村上春樹「ホーギー・カーマイケルってご存じですか?」自身のラジオ番組「村上RADIO」で特集
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。11月27日(日)の放送は「村上RADIO~ホーギー・カーマイケルをご存じですか?~」をオンエア。名曲「ジョージア・オン・マイ・マインド(我が心のジョージア)」「スターダスト」などを生み出したアメリカのソングライター、ホーギー・カーマイケルの音楽と彼の魅力を、エピソードを交えながら紹介していきました。
この記事では、その一部の内容をお届けします。


こんばんは、村上春樹です。
ホーギー・カーマイケルってご存じですか? 有名なアメリカのソング・ライターなんだけど、若い人はもうご存じないかもしれないですね。「スターダスト」「ジョージア・オン・マイ・マインド(我が心のジョージア)」といった名曲を生み出した人です。1899年11月というから、19世紀のまさにどんづまりに生まれて、1981年に亡くなりました。
今日は彼のソングブックをお送りします。素敵な曲がそろっています。ホーギー・カーマイケル、知らなかった方は覚えてください。

<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」

ドーナッツの食べ方にはいろいろあると思うんですけど、僕は一時、ドーナツの穴だけを残して食べるのに凝っていました。なるべくうまく薄い皮をつけた穴だけが残るようにするんです。これ、けっこうむずかしいんです。何のために苦労してそんなことをしなくてはならないのか? それがドーナッツに対するちょっとした敬意、リスペクトのように思えたんです。なんといっても丸い穴こそがドーナッツの神髄ですから。

◆Willie Nelson「Stardust」
まずは不朽の名作「スターダスト」を聴いてください。1927年、この曲を作曲したとき、カーマイケルはまだインディアナ大学の学生で、弁護士になるべく法律を熱心に勉強していました。でもそのかたわら、ビックス・バイダーベックやフランキー・トランバウアーという当時一流のジャズ・ミュージシャンたちとつきあって、一緒に演奏したり、曲を提供したりしていました。

そんなある夜、道を1人で歩いていたら、急にこのメロディーが頭にさっと浮かんだんです。最初から最後まで。それが消えないうちにと急いでピアノのあるところに行って、なんとか楽譜に書き留めたんだそうです。最初は、歌詞はなかったんだけど、あとになって素敵な歌詞がついて、伝説的な名曲となりました。

しかし、このような複雑な、どうみても普通じゃない構造を持つ曲が、一瞬にして頭にそっくり浮かぶなんて、まさに天才としか思えないですよね。モーツァルトもそうだったという話を聞きましたが。

「スターダスト」、文字どおり星の数ほど名演がありますが、今日はウィリー・ネルソンの歌で聴いてください。彼の飄々(ひょうひょう)とした声が、この曲にナチュラルに似合っています。

◆Ray Charles「Georgia On My Mind」
名曲「Georgia On My Mind」。いろんな人が歌っていて、どの歌唱も素晴しいんだけど、今日はやはりこの人、レイ・チャールズでゆくことにしました。最近では「Georgia On My Mind」といえばレイ・チャールズ、というのが相場になっているみたいですね。ジョージアが州の名前か、それとも女性の名前か、いろいろと説があるんですけど、今ではジョージア州の州歌になっています。

僕は20歳の頃、ビリー・ホリデイの歌でこの曲を好きになりました。それでレコードを何度も聴いて歌詞の書き起こしをしたんですが、1ヵ所どうしても聞き取れないところがありました。
“The road leads back to you(その道が君のもとに僕を導いてくれる)”というところです。ビリー・ホリデイの歌だとその部分の滑舌が良くなくて、なんのことだかよく聞き取れなかった。「ザ・ローリーバック・トゥー・ユー」としか聞こえない。古い録音ですしね。苦労したことを覚えています。レイ・チャールズの歌だとしっかり聞き取れます。

<番組概要>
番組名:村上RADIO ~ホーギー・カーマイケルをご存じですか?~
放送日時:11月27日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/