マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国金融政策の注目ポイントについて解説していただきます。


米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、高騰するインフレに対抗するため、今年3月から積極的な利上げを続けてきました。ここへきて、今すぐではないものの、利上げの打ち止めや、利下げへの転換が近づいているのではないかとの見方が市場で強まっています。そのため、米国の長期金利(10年物国債利回り)が大幅に低下しており、米ドル/円は下落しています。

12月13-14日のFOMC

13-14日にFRBが金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、日本時間15日午前4時に結果が発表されます。以下ではそこでの注目ポイントを考察します。

利上げ幅は0.50%か、0.75%か?

FOMC関係者は、現在のインフレが高すぎるとして利上げ継続の意向で一致しているようです。ただ、FOMCでは過去4回連続で0.75%の利上げを実施してきましたが、今回は0.50%の利上げとなりそうです。

もっとも、利上げのペースを落としても、それは必ずしも利上げ打ち止めが近いという意味ではありません。FRBのパウエル議長は11月30日の講演でも、早ければ今回のFOMCで利上げペースを落とすと表明したうえで、利上げのペースはターミナル・レート(政策金利の最終到達水準)に比べれば「全くもって重要ではない」と明言。ターミナル・レートについては従来考えていたより高くなりそうだとの考えを示しました。メディアでは、「利上げペースの鈍化=利上げ打ち止めの接近」との論調もみられますが、それは的を射ていません。つまり、利上げ幅はもはや重要な論点ではないということです。

声明文や議長の会見はどうなる?

前回11月のFOMCでは、従来なかった「利上げの累積効果、金融政策が経済活動やインフレに影響するまでのタイムラグ、そして経済や金融市場の動向を考慮する」との文言が声明文に追加されました。「累積効果」や「タイムラグ」は、これまでの利上げの効果を見極めながら、追加利上げは慎重に(時間をかけて)実施するという意味でしょう。

また、パウエル議長は上述の講演で、「一連の利上げで経済を急に失速させたくない」と述べており、やはり今後の利上げには時間をかけることを示唆しました。今回の声明文や議長の記者会見から、打ち止めの接近を示唆するような、さらに踏み込んだ見解が表明されるかに要注目でしょう。

どんな経済見通しが示されるか?

今回のFOMCでは、参加者全員の経済・金融政策見通しを集計したものが公表されます。3カ月に一度で、前回は9月でした。9月時点では、経済成長率(実質GDP伸び率)が今年の0.2%から23年1.2%、24年1.7%へと弱いながらも改善する見通しでした。ただ、11月のFOMCでは、FRBスタッフがリセッション(景気後退)の可能性が高まっていると指摘しており、見通しが下方修正される可能性があります。

  • FOMC参加者の経済見通し

一方、失業率は上昇が予想されており、これは経済成長を犠牲にしてもインフレを抑え込むとのFOMCの意思が反映されています。そして、インフレ率(PCEデフレーター)は総合も、食料とエネルギーを除くコアも今年から徐々に減速するものの、FRBが目標とする2%に到達するのは2025年以降との見通しでした。今回公表される経済見通しが9月時点からどう変化しているかも興味深いところでしょう。

ドット・プロットが示す政策金利の軌道は?

恐らく金融市場がもっとも注目しているのは、FOMC参加者の政策金利見通し(各年末)を一人一つの点(ドット)でしめした、いわゆる「ドット・プロット」でしょう。各個人の見通しなのでバラつきがありますが、金融市場はその中央値をFOMCのコンセンサスとみなす傾向があります。

9月の「ドット・プロット(中央値)」では、政策金利が23年末に5%弱の水準でピークアウトし、24年末、25年末と低下する見通しが示されました(※)。ただ、パウエル議長をはじめFOMC参加者の多くは、ターミナル・レート(ピークアウトの水準)が9月時点の見通しより高く、さらにその水準が長く維持されるとの見解を表明しています。金融市場では、比較的低い水準でピークアウトし、早い段階で利下げが始まるとの見方が強まっています。そのため、「ドット・プロット」次第ではそうした見方が修正される可能性があります。

  • FOMCの「ドット・プロット」

(※)厳密には、各年末時点での政策金利の水準を予想しているに過ぎないため、年間を通して政策金利がどんな動きをするかは示されません。

いずれにせよ、来年の米国の金融政策を考えるうえで、今年最後のFOMCは重要なヒントを与えてくれそうです。