルな社会に向けてのグローバルな考え方や取り組みが急速に広まる中で、持続可能な環境・社会を作り出すためのデザイン体系であるパーマカルチャーへの注目度が再び高まっています。

パーマカルチャー・センター・ジャパン(PCCJ)とは

神奈川県相模原市に設立されたPCCJは、日本におけるパーマカルチャーの中心的な役割を果たしてきました。日本国内で唯一、パーマカルチャーデザイナーの資格取得ができる施設であり、現在ではさまざまな講座やイベントを企画・運営してパーマカルチャーの普及に努めています。

パーマカルチャーには批判がある?

パーマカルチャーは学究の場から生まれたため、一部からは「頭でっかちな理論であり、空想的で非現実的」と受け止められました。自然を優先することで経済が回らなくなり、農業においては生産性が下がり、それを補うために時間や費用がかかるという指摘もあります。
提唱者の一人であるデビッド・ホルムグレンは、こうした批判が起こるのは、パーマカルチャーが急速に社会に広まり、概念が短絡的に受け取られたことに一因があると見ています。

パーマカルチャーの基準となる四つの倫理と原則

パーマカルチャーの実践では、その行動規範となる四つの倫理とデザインにおける四つの原則があります。これらに基づき常に変わり続けることで恒久性を目指しています。各項目を解説していきましょう。

四つの倫理

地球に対する配慮(Consideration for the earth)
土壌、大気、森林、微生物、動植物、水などを含む全ての生物・無生物に対する心配りが求められています。これらに対して無害かつ再生的な行動を心がけ、積極的に自然保護に努め、資源の消費は倫理的かつ質素に行う「正しい暮らし方」をよしとしています。

人に対する配慮(Consideration for people)
地球に対する配慮のためには、人に対する配慮も必要です。人間の基本的欲求である食物、家屋、教育、雇用、良好な人間関係などが満たされることによって、文化の生成に参加し、自然をより豊かにしていくことができるという考え方です。

自己に対する配慮(Consideration for myself)
自分の能力を精一杯発揮して、自分自身を高めていくことが求められています。そのためには、自らを知り、自己形成し、欲望を自らの中で制御することが必要です。

余剰物の共有(Sharing surplus)
自然からの恵みと一人一人の人間が持つ才能を、自分のためだけでなく、他の人や地域社会のために用いることで、より豊かな社会を築いていきます。

四つの原則

循環性(Circularity)
栄養素やエネルギーを流出させずに、それを循環させるシステムを考えます。例えば、台所のゴミが堆肥(たいひ)として再利用され、動物の排せつ物がバイオガスや肥料になるように、あるシステムから出されるゴミが他のシステムの資源として再利用され、それらを一つの輪として回すことで、どこからもゴミを出さず、資源が足りなくなることもないエネルギー循環を完成させることができます。

多重性(Multiplicity)
多重性には、空間・時間・機能の視点があります。森で地表からの高さによって異なる種類の植物がすみ分けているように、「空間の多重性」によって生産性が高く、共生する生態系を作り上げることを目指します。また、生育段階の異なる多様な作物を育む「時間の多重性」でより豊かな土地を作り上げ、各構成要素が「機能の多重性」を持つことで、より多くの恵みがもたらされると考えます。

多様性(Diversity)
そこに存在する全ての生物が持つ機能を把握し、それらが十分に働くことを可能にする環境を作ることで生じる、動的な多様性を指しています。多様性を生じさせる手法として「エッジ効果」があります。例えば水と陸が接する湿地のように、二つの異なる環境条件が接触するエッジ(接縁)を作ることで、生物多様性を育む環境をデザインすることができます。

合理性(Rationality)
農的暮らしを持続するには、より多くの生物を育てながら、労力やエネルギーの無駄を省くことが必要です。その手法として、ゾーニングと自然資源の利用があります。ゾーニングは、農園の構成要素の配置のことで、家屋を中心に訪れる頻度が高いものほど近くに、頻度が低いものほど遠くに配置します。自然資源の利用は、動物、昆虫、植物などの力を、人間が搾取することなく双方に利点があるように知恵を働かせることです。具体例として、畑に鶏を放し飼いにして除草、除虫、ふんによる施肥を行わせることなどが挙げられます。

日常におけるパーマカルチャーの実践方法

パーマカルチャーは、決して難しいものではありません。生活の中で持続可能性を目指す一つの行動指針として、自分なりの方法を見つけて実践することができます。

マイバックを使う
家庭から出るゴミの量を最小限にするために、再使用可能なものを選択することは、持続可能なカルチャーに向けた行動の一つです。買い物の際にマイバッグを持参すれば、ゴミとして廃棄されることの多いプラスチック袋を買う必要がなくなります。

