川上つよし

4年に一度のサッカーの祭典「FIFAワールドカップ」が11~12月にカタールで開催される。同大会に出場する日本代表チームの応援企画として、音楽ナタリーではサッカーを愛するアーティストに理想の代表メンバーを妄想してもらうコラムを連載中。第3弾となる今回は、Jリーグ・FC東京の熱心なサポーターとして知られる東京スカパラダイスオーケストラの川上つよし(B)に“川上ジャパン”を編成してもらった。

取材・文・撮影 / ナカニシキュウ

川上つよしとサッカー

サッカー経験はないんですよ。子供の頃は少年野球をやっていて……そもそも日本にまだサッカー文化がそんなになかった。Jリーグもまだなかったし。あるとき、たまたま深夜にテレビでワールドカップ中継を観て……あれはメキシコ大会(1986年)だったのかな? とにかく観客の熱狂具合がすごかったんです。「地球の裏側にこんな世界があったんだ?」と。当時はディエゴ・マラドーナが一番すごかった時代で、「なんだ、この人は?」みたいな感じでしたね。

それで海外サッカーに興味を持ったんですけど、とはいえ試合を観たいと思っても、今と違ってなかなか観るすべがないんですよ。そのメキシコ大会のときのアジア予選かな、日本代表の木村和司がコーナーキックから直接ゴールを決めているんですね。初めて名前を知った日本人サッカー選手が木村和司でした。でも、当時は日本がワールドカップに出場できる日が来るなんて感覚はまったくなくて、夢のまた夢みたいな感じでしたね。

それが、アメリカ大会(1994年)のときはドーハの悲劇(※1)で日本はギリギリ本戦出場を逃すんですけど、その次のフランス大会(1998年)以降は全部出てるんですよね。まあ、実はそこで出場国の枠が24から32に広がったからというのもあるんですけど、それでも井原正巳キャプテン率いる代表チームがピッチに入ってくる様子を見たときは、もう感無量でした。

今はJリーグのFC東京を応援しているんですが、理由は単純に地元が調布だからです(笑)。J2時代も観たことがあるんですけど、よくよく考えたら当時はJ2で多摩川クラシコ(※2)とかをやってたんですよね。今となっては信じられない。味の素スタジアム(FC東京のホームスタジアム)では、スカパラで何度も試合前ライブをしたことがあります。相手チームのサポーターにヤジを飛ばされながら(笑)。今年はアルベル(・プッチ・オルトネダ)監督が就任してポゼッションサッカー(※3)が浸透してきていますし、期待の高卒ルーキー・松木玖生が早くも欠かせないピースになりつつある。今後が楽しみですね。

※1. アジア最終予選の最終節でイラクと引き分けたことにより日本代表チームが予選敗退した事実を指す通称。勝てば初のワールドカップ本戦出場が決まるという条件のもと、後半アディショナルタイムを1点リードで迎えたにもかかわらず土壇場で同点ゴールを許すという劇的な幕切れで、試合会場がカタールのドーハだったことからこの感傷的な呼称が定着した。

※2. FC東京と川崎フロンターレの対戦を指す呼称。「多摩川」は両クラブの本拠地間を流れる河川の名称から、「クラシコ」はレアル・マドリーとFCバルセロナの対戦を指す呼称「エル・クラシコ」から取られている。

※3. ボールを保持して攻撃を組み立てる戦術のこと。

川上監督の大胆采配

川上ジャパンを編成するにあたって、まず中盤の構成から考えていきたいと思います。システムは、まあ現実的に考えると4-3-3(※4)なのかな。今の森保ジャパンは基本これですもんね。で、まずそのアンカー(※5)ポジションに……超サプライズ枠として昨年現役を引退した中村憲剛を招集します(笑)。普通に考えたらここは1対1の守備が強い遠藤航(シュトゥットガルト / ドイツ)で決まりなんですが、僕はあえてアンカーにパサー(※6)タイプを入れて、インサイドハーフ(※7)の選手に守備をがんばってもらおうと。

ただ、そうすると久保建英(レアル・ソシエダ / スペイン)を入れられるポジションがなくなるんですよね。守備的なアンカーを置くならインサイドに久保でいいんだけど……FC東京サポーターとしては、心情的に久保を外したくなくて。逆に、ここに遠藤でもいいんですけどね。あるいは田中碧(デュッセルドルフ / ドイツ)とか。でもまあ、やっぱり久保をインサイドハーフにしましょう。彼には課題の守備で無理をしてもらうことにします(笑)。もう1枚は……最近は代表に呼ばれていない橋本拳人(SDウエスカ / スペイン)という元FC東京の選手をあえて使いたい(※取材は7月の「EAFF E-1 サッカー選手権 2022」前に実施)。すごく好きな選手なんですよ。守備も強いし得点力もあって、どのポジションもこなせる。非常に現代的なタイプです。

次に前線は、まずワントップ(※8)に鎌田大地(フランクフルト / ドイツ)。南アフリカ大会(2010年)のときの本田圭佑と同じ使い方(※9)です。左は文句なしで三笘薫(ブライトン / イングランド)でしょう。だいぶ前、まだ彼が川崎フロンターレにいた頃の話ですけど、FC東京が彼にケチョンケチョンにやられるのを目の前で見ていますから(笑)。で、右は本来、伊東純也(スタッド・ランス / フランス)が妥当なんですが、ここは堂安律(フライブルク / ドイツ)にします。堂安であれば久保とポジションを入れ替えながら戦えますし、東京オリンピックを観ていた感じだと2人の相性もよさそうなので。

GK(ゴールキーパー)は、元FC東京ということで権田修一(清水エスパルス)。センターバックは冨安健洋(アーセナル / イングランド)と……本来であれば吉田麻也(シャルケ04 / ドイツ)が妥当なんですが、板倉滉(ボルシアMG / ドイツ)で。そして左サイドバックには伊藤洋輝(シュトゥットガルト / ドイツ)を使おうかと。彼はセンターバックもできるし、ひさしぶりに「日本の左サイドバックは安泰だ」という気持ちにさせられた選手ですね。そして右サイドバックが一番悩みどころなんですけど……もちろん山根視来(川崎フロンターレ)もいいんですが、橋本と同じく元FC東京の室屋成(ハノーファー96 / ドイツ)を抜擢したいです。

戦い方としては、やっぱり相手がドイツとかスペインだと、ほぼ守備の時間になると思うんですよ。なのでこの最終ライン4人でがっつり守ってもらってですね、ちょっとしたこぼれ球を憲剛が拾って鎌田や三笘あたりに一発で通せれば、そこからカウンターに持ち込めるんじゃないかと。隙を突いていくイメージですね。憲剛は本当に、不意にこぼれてきたボールでも「来るのを知ってたのかな?」というくらいワンタッチで決定的なパスにつなげられる人なので。基本的には彼頼みのチームです(笑)。

個人的には、中村憲剛って実力のわりに大舞台で活躍する機会をあまり与えられなかった人というイメージがあるので、それもあって選びたい選手なんです。最近の代表には、あまり憲剛のようなパサータイプの選手がいないですよね。遠藤保仁(ジュビロ磐田)以降だと、柴崎岳(レガネス / スペイン)くらいかな。

※4. DF(ディフェンダー)が4人、MF(ミッドフィールダー)が3人、FW(フォワード)が3人のフォーメーション。前線の選手が3枚配置されることから、一般的には攻撃的な布陣と考えられている。

※5. DFの前方にポジションを取る守備的MFのこと。英語で「錨」を意味する語で、船舶をつなぎ止めるように守備を安定させる役割が求められる。

※6. パスの得意な選手のこと。「pass」+「er」=「passer」。

※7. FWと守備的MFの間にポジションを取る攻撃的MFのこと。

※8. 「トップ」はセンターFWの選手を指す語で、そのポジションが1枚の場合は「ワントップ」、2枚なら「ツートップ」と呼ばれる。ここでは4-3-3システムを前提としているため「ワントップ」ではなく「スリートップ」と解釈することも可能。ちなみにワントップ解釈の場合は両サイドのFWを「トップ」ではなく「ウイング」と呼ぶ。

※9. 本大会グループリーグ初戦のカメルーン戦で、岡田武史監督はそれまで一度も試していない本田圭佑のワントップ起用をぶっつけ本番で敢行した。

Jリーグの選手に代表で活躍してほしい

僕はJリーグが好きなんで、やっぱりJリーグの選手が代表で活躍してくれるとうれしいですね。日本人選手が海外でプレーすることが当たり前になった今だからこその感覚という気もしますけど。それこそハンス・オフト監督の時代(※10)なんて、日本人が海外クラブに所属するだけでもすごいことでしたからね。それが今や、ブンデスリーガとかで試合に出てても代表に呼ばれない選手も出てくるようになって……まさかそんな日が来るとは思っていませんでした。日本サッカーのレベルも上がったもんですよね。

今はヨーロッパのクラブでレギュラーを、しかもディフェンスで張れる人が出てくるようになって、本当にすごいことだなと思います。冨安、吉田、板倉とか。なんならJリーグを経ずに高校からそのまま海外でデビューしちゃうチェイス・アンリ(シュトゥットガルト / ドイツ)みたいな人もいたりね。それを考えると、もし三笘が大学へ行かずに19歳くらいで海外に行ってたらどうなってたのか、見てみたかった気持ちは正直ありますよね。

※10. オフト監督は1992年から93年にかけて日本代表監督を務め、ドーハの悲劇を体験した人物。93年当時の代表メンバーは全員がJリーグクラブ所属選手だった。

現実の森保ジャパンについて

本大会グループリーグの初戦の相手がドイツなんですよね。どうしたら勝てるんでしょうね?(笑) ワールドカップのたびに毎回思うんですけど、日本の立ち位置って本当に難しいと思うんですよ。アジア予選では相手が引いて守ってくることが多いけど、世界に出ると立場が逆になるから、どうしても戦い方が正反対にならざるを得ない。だから予選と本戦で同じ戦術が通用するわけないんだけど、だからといって本番で急に戦術を変えるのはリスキーすぎるし。そのへんが日本の課題だなあと。南ア大会で岡田監督がちょっとそういうことをやりましたけどね。そのやり方を突き詰めるのも1つの手なのかもしれない。

グループリーグはいろんな駆け引きがあったりするから、考えなきゃいけないことが多いイメージがあります。むしろ、トーナメントに入ってからのほうが日本はいい試合ができそうな気もするんですよね。例えば前回のロシア大会(2018年)のベルギー戦なんて、結果は負けましたけど内容は一番よかったじゃないですか。当時FIFAランク1位のベルギー相手に2点も先制して、あれだけやれたわけですから。

今回のアジア最終予選で言えば、遠藤、田中、守田英正(スポルティング / ポルトガル)の中盤3枚が攻守にわたってすごくバランスよくやれていたので、あの布陣は強豪相手にも通用するんじゃないかという期待はありますけどね。特に田中と守田は元チームメイトということもあって連携もよかったですし、同じ意味で山根や三笘との関係性もよかった。……この際、全員フロンターレ勢にしちゃってもいいのかもしれない(笑)。

まあ、結果も大事ですけど、後味のいい試合を観たいですね。90分間守って守って守りきれずに負けるんだったら、もうちょっと華々しく散ってほしい(笑)。「じゃあ0-5で負けてもいいのか?」と言われると、それもアレなんですけど……引き分け狙いとかではなく、やっぱり勝ちに行く試合を観たいですもんね。すごい組に入っちゃったなとは思いますけど、ドイツやスペインのような一流中の一流と真剣勝負ができるわけですから、前回のベルギー戦のような試合をしてくれたら最高ですね。勝っても負けても。

自分をサッカー選手に例えると?

誰でしょうねえ……これは難しい質問ですね。カッコいい選手しか思い浮かばない(笑)。ポジション的なことで言うならば、ベーシストはDFとかGKに近いイメージですね。サッカーとバンドってけっこう共通点が多いんですよ。それぞれのパート、ポジションごとにちゃんと役割があるので。スカパラの場合はいろんな人がソロを取るスタイルだから、