56発の村上宗隆だがwRAAでは王に届かず セイバーメトリクスの視点で過去…

セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう

 本企画はNPB過去年度の打撃ベスト10を眺め、往事の野球を今の視点から振り返り楽しんでもらおうというものだ。

 

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 ただベスト10は従来の打率ではなく、セイバーメトリクスにおける総合打撃指標wRAA(※1)を採用する。これはリーグ平均レベルの打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標だ。

 

 

 この視点で振り返ることで、実は過小評価されていた打者がわかるということもあるかもしれない。今回は2022年シーズンを振り返る。

2022年のパ・リーグ

チーム    試合 勝率 得点 失点 得失点差

オリックス  143 .539 490 458 32

ソフトバンク 143 .539 555 471 84

西武     143 .514 464 448 16

楽天     143 .493 533 522 11

ロッテ    143 .486 501 536 -35

日本ハム   143 .421 463 534 -71

  

 

 2022年はwRAA52.2をマークした吉田正尚(オリックス)が2019年以来2度目の1位に輝いている。出塁率と1打席当たりの打撃貢献を表すwOBA(※3)でもリーグをリード。前年はwOBAで1位となりながら欠場がかさんだためにwRAAでは柳田悠岐(ソフトバンク)の後塵を拝することとなったが、今季は双方の首位を獲得した。吉田は2018年にwRAA4位となって以後5年間で、wRAA、wOBAの首位をそれぞれ2回獲得している。

 

 2位には本塁打王、打点王、最高長打率を獲得した山川穂高(西武)がランクイン。今季吉田は24試合、山川も14試合とともに一定の欠場があった。ただ今季ベスト10の中にはほかにも欠場選手が多く、欠場を10試合以下にとどめたのはわずか3選手だけであった。選手にも多数の感染者を出した新型コロナウイルスの影響の大きさを思い知らされるとともに、多くの選手が深刻な状況にならず復帰したことは感染症が日常的な存在へと変わりつつある現状を示しているように感じる。

 

 本企画2021年版の時点で投手優位が少々進みすぎたと記したが、今季は中立に戻るどころか輪をかけてバランスが崩れてしまった。リーグwOBA(投手の打席除く)が3割を下回ったが、これは低反発球時代にあたる2012年以来のことである。極端な投打バランスは選手の育成や生き残りにバイアスをかける。国際的に見た日本野球のレベル向上の観点から、これが正しい方向であるかは疑問である。筆者としてはリーグwOBAが.320程度にはなるよう中立方向への回帰を目指してほしい。

 

 

 今季ブレイク組では5位の松本剛(日本ハム)が投手優位をはね返して自己ベストのシーズンを過ごし、首位打者を獲得。前年までの4年間の打席数を合計しても規定打席に届かない状態からの唐突な活躍であった。このまま定着すれば稀に見る遅咲き選手となる。松本のほか、今宮健太(ソフトバンク)、辰己涼介(楽天)中川圭太(オリックス)と、ベスト10新顔が4人を数えた。

 

 ベスト10圏外では規定打席不足の近藤健介を挙げる。打率.302、8本塁打と目立たない成績ながら相変わらずの高い出塁能力を発揮。wOBA(.385)はリーグ3位相当、積み上げのwRAA(28.0)はリーグ4位に相当する好成績であった。

2022年のセ・リーグ

チーム  試合 勝率 得点 失点 得失点差

ヤクルト 143 .576 619 566 53

DeNA  143 .518 497 534 -37

阪神   143 .489 489 428 61

読売   143 .486 548 589 -41

広島   143 .471 552 544 8

中日   143 .468 414 495 -81

  

 

 2022年は村上宗隆(ヤクルト)一色のシーズンとなった。8月3日、96試合消化の時点で本企画の特別編として村上の圧倒的な傑出を取り上げた。しかし、その後の村上はさらにペースアップ。チーム129試合(本人127試合)消化時点の9月13日に神宮の読売戦で54号55号を放ったところでwRAAは87.9に達していた。特別編の時点で「現在のペースを続けられたとしてシーズン終了時に到達する数字」として挙げていた数字の87.4を、まだ14試合を残している時点で既に超えてしまっていたのだ。