水を大切にする
貴重な水資源などのエネルギーを獲得し、蓄えることは、パーマカルチャーの原理の一つです。水道の蛇口をひねるとすぐに手に入る水ですが、安易に排水せずに庭木の水やりに再利用したり、雨水を蓄えて草木に施すなどして循環させることができます。

快適な暮らしも楽しむ
エネルギー資源の節約や循環のためにつらく不便な生活を送ったのでは、せっかくの取り組みも持続しません。省エネやエネルギー効率を改善するための創意工夫を楽しみながら、エコロジカルで心地よい暮らしをデザイン・実践していくことが大切です。

他者との対話の機会を増やす
パーマカルチャーの倫理には、人と自己に対する配慮があります。他者との対話を重ねることで良好な関係性が築かれ、自己成長につながる気づきを得ることができ、またお互いに相手の困りごとを理解して目標達成のために手を差し伸べることができるでしょう。

他者と協力して作業を行う
多様性を利用し、尊ぶことは、パーマカルチャーの原理の一つで、人間のコミュニティにもいえることです。いろいろな強みや技術を持つ人たちが、お互いを認め、協力し合って課題解決や目標達成に向かうことで相乗効果が生まれ、より大きな成果が期待できます。

自分の知っている知識を他者に教える
パーマカルチャーは、自然界の循環をヒントに、農業をはじめ多分野の学問、最新のテクノロジーや社会経済も含めたさまざまな知識と情報をもとに作られます。学術的なことに限らず、自分が得た知識や情報を他者に教えることが、より効率的で生産性の高い仕組みづくりにつながります。

パーマカルチャー・センター・ジャパンによるパーマカルチャー講座

PCCJでは、活動拠点である神奈川県相模原をはじめ、長野県の安曇野、沖縄県の石垣島などで、パーマカルチャー講座を随時開催しています。募集中の講座やプログラムの内容は、PCCJホームページでご確認ください。

畑や菜園におけるパーマカルチャーのデザイン例

多様な構成要素からなる小規模の集約的なシステムをデザインすることが最初の一歩。結果的に、自然の生態系よりも生産性の高い耕地を作り出すことが目的です。特徴的なデザイン例を見ていきましょう。

スパイラルガーデン

中心が高く築かれ、外側へ行くほど低くなる、らせん状の菜園です。高低差によって日なたと日陰、乾燥と湿潤、風上と風下ができるため、異なる環境や気象条件を好む多様な植物を育てることができます。スパイラルの出口に小さな池を作れば、クレソンなど湿地帯を好む植物に適した環境も作れます。スプリンクラー一つで全体の潅水(かんすい)ができて効率的です。

キーホールガーデン

円形の菜園の中央に、鍵穴状の作業スペースが設けられた菜園です。この鍵穴部分に人が入れば、苗の定植や作物の収穫などの作業が最短の動線でスムーズにできます。菜園の土を踏み固めたり、作物を踏んでしまうこともありません。花壇やキッチンガーデンに適したデザインです。

コンパニオンプランツ(共生植物)

一緒に植えることでお互いによい影響を与える植物の組み合わせを、コンパニオンプランツといいます。例えば、アブラナ科(キャベツなど)とキク科(レタスなど)の植物は害虫防除に、トウモロコシとマメ科(エダマメなど)の植物は雑草防除、ユウガオと長ネギは土壌病害虫防除に効果があることがわかっています。

草マルチ

刈り取った雑草を利用した有機物の草マルチには、作物の生育環境に好ましい幾つかの特徴があります。例えば、水分を蒸発させ、地表を覆って地温の上昇を防ぐ。熱を再放射しない。地表を浸食から守る。地温を暖かく保ち、高くなりすぎることを防ぐ。太陽の照り返しを減少させるなど。畑から出る廃棄物の有効活用にもなります。

自然の営みに倣い、想像力で超えていく

パーマカルチャーは、人と自然が共生し、持続可能な暮らしと社会を実現するためのデザイン手法です。自然の生態系、昔ながらの農業、伝統的な農村の暮らしに着想を得て、それらを超える生産性を実現することがポイントです。その倫理と原則は、日常社会のあらゆる場面に応用することができます。一人一人の心がけと想像力が、これ以上生態系を破壊させることなく、失われた自然を再生させる一助になるでしょう。

【参考文献】
パーマカルチャー(上・下) 農的暮らしを実現するための12の原理(デビッド・ホルムグレン著、リック・タナカほか訳、コモンズ刊)

パーマカルチャー 農的暮らしの永久デザイン(ビル・モリソン/レニー・ミア・スレイ著、田口恒夫/小祝慶子訳、農山漁村文化協会刊)

パーマカルチャー事始め(臼井健二/臼井朋子著、創森社刊)