“ダウンタウンの育ての親”として知られる吉本興業ホールディングス代表取締役会長・大崎洋氏(崎はたつさきが正式表記)。まだ無名だった頃、ダウンタウンの才能に惚れ込み、自らマネージャーを買って出て、2人をスターへと押し上げた。自身初の単著『居場所。ひとりぼっちの自分を好きになる12の「しないこと」』でダウンタウンとの歩みもつづった大崎氏。今年60代に突入するダウンタウンの今後に期待していることとは――。

  • 吉本興業ホールディングス代表取締役会長の大崎洋氏

■「60代どうするんだろうという意味では楽しみ」

「あの頃、ダウンタウンの二人は、『ほんの少し先のほうに光が確実に見えているのに、いくら手を伸ばしても届かない』という状態でした。でも、松本くんは『お笑い』という唯一の武器を手にして、居場所をつくろうとしていた。そして平凡な僕は、その花が咲く場所をつくろうとしていました」

『居場所。』でこうつづった大崎氏。ダウンタウンをはじめとする芸人たちの居場所を作りつつ、自身の居場所も探しながら進んできた。「自分の居場所を見つけたい」。そうもがいている多くの人たちの心を少しでも軽くしたい。そんな思いで同書を上梓した。

「吉本に入っていろんなことがあって、気がついたら社長になって、会長になって、でもサラリーマン生活の半分くらいは窓際にいました。皆さん働いていたら嫌なことや悩み事がたくさんあると思いますが、そんなに悩まなくてもいいんじゃないかということを若い人や子供たちに伝えたかったというのが出版の基本的なところです」

松本人志が帯コメントを寄せた『居場所。ひとりぼっちの自分を好きになる12の「しないこと」』

『居場所。』というタイトルは、大崎氏が多くの芸人たちの場をつくってきたということに加え、遊び心も。「松本人志くんの本『遺書』が280万部売れましたが、『遺書』の間に『場』をつくって『居場所。』という、裏ストーリーもあります」と明かした。

松本人志は帯に「一気に八回読んだ」とコメントを寄せたが、大崎氏は「松本は1回も読んでないと思います(笑)」と予想する。

「BSよしもとの番組のときに会って、頼み事を3つして、2つは『いいですわ~』と(断られた)。最後に『本を書いたんだけど帯にコメントくれへん?』とお願いしたら、『全然大丈夫です』と言ってくれて、1勝2敗でよかったなと(笑)。後日ゲラを渡したら、『ゲラって読みにくいんですよ』と言っていて、『どっちにしても読めへんやん』と言ったら『まあね~』と。たぶん読んでない!」

同書では、ダウンタウンとの出会いから、「なんで俺ら売れへんのですか」ともがいていた時代、ブレイクのきっかけとなった『4時ですよーだ』の舞台裏など、ダウンタウンと大崎氏の歩みがつづられている。

いまや吉本の“看板”となり、お笑い界を牽引しているダウンタウン。2人とも今年60歳。大崎氏は70歳を迎える。

「松本くんや浜田(雅功)くんが60歳というのもショックでね(笑)。まだ32、3歳ぐらいの感じがして。今田(耕司)くんや東野(幸治)くんは27、8歳。いつまでも出会った頃の感じで思っているけど、現実はもう60歳なんですよね」

しんみりしつつ、60代のダウンタウンの挑戦に注目している。

「60のええ年したおじさん2人ですからね。でも、60代どうするんだろうという意味では楽しみでもあるし、この10年間でどんなチャレンジをしてどんなことが起こるのか、なんとか長生きして見てみたいです」

■「居場所は世界中にあるんだよと伝えられたら」

また、ダウンタウンの世界進出にも期待しているようだ。

「15年ぐらい前の松本くんの大喜利の番組をヒントに大喜利のアプリを作っている男の子2人がいて、この間ご対面させたんですよ。『僕たち松本さんの大喜利の番組をパクッて15年やってきたんですけど、これからどうしたらいいですかね?』と言ってみんなで大笑いして。作家の高須(光聖)くんもいたので、一緒にやろうかという話をしていて、松本くんのアイデアがスマホのアプリを通じて世界デビューできるみたいなことがある」

そして、世界に進出する姿を見せることで、居場所は世界中にあるということも伝えられたらと願っている。

「クラスや学校で嫌われていて友達が1人もいないという子もいるかもしれませんが、そんな狭いところで悩まなくても、居場所は世界中にあるんだよということをうまく子供や若い人たちに伝えられたらいいなと。世界デビューみたいなことで世界のマーケットで勝負して、そういうことも伝えられたらなと思います」

さらに大崎会長は、本作に込めた思いを語る。

「居場所について悩んでいる若い人や子供がいっぱいいると思います。置かれた場所で頑張りなさいということも大事ですが、それだけが唯一の選択肢ではないよと。置かれた場所で咲くのもいい花だけど、ふわふわと風に乗って違う場所に行ってもいいんじゃないかというのを気楽に……そのときは気楽に考えられないと思いますが、気楽に考える癖をつけると乗り越えられるんじゃないかなと思っています」

ダウンタウンをはじめとするお笑い界のトップスターたちとの秘話を交えながら、自分や大切な人たちの居場所をつくるために心がけてきた12の「しないこと」をつづった同書は、発売から約2カ月で6万部を売り上げ好調だ。

「100年計画で沖縄をエンタメ産業創出の島にしたい」との思いで、「島ぜんぶでおーきな祭 沖縄国際映画祭」を毎年開催するなど、沖縄にも力を入れている大崎会長。吉本興業が設立した「沖縄ラフ&ピース専門学校」の1階では、子供たちの居場所として「子ども食堂」を展開しているが、「『居場所。』の印税を『子ども食堂』のプロジェクトに全部使えたら」とも話していた。

■大崎洋(おおさき・ひろし)
1953年7月28日生まれ、大阪府出身。1978年4月、吉本興業入社。数々のタレントのマネージャーを担当。1980年、東京事務所開設時に東京勤務となる。1986年、プロデューサーとして「心斎橋筋2丁目劇場」を立ち上げ、この劇場から多くの人気タレントを輩出。1997年、チーフプロデューサーとして東京支社へ。その後、音楽・出版事業、スポーツマネジメント事業、デジタルコンテンツ事業、映画事業など、数々の新規事業を立ち上げる。2001年に取締役、その後、専務取締役、取締役副社長を経て、2007年に代表取締役副社長、2009年に代表取締役社長、2018年に共同代表取締役CEO、2019年に代表取締役会長に就任。