マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、FRBの金融政策について解説していただきます。


米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は11月1-2日に金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)を開催して、0.75%の利上げを決定しました。

0.75%の利上げは4会合連続。FRBは今年3月以降6回連続で利上げを行い、政策金利であるFFレート目標水準を3.75~4.00%としました。

今回注目されたのは、FRBの金融政策が次のフェーズに移る可能性が示されたことです。FRBはこれまで、高騰するインフレ率に追いつかんとするかのように、毎回のFOMCでアグレッシブな利上げを続けてきました。しかし、ここへきて政策スタンスに変化が生じています。政策金利が、景気を刺激も抑制もしない中立水準を超えて、景気にブレーキをかける抑制的な水準に入ったとみられるからです。これまでの利上げの効果を確認しながら、FOMCで都度判断する段階と言えます。

「累積効果」や「遅効性」を考慮

今回のFOMCの声明文は、景気や物価の判断も含めて前回9月分とほぼ同じでした。今後も利上げを継続することが適切だとの見解も表明されました。ただ、利上げのペースに関して、「利上げの累積効果、金融政策が経済活動やインフレに影響するまでのタイムラグ(遅効性※1)、そして経済や金融市場の動向を考慮する」との文言が今回新たに追加されました。とりわけ、「累積効果」や「遅効性」という言葉は重要な意味を持ちます。

(※1)金融政策が経済に影響を与えるまでには3つのラグ(遅れ)があります。(1)政策判断が過去のデータに基づくための「認知のラグ」、(2)必要な政策が決定されるまでの「決定のラグ」(立法措置が必要な財政政策より金融政策の方が短い)、(3)政策効果が浸透するまでの「波及のラグ」(例えば、政策金利が引き上げられてから様々な金利が上昇するまでの時間差など)。

利上げの累積効果や遅効性を考慮する結果、利上げのペースを調節する可能性があるということです。この場合は、利上げのペースを「速める」ではなく、「遅らせる」という意味でしょう。そして、FOMC後の記者会見でパウエル議長は、より直接的に「早ければ、次回(12月)またはその次(23年2月)に利上げを小幅にする。ただ、まだ決定はしていない」と述べました。

利上げの最終到達点は上方シフト

もっとも、パウエル議長の会見は、利上げ継続の意思を明確にする、いわゆる「タカ派」色の強いものでした。議長が、「ターミナル・レート(政策金利の最終到達点)は前回FOMCでの予想より高くなる(※2)」、「利上げの小休止を考えるのは時期尚早」などと発言したからです。

(※2)前回9月21日に公表された「ドット・プロット(各FOMC参加者の政策金利予想)」によれば、23年末の政策金利予想は3.875%~4.875%で、中央値が4.625%。パウエル発言は5%台を指しているかもしれません。ただし、最新の「ドット・プロット」は次回FOMC後の12月14日に公表されます。

金融市場は、次回12月13-14日のFOMCでは0.50%利上げとの見方に傾いたようです。それでも、FOMCの結果判明直後に下落していた米ドル/円や長短金利(10年物と2年物国債利回り)は、パウエル議長の会見後にいずれもFOMC直前の水準を上回り、NYダウは下落幅を拡大しました。

日米金利差は拡大が続く!?

FRBはインフレ率が目標の2%に明確に接近し、目標達成に自信が持てるまでは、利上げの打ち止めや、ましてや利下げを検討する可能性は低そうです。一方で、日本銀行は10月28日の金融政策決定会合でもそうであったように、政策金利をマイナス0.1%とし、長期金利をゼロ%に誘導する、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を変更するつもりは毛頭ないようです。だとすれば、日米金利差は拡大の方向でしょう。米ドル/円については、従来のように一本調子で上昇する局面ではなくなりそうですが、方向として「上」との判断を修正するのはまだ早いように思われます。