 

 ちなみにこのwRAAランキングのシーズンベストを歴代で見ると、上位は王貞治(元読売)だらけになる。この王を除いた中でのナンバーワンは1986年のランディ・バース(元阪神)。村上の9月13日時点の87.4はこの「王を除いた中でのナンバーワン」にあたるバースのを上回る数字。それどころかペースを守ることができればwRAAは97.6に達し、1973年の王を悠に超える歴代1位となっていた。

 

 ところがここから突如として当たりが止まる。続く11試合で、ここまでの活躍では考えられなかった48打席、3安打、12四死球。0本塁打、打率.083、長打率.139を記録。この11試合でwRAAは何とマイナス4.7。最終3試合は2試合で単打1本ずつ。最終戦で記憶に新しい56号本塁打を放つも、最終的に1986年のバースの数字も下回ってシーズンを終了してしまった。

 

ただしひとつだけ強調するとすれば、wRAAを勝利の単位に換算した勝利換算(※2)の値については、見事バースの数字を上回り、王を除いた中での史上最高となったことも事実である。昔から拝見してきた歴代のレジェンドを、22歳にして既に凌ぐ選手が眼前にいることは感慨深い。結果として極めて優秀なシーズンだがwRAA(85.5)の方は記録更新には届かなかった。これについては、日本国内に課題を残したと考えればまだよかったのかもしれない。

 

 現行のルールでは25歳まではメジャー契約ができないとのことで、村上の場合あと3年はNPBに残らなくてはならない可能性が高い。ただ村上の誕生日は2月2日。2025年2月2日以後にサインすれば2025年シーズンからでもメジャー契約が結べるのではないかという素朴な疑問も浮かぶ。これはさておき、MLBでの成功を考えるなら1年でも早い移籍が求められる。

 

 

 ベスト10の表に目を転ずれば、村上は打率(.318)、本塁打(56)、打点(134)といったクラシックスタッツのほか、出塁率(.458)、長打率(.710)、wRAA(85.5)、wOBA(.479)といったポジティブな指標ではほとんど1位を獲得している。

 

 2位には丸佳浩(読売)が高い出塁能力を武器にランクイン。長く強打者の座を占めており、今季でついに10年連続のwRAAベストテン入りとなった。3位、4位、6位にはDeNA勢の牧秀悟と佐野恵太、宮﨑敏郎が、各項目に優秀な数字を並べてランクイン。特に牧が二塁手ながら大きなプラスを計上していることは、筒香嘉智を失ったDeNAが再び上位へ浮上したことに大きく寄与している。

 

 10位にただ1人ビシエドを送り込んだだけの中日は今季リーグ最下位。総得点の面でも他球団にかけ離れて少なくなってしまった。既に失点阻止は優秀であるためこれ以上の減少は難しい。順位の向上には得点能力の改善が欠かせないだろう。面白いのは広島で、6球団で唯一ベストテンに選手の名前がない。こうなると中日同様得点力の過少に悩みそうに思えるが、チーム総得点(552)はヤクルトに続く2位。ビシエドとほぼ変わらない成績の打者が3人揃ったほか、全員がマイナスの計上を最小限に留めた結果がこの得点力につながった。

 

 最後に圏外では12位の山田哲人(ヤクルト)。本人としては満足できる打撃成績では全くないと思われるが、DeNAの牧と同様に二塁手であることで価値が大きい。攻撃力を確保することが難しい守備的ポジションでありながら、大きなプラスを計上するのはチーム力の面から非常に大きく、不本意な成績であったが優勝の大きな要因となっている。

 

(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。

(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。

(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。

(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。

 

DELTA・道作

 

DELTA()

 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~5』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』()も運営する。