村上春樹×スガ シカオ「2人で音楽の話をしよう」村上RADIO公開収録『懐かしのアトランティック・ソウル』の模様をオンエア
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。4月30日(日)の放送は「村上RADIO公開収録~懐かしのアトランティック・ソウル with スガ シカオ~ @The Haruki Murakami Library」をオンエアしました。

今回は、3月24日(金)に早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)でおこなわれた公開収録の模様を放送。ゲストにスガ シカオさんを迎え、スガさんの音楽ルーツの1つでもある1960年代のアトランティック・レコードの音源を中心に、音楽を聴きながら古いソウル・ミュージックについて熱く語り合いました。
この記事では、ウィルソン・ピケット「Funky Broadway」について語ったパートを紹介します。


こんばんは。村上春樹です。村上RADIO、今日は早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)の中にある放送スタジオから、公開録音みたいなかたちでお届けします。
今日の特別ゲストは歌手のスガ シカオさんです。2人でひと昔前のソウル・ミュージックを聴きながら、音楽についてたっぷりお話をしたいと思います。

<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」

僕とスガさんはガラス張りのスタジオの中におりまして、前には40人ばかりのオーディエンスのみなさんがいらっしゃいます。なんか動物園の檻の中にいるみたいですけど、とくに芸をするわけではなくて、ただ楽しくおしゃべりをします。
でも、たまにはこうして人前に出て話すのもいいですね。しっかり楽しんでください、僕も楽しみます。

◆Wilson Pickett「Funky Broadway」
村上:さて、スガ シカオさんです。こんばんは。

スガ:こんばんは、よろしくお願いします。

村上:久しぶりですね。

スガ:お久しぶりでございます。

村上:この前ここで出張ミニライブをやって、いろいろ歌ってくれて、最後に「バクダン・ジュース」を歌ってくれました。素晴らしかったです。

スガ:リクエストをいただきまして。

村上:楽しかったです。今日はスガさんは歌うわけじゃなくて、2人で音楽の話をしようということになりまして。それも、アトランティック・ソウル、それも古いソウルに特化して話すという、かなり狭い範囲の話です。

スガ:狭すぎます(笑)。いまどき、このテーマでラジオ番組をやるのって聞いたことがないです。

村上:聞いたことがないですよね、聞いたことがないことをやるのが「村上RADIO」の特色でして。今日は2人でそれぞれに、好きなひと昔前のソウル・ミュージック、とりわけアトランティックものをもってきて、順番にかけていきます。まずは僕の曲から1曲聴いてください。僕が選んだのはウィルソン・ピケットの「Funky Broadway」ですね。これは、僕がボストンのレコード屋さんで……。

スガ:うわ、アナログ!

村上:できるだけ今日はアナログで、僕が持ってきたレコードでかけます。これはボストンの「In Your Ear Records」という中古レコード屋さんで買ったものです。$9.99という値札まで付いていますね。「Funky Broadway」、知ってますよね。

スガ:もちろんです。

村上:かっこいいですよね。行ってみましょう。
  


村上:このへんは、1960年代半ばくらいですね。

スガ:ちょうど僕が生まれたくらいです。

村上:僕は現役のティーンエイジャーだったから、一生懸命聴いていました。

スガ:新譜としてこの音楽を聴いていたってことですよね。うらやましい。

村上:素晴らしかったですね。
  


スガ:ウィルソン・ピケットは結構売れていたし、当時Mr.ソウルマンという感じだったんですけど、結構人間的には難しい人だったんですよね。結構アトランティックの中でもミュージシャンとうまくいかなかったんですよ。

村上:バックミュージシャンと……。

スガ:やっぱりアトランティック・ソウルって、後ろのミュージシャンが特徴的というか。ブッカー・Tもそうだし、そういう人たちが演奏しているところが、サザン・ソウルっぽくなるというのがあったんですけど、ウィルソン・ピケットはそういう人たちとうまくいかなくて。あっちこっち転々としていたらしいですね。

村上:「ダンス天国」もこの人ですよね。かっこいいよね。

スガ:そうですよね。すごくハードですよね。シャウトがかっこいいし。

村上:スガさんの音楽って、いろんな音楽の要素が入り込んでいるという気がするんです。なかでもこういう古いソウル・ミュージックの要素を感じるんですよね。

スガ:はい、もう本当に好きなんで。当時、18ぐらいのときにソウル・ミュージックを初めて聴いて、そこからはソウルとファンクしか聴かなかったです、30歳くらいまで。もうブラック・ミュージックしか聴かなかった。

村上:そのころは、こういう音楽はすでにオールディーズになっているわけですよね。

スガ:そうですね、もう亡くなっている方も多かったですし。マーヴィン・ゲイとかも亡くなっていたし。もう、まわりの友達は誰も聴いてなかったですね。だけど、そこにすごく惹かれちゃって、70年代の音楽に戻り、そこからまた60年代に戻るっていうふうに聴いていました。

村上:たとえばアトランティックとモータウンは違うわけじゃないですか。

スガ:モータウンはモダンだし、おしゃれですよね。

村上:僕もアトランティックとかスタックスとかに惹かれるんです。スガさんの音楽にそういう匂いがするんですよね。

スガ:モータウンも好きですけど、サザン・ソウル、アトランティックもののほうが、なんとなく土の匂いがするというか、そういう感じが好きでよく聴いていましたね。

<番組概要>
番組名:村上RADIO公開収録 ~懐かしのアトランティック・ソウル with スガ シカオ~ @The Haruki Murakami Library
放送日時:4月30日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
ゲスト:スガ シカオ
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/