三菱自動車工業は軽商用EV「ミニキャブ・ミーブ」の一般販売を再開する。性能は基本的に従来と同じで、発売は2022年11月24日の予定。このクルマ、三菱自動車は2021年3月に生産を終了し、一部法人向けのみの販売を続けていたのだが、ここへきて再販を決めた理由とは?

  • 三菱自動車工業の軽商用EV「ミニキャブ・ミーブ」

    三菱自動車が軽商用EV「ミニキャブ・ミーブ」の販売中止を撤回!

販売台数が増加し始めた?

三菱自動車が2011年12月に発売したミニキャブ・ミーブは、軽自動車で商用車で電気自動車(EV)という唯一無二の個性を持ったワンボックスタイプのクルマだ。これまでに累計9,304台が売れているものの、三菱自動車 国内営業本部 軽EV推進室室長の五島賢司さんによると、「商品ライフサイクルの観点」から販売中止を決定していたそうだ。売れているクルマは普通、発売して数年を経たらモデルチェンジして世代を重ねていくが、ミニキャブ・ミーブはそうならなかったということだろう。ここへきてEVは増えてきたが、ミニキャブ・ミーブが登場した当時はまだまだ充電設備も少なかったし、認知度も三菱自動車が思った通りには向上していかず、ビジネスとしてはなかなか厳しかったに違いない。

ところが近年、ミニキャブ・ミーブに対する注目度は増してきているという。販売台数は2019年から増加に転じ、ここ最近は問い合わせ・引き合いも多いそうだ。この情勢変化が販売再開の理由となった。当然ながら、背景には世界的な脱炭素化への関心の高まりがある。「脱炭素に向けたプレッシャーを感じている企業は多い。社有車や業務用のクルマのEV化は今後、増えていくだろう」というのが五島さんの見立てだ。月間販売台数は400台を想定するが、徐々に増やしていきたいという。

  • 三菱自動車工業の軽商用EV「ミニキャブ・ミーブ」
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  • 販売を再開する「ミニキャブ・ミーブ」。ドライブモードは電力消費を抑える「ECO」、通常の「D」、回生ブレーキを強める「B」の3つから選べる。AC200V(15A)の普通充電なら約7時間でフル充電となるので、業務終了後に充電を始めれば翌日にはバッテリーが満タンになっているはずだ

2022年11月に販売を再開するミニキャブ・ミーブは、基本的に従来型と性能は変わらない。搭載するバッテリーの容量は16kWh、フル充電での航続距離は133km(WLTCモード)だ。グレードと価格も従来と同じで、選べるのは2シーター仕様(243.1万円)と4シーター仕様(245.3万円)の2種類となる。

再販にあたって変更になった点もいくつかある。まず、「Active Stability Control」(ASC)の追加だ。これはブレーキとモーターを制御する技術で、クルマの姿勢の乱れを制御して安定性を確保し、滑りやすい場面では発進時のスリップを防いでくれる。ほかにはオートライトコントロール(暗くなったら自動で点灯)が追加となったり、荷室の10カ所にユーティリティナット(フックやレールが装着しやすい)が標準装備となるなど、装備面では従来型よりも充実している。

ちなみに、三菱自動車は先日、軽EV「ekクロスEV」(バッテリー容量20kWh、WLTC航続距離180km)を発売しており、このクルマのシステムをそのままミニキャブ・ミーブに搭載すれば、簡単に性能アップが図れるのではないかという疑問も思い浮かぶのだが、ekクロスEVは日産自動車との共同開発で、三菱が独自開発するミニキャブ・ミーブとはプラットフォームからして異なるため、単純にシステムを移植するのは難しかったそうだ。

  • 三菱自動車工業の軽商用EV「ミニキャブ・ミーブ」

    駆動用バッテリーをフロア中央に配置するなど、荷室容量を犠牲にすることなくEVコンポーネントを搭載。大きな段ボール(600×450×600mm)なら14個積むことができる

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  • 駆動用バッテリーをフロア中央に搭載することで低重心化を実現。操縦安定性と乗り心地が向上しており、配送業務に従事するドライバーの疲労軽減にも貢献できるとのことだ。EVならエンジン音がなく静粛性も高いはずだから、労働環境の改善という観点からEVを導入してみるのもいいかもしれない

航続距離133キロというのは一見すると短いように感じるが、三菱自動車によれば軽商用バンのユーザーの77%は1日当たりの走行距離が65キロ未満だそうだから、ほとんど人にとって133キロは必要十分ということになる。再販にあたってバッテリー容量を増やす手もあったはずだが、そうすると価格上昇と重量増は避けられない。「軽商用車の特性として、価格とのバランスは大事」(五島さん)という事情から、このあたりは据え置きとしたようだが、今後は商品力の強化も検討していくとのことだった。