【何観る週末シネマ】『千夜、一夜』夫はなぜ消えたのか…人生を消費しながら信じて待ち続ける残酷さ

この週末、何を観よう……。今週公開の作品の中から、映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、10月7日(金)公開、田中裕子主演、尾野真千子、安藤政信出演の映画『千夜、一夜』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】田中裕子と尾野真千子が共演、映画『千夜、一夜』場面カット【17点】

〇ストーリー

北の離島の美しい港町。登美子(田中裕子)の夫が突然姿を消してから30年の時が経った。彼はなぜいなくなったのか。生きているのかどうか、それすらわからない。漁師の春男(ダンカン)が登美子に想いを寄せ続けるも、彼女は愛する人とのささやかな思い出を抱きしめながら、その帰りをずっと待っている。そんな登美子のもとに、2年前に失踪した夫を探す奈美(尾野真千子)が現れる。彼女は自分のなかで折り合いをつけ、前に進むために、夫が「いなくなった理由」を探していた。ある日、登美子は街中で偶然、失踪した奈美の夫・洋司(安藤政信)を見かけて……。

〇おすすめポイント

「ガイアの夜明け」やNHKなどのドキュメンタリー作家である久保田直が『家路』(2014)以来、8年ぶりに手掛けた新作劇映画。

今作を制作するきっかけとなったのは、北朝鮮による拉致の可能性を除外できないとした「特定失踪者リスト」が公開された際に、実は自分の意思で別の場所で暮らしているという連絡が家族のもとにはいったという話を聞き、興味をもったからだという。

突然、姿を消した最愛の人。それは事件なのか、それとも自分の意思による失踪なのか。生死も理由もわからないまま、その日から時間が止まり、待ち続ける者のやり場のない想いを描いており、さすがドキャメンタリー作家らしく、静かに淡々と進む物語がリアリティを感じさせる。

記憶と残像、そして時間。美しい記憶のままにしたいという意識からなのか、事件ではなくて、どこかで生きていて欲しいという”希望”と、自分の意思ではなく、事件であってほしいという”希望”。そんな複雑な感情が絡み合い、自分自身もどう折り合いをつけていいのかがわからなくなってしまっている。

信じ続けるために人生を消費するということの残酷さを痛感する作品でもあるのだ。

〇作品情報

監督・編集:久保田直 

脚本:青木研次

出演:田中裕子、尾野真千子、安藤政信、白石加代子、平泉成、小倉久寛、ダンカンほか 

制作プロダクション:ソリッドジャム

配給:ビターズ・エンド

2022年/日本/カラー/5.1ch/ビスタ/DCP/126分

10月7日(金)テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開

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