『アークナイツ 黎明前奏』監督が描く「瞬間を生きる登場人物の輝き」

現在好評放送中のTV アニメ『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』は、天災がもたらした謎多き鉱石「源石(オリジニウム)」の影響によって鉱石病という病が発生した世界を舞台に、病によって生まれた「感染者」たちを巡る戦いのドラマを描いている。

絶望と断絶に打ちのめされながら、それでもなお、かすかな希望を見つけようと抗う人々。『黎明前奏』はそんなヒリヒリとした世界のリアリティと緊張感こそが、大きな見どころとなっている。原作の魅力を見事に映像作品へと落とし込んだ渡邉祐記監督に、演出面の狙いやこだわりについて伺った。

>>>過酷な世界で戦い続ける『アークナイツ黎明前奏』のキャラクターたちをチェック!(写真27点)

――今回のTVアニメ化にあたって、新たに挑戦したことはありますでしょうか?

渡邉 1クール作品での監督経験は初めてで、30分枠の作品でコンテを描いたことも無かったため、自分にとっては作業の全てが挑戦ということになるかもしれません。

特別意識したこととしては、既に原作をプレイされている方とアニメから『アークナイツ』を初めて知る方、双方に同じくらい楽しんでいただける作品にする、という点です。

メディアミックス作品は如何に原作の魅力を広く伝えるかが至上命題と考えているので、既存プレイヤーの方には原作の雰囲気を可能な限り再現した映像を見ていただきつつ、ゲームをプレイしていない方にも映像を通して疑似的にドクターやアーミヤ達の状況を追体験してもらう作りを意識しています。

映像の流れ(テンポ)を止めてしまいがちな「心の声」であったり、以前の出来事を視聴者に思い出してもらうための説明的な回想はなるべく排除し、キャラクターたちの視点に自然と立って、物語を追っていけるような映像を目指しました。

――では、映像演出面で、特にこだわったところや意識したこと教えてください。

渡邉 前述のように、ドクターたちが置かれている状況を追体験してもらうため、実際に現場にいたらどんな景色を見ることになるのかという点を意識しました。

美術・色彩・撮影の各工程の方々と画面の最終的なルックを相談するうえで、原作イラストのもつ埃っぽさ、冬の冷たさ、天災が迫る大気の状態など、観ただけでそこにある空気の質感が分かるようにしたいと話していました。

これは視聴者の方々にも登場人物たちと同じ景色を見て、同じ空気を吸い、同じ危機感を肌で感じてもらうことでより深く作品に没入してもらうという狙いです。一般的なアニメ作品では、キャラを引き立たせるために周囲の環境を整える表現が多いですが、この作品ではおそらく他では許されないくらいキャラが風景に溶け込む画面になっていると思います。

また、原作シナリオでも人間ひとりひとりの非力さや無力さについてたびたび言及されていますが、その価値観に沿う形で主人公もモブのレユニオン兵も例外なく、ひとりひとりがあくまでテラという世界の中に立っているだけの存在であることを意識しました。

各工程の方々の素晴らしい作業のおかげで、ドクターたちがどんな場所で活動しているのかがとても明確になったと思います。

――キャストへの演出面で、特にこだわったところや意識したことを教えてください。

渡邉 キャストの皆さんが本当に素晴らしい演技をされており、自分はただただ感動するばかりでこだわったところというと難しいのですが、ひとつあげるとすれば生っぽい質感だと思います。

2話でMedicが霧の中で悲鳴をあげているところが分かりやすいかなと思いますが、本当に犬の牙が腕の肉に食い込んでいる人の悲鳴を、とお願いしていました。

視聴者に「このキャラクターは痛がっている」という情報を伝える目的であれば、セリフとしての悲鳴……つまり「やめて!!」と台本に書いてあるテキストの読みをそのままはっきり「やめて!!」と発音することでも、心情の表現として十分成立しうると思うのですが、それだけでは『アークナイツ』という作品のもつ緊迫感や悲壮感を表すのに不十分だと感じていました。

そこで、「やめて!!」の「や」の音の出だしが少し弱かったり、「め」と「て」の中間に「へ」の音が混在していたりと、それぞれの音節が成立せず崩れた発音を想定し、キャラクターのシチュエーションに合わせた実感のある印象を重視してディレクションしていました。

この作品だからこそ可能な方向性ですし、キャストの皆さんの優れた技術があって初めて成立する表現だと思います。

――本作の中での監督のお気に入りのキャラクターは誰でしょうか?

渡邉 作品全体をフラットな視点で見ているので難しいですが、強いて言うならメフィストでしょうか。

感情の発露が特徴的なキャラクターは、その振れ幅をどれだけ広く確保できるかが重要なので、急激な感情の変遷は演出する上でとても難しく、面白いです。

また、演じられた天﨑さんの表現がとても素晴らしく、メフィストの突飛な人物描写に深い奥行きを与えていただきました。

(C)Hypergryph / Studio Montagne

――アニメ作品としての本作の「売り」は、ズバリどんなところにありますか。

渡邉 これは既に色々な場面で宣伝させていただいている内容ですが、5.1chサラウンド対応など、想定する視聴環境にかなり力を入れて制作させていただきました。アニメのシリーズ作品ではあまり例のないことと思うので、とても強い売りになっているのではないかと思います。

また、演出的な観点としてですが、あえて直接的には示さず暗喩や婉曲によって表現するという原作シナリオの特徴を取り入れています。

例えば二つ目のキービジュアルでアーミヤとドクターの左右に配置されている瓦礫の山や、1話のラストシーンで用水路を流れていく生活用品の残骸は死体のメタファーとして組み込んでいたりします。

そういった比喩表現がしばしば配置されたりしているので、色々想像しながら観ることでより作品を楽しんでいただけるのではないかと思います。

――制作している中で「アークナイツ」の世界観のどんなところに魅力を感じますか。

渡邉 登場人物たちの背後に、常に大きな不可抗力とでも言うべき何かが横たわっているという点だと思います。

フィクションの作品では、最後には主人公が解決できる(してくれる)んじゃないかという希望があったり、どこかに救いがあるんだろうといった、ある種の「保証」のような感覚を伴って描かれることが多いと思います。或いは「安心」と言いかえてもよいかもしれません。

ですがこの作品にはその「保証」や「安心」が必ずしも用意されているわけではありません。一寸先は闇のまま登場人物たちは先へ進みます。間違った方角へ進んでいるかもしれないし、進んでも何も得られないかもしれない。

それでも歩き続けなければならず、だからこそ全ての場面が登場人物たちにとって大切な時間で、そのひとつひとつの瞬間を必死で生きているさまを描くことは、とても魅力的なことなのだと思います。

――物語後半で、ぜひ注目してほしいポイントがありましたら教えて下さい。

渡邉 少しずつ登場人物も増えてここから関係性がより複雑になってゆき、キャストの皆さんの素晴らしい演技を沢山見ることができると思います。

舞台も変わり、スラム街などそれぞれの場所の映り方や効果音・BGMもシチュエーションに合わせて少しずつ変化していくので、注目してみてください。

また、1話から展開の種を少しずつ蒔きつづけていて、キャラの描き方やセリフのひとつひとつが最終回に向けて収束していきます。

序盤話数の時点では、原作を知る人と知らない人で作品の見え方が大きく異なっていたと思いますが、そのギャップがおそらく最終回を迎える頃には埋まり、原作をプレイしている人もアニメだけを見ている人も大体同じような顔のまま観終えることになるのではないかと思います。是非最後までご覧ください。

――改めて、渡邉監督にとってTVアニメ「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」という作品はどのような存在でしょうか?

渡邉 自分が持っている引き出しの中の暗い部分を全力でぶつけさせてくれる作品です。

その分、気を抜いたらすぐに握りつぶされてしまうような大きな存在だと思います。

――今後の物語を楽しみにして下さっているファンの方々へ一言お願いいたします。

渡邉 いつも『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』をご視聴いただきありがとうございます。

テラの大地はとても非情で、ドクターやアーミヤが対峙する現実は厳しいものばかりですが、皆さんに最後まで見届けていただけたらと思います。

よろしくお願いいたします。

(C)Hypergryph / Studio Montagne