オリックス・若月健矢 [写真=北野正樹]

◆ 猛牛ストーリー【第46回:若月健矢】

 リーグ連覇を達成し、昨年果たせなかった日本一も成し遂げたオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第46回は、エース・山本由伸とのコンビで26年ぶりの日本一に貢献した若月健矢捕手(27)です。9年目の今季は規定打席には足りなかったものの、打率.281と勝負強い打撃を見せました。

 FAで西武から加入した捕手・森友哉とは、同学年でプロ入りも同じ年。「雲の上の存在」とリスペクトしつつ、「試合に出るためには頑張るしかない。それは毎年同じ」と、静かに闘志を燃やしています。

◆ 「こんなことがあるのか、という感じ」

 森の入団会見を翌日に控えた11月25日。新たなライバルを迎えることになる若月は、大阪市内の球団施設でいつもと変わらず汗を流していた。

 「競争ですか。もちろんそれもありますが、試合に出るためには頑張るしかない。それは毎年、一緒だと思います」

 強力なライバルの出現で、さらに激しさを増す捕手争い。嫌な質問にも、正面から向き合って答えてくれた。

 35歳の松井雅人がチームを去り、5歳上の伏見寅威がFAで日本ハムに移籍。捕手の最年長は若月と森、そして日本ハムからトレードで加入した石川亮の“27歳トリオ”に。次いで頓宮裕真が26歳と、一気に若返った。

 「森もそうですが、石川も“同級生”なんですよ。こんなことがあるのか、という感じですね」

 若月は花咲徳栄高からドラフト3位でオリックスに入団。森は大阪桐蔭高から同1位で西武へ、石川は帝京高から同8位で日本ハム入り。

 同じ年に高校からプロの扉を叩いた3人の捕手が、プロ10年目に同じチームでしのぎを削る。FAやトレードによる偶然の産物だが、育つのが難しいと言われる捕手というポジションで、3人が厳しいプロの世界を生き抜いてきた証でもある。

◆ 「雲の上」も負ける気はなし

 森とは、松井裕樹(楽天)や山岡泰輔(オリックス)らとともに、日本代表としてU-18・W杯に出場したこともある。

 「雲の上の存在ですね。僕は3年まで甲子園に出ていないですし、今も雲の上の存在だと感じていますね」というのが、森の印象だという。

 森の実績は言うまでもない。大阪桐蔭高2年時には藤浪晋太郎(阪神)とバッテリーを組んで春夏連覇を達成し、3年時は主将として春夏連続で甲子園に出場。

 プロでは2019年に打率.329をマークし、捕手として史上4人目の首位打者のタイトルを獲得したほか、23本塁打・105打点でパ・リーグMVPに輝いた男へのリスペクトが、「雲の上の存在」という表現になったのだろう。

 それでも、定位置争いに負けるつもりはない。

 課題とされた打撃では、今季は打率.281と昨季の.214から大きく数字を上げた。試行錯誤で再三フォームを変えていたシーズンもあったが、今季は梵英心打撃コーチ(現・内野守備走塁コーチ)と早出特打を繰り返した成果もあるのだろう。

 また、打席での“気持ちの切り替え”も奏功したという。

 「やってはいけないことを整理して打席に入れていたように思います。バットに当てれば何とかなるという場面では初球から積極的に打っていきますが、“ここでダブルプレーはダメだな”、“ここは引っ張ってはいけないな”など、ひとつだけ決めごとを作って打席に入っていくんです。昨年までは“これをやっちゃアカン”、“これもやったらアカン”といろいろ詰め込み過ぎて。だから1個にしようと。そんな気持ちの持ち方も良かったのかなと思います」

 頭の中を整理して、シンプルにボールに向かう。本塁打は4本に留まったが、8月19日の西武戦(ベルーナドーム)では2打席連続で本塁打を放ち、自身初の1試合2本塁打。ほかにもプロ初のサヨナラ打など、得点圏打率は.371と勝負強さも光った。

 森の今季の成績は、故障もあって打率.251で8本塁打。「そこは、通算成績で言うと天と地の差ですね。僕は今年打っただけなんで」。今年の結果に一喜一憂はしない。

 守りでも負けてはいない。

 若月は2019年に138試合に出場し、リーグトップの盗塁阻止率(.371)をマークするなど、強肩とスローイングの正確さには定評がある。

 今季の盗塁阻止率は規定に足りず、リーグ首位はロッテの佐藤都志也(.361)に譲ったが、それでも.442と強肩ぶりを発揮。最後まで首位争いをしたソフトバンク戦では、4度の企画数のうち3度刺して阻止率.750と、肩でもリーグ連覇に貢献した。ちなみに、森の阻止率はリーグ4位の.328だった。

 研究も怠らない。オフには全チームの捕手のデータを取り寄せ、捕球してから送球するまでのタイムを比較して改善する。

 「僕は捕球してからが速くないので、正確にいい球を投げなければいけないんです」と、送球の精度を追求しながらも、捕球後、ボールの握り替えのスピードを0.05秒短縮することに挑み続ける。

 “0.05秒”にこだわるのは、単に阻止率を上げるだけでなく、「相手に走る気持ちを起こさせない。企画させないことが大事」という抑止力につながるためだ。

◆ 10年目も「一心不乱」に

 扇の要の捕手らしく、視野が広い。先輩からの信頼は厚く、後輩にも慕われ、面倒見もいい。

 23歳で7歳年上のT-岡田から選手会長を引き継ぎ、2年間務めたのはそうした人間性を評価されてのものだろう。

 今季も二軍で過ごした時期には2年目の中川拓真らに気軽に声を掛け、一軍では自身がスタメンを外れた試合でも、投手にさりげなくアドバイスを送る。

 21歳の宮城大弥が捕手のサインに首を振った試合では「あれでいいんだぞ」と、先輩に気遣うことなく投手としての感性を大事にする心を後押した。

 茶目っ気もある。昨季途中、宗佑磨の登場曲がジンギスカンの『めざせモスクワ』に変わったのだが、変更したのが若月だった。

 というのも、宗が紅林弘太郎の登場曲を内緒で変更。それを受け、「宗にお灸をすえてやろうと思って(笑)」。そんな背景からこっそり変更したものだったが、リズミカルな曲調にあわせて場内のファンから手拍子が起こり、宗の活躍やチームを勢いづける要素としてひと役買うこととなった。

 新人時代、入寮の際に新調したミットに縫い込まれていたのは「一心不乱」の文字。プロ10年目も他に惑わされることなく、ひたむきに取り組んで定位置確保を目指す。

 12月19日(月)には、都内で『若月健矢トークショー』の開催も決定。ここ2年間はオンラインでの開催となっていただけに、ファンの前でさらなる飛躍を誓う。

取材・文=北野正樹(きたの・まさき)