また海外から電気で動く“はたらくクルマ”が入ってきた。シンガポールのベクトリクスという会社が開発中の電動3輪カーゴスクーター「アイ・カーゴ」という車両だ。いきなり都心に旗艦店「VECTRIX Tokyo Ginza Gallery」を開くほど強気な同社だが、肝心のクルマはどんな仕上がりなのか。取材して乗ってみた。

  • ベクトリクスの「アイ・カーゴ」

    日本の物流を変える? ベクトリクス「アイ・カーゴ」のプロトタイプ

ドライバー不足を解消?

現在はシンガポールに拠点を構えるベクトリクスだが、もともとは1996年にアメリカで設立されたメーカーだ。電動マキシスクーターのパイオニアとして普及に取り組んでおり、日本ではあまり耳馴染みはないが、アメリカとヨーロッパでは高い知名度を誇るという。2018年にはベクトリクス ジャパンの取締役でもある駒里リンダ氏がオーナーに就任。新生ベクトリクスとして初の製品化を目指しているのが、小型商用BEV(バッテリーに溜めた電気で走る電気自動車)のアイ・カーゴというわけだ。

  • ベクトリクスの「アイ・カーゴ」

    東京・新橋に誕生した世界初のベクトリクスの旗艦店

  • ベクトリクスの「アイ・カーゴ」

    「アイ・カーゴ」の車体サイズは全長2,130mm×全幅1,020mm×全高1,815mm。登録区分は側車付軽二輪自動車となり、普通自動車運転免許があれば運転できる

ベクトリクス ジャパン代表取締役CEOの山岸史明氏は、アイ・カーゴを「物流業界のラストワンマイルの課題に直接アプローチする乗り物」と紹介する。ドライバー不足が深刻な物流の世界では、荷物を目的地に運ぶ最後の部分、つまり「ラストワンマイル」の担い手の確保が急務だが、アイ・カーゴがこの問題の解決策になりうるとの考えだ。

重要なのは、アイ・カーゴが普通自動車運転免許で乗れるところ。警視庁の運転免許統計データによれば、普通自動車免許の保有者数は普通二輪免許の約40倍に達する。つまり、仮にバイクが担っているラストワンマイル物流がアイ・カーゴに置き換われば、これまでドライバーになりえなかった人も物流に携われることになる。

そこでこだわっているのが、誰もが簡単に、安心して運転できるEVとすること。3輪とはいえ、運転に不慣れな人であれば万一の転倒が心配になるかもしれないが、アイ・カーゴは完全自立式設計のため、横から強めに押しても傾くことがなく、転倒の心配はかなり少ない。

車両後部は最大で全長700mm×全幅920mm×全高1,100mmのラゲッジスペースとして活用できる。都市部向きのコンパクトな車体ながら、スクーターよりもはるかに多くの荷物を運ぶことができるところも、ラストワンマイルの担い手としてのアイ・カーゴのメリットといえる。

  • ベクトリクスの「アイ・カーゴ」

    車両後部に積載する荷台ボックスは現在開発中。ボックスタイプを複数用意することでさまざまな用途に対応していく予定だという

バッテリーシステムは交換式を採用。フル充電で80~100kmは走れるという。充電は家庭用100Vコンセントで約4時間かかるが、充電済みのバッテリーを用意しておけば交換してすぐに配達に向かうことができる。

バッテリーはサブスクリプション形式で提供する予定だ。物流会社が繁忙期や閑散期の需要に合わせてバッテリー個数を調整できるようにすることで、利便性に加え経済性の向上も図る狙いがあるという。気になるサブスクリプションの価格は検討中とのことだが、1個あたり1万円を切る価格設定を目指すとしている。

  • ベクトリクスの「アイ・カーゴ」

    定格出力4kWのバッテリー2個を搭載。バッテリー容量は計60Ahとなる。交換式のサブスクリプション形式だから、バッテリーの劣化を気にせず使えるのは嬉しいポイントだ

「アイ・カーゴ」に乗ってみた!

今回はプロトタイプの試乗ができたので、乗り方や乗り心地についてもご報告したい。

まず、ハンドル周りはおおよそバイクと同様だが、左右のハンドルブレーキのほかに足元にもフットブレーキを備えている。運転してみた感じはスクーターのようで、ハンドルブレーキだけでも事足りると思ったが、フットブレーキは普通自動車免許で運転できるようにするため必要な装備だったらしい。

  • ベクトリクスの「アイ・カーゴ」

    「アイ・カーゴ」のフットブレーキ。ハンドルブレーキに比べて、多少効きが強いように感じられた

  • ベクトリクスの「アイ・カーゴ」

    「アイ・カーゴ」はバックも可能。バック時は近頃のクルマと同じく、液晶に後ろの様子が映し出される

  • ベクトリクスの「アイ・カーゴ」

    リアホイールのインホイールモーターが駆動を担う。次世代の自動車技術とされるインホイールモーターだが、電動キックボードにも採用が見られるなど、クルマ以外のところで使用例が増えつつある様子だ

アクセルをひねって試乗をスタート。走り出しは多少重たい気もするが、走り出してしまえば軽快とまではいわないが、重苦しさは感じない。なお、最高速度はスポーツモードで45km/h、エコモードで20km/hとなっている。

試乗中は信号待ちのちょっとした停車が何度かあったが、完全自立式のおかげでバイクのように足を地面につく必要がなく、そのまま座っていればいいのでかなり楽だった。これなら、クルマを運転するのとそこまで違和感を感じないのではないだろうか。ペーパードライバーがいきなり公道をアイ・カーゴで走れるのかといえば疑問は残るが、転倒リスクの小ささと簡易な操作性を考えれば、バイクよりは敷居が低いかもしれない。

今後のビジョンについて山岸氏は、「まずは日本で展開し、日本の利用者の厳しい目でチェックをしていただく。そのフィードバックを受けて改善した上で、シンガポールをはじめとする東南アジアのマーケットへ広げていく」とした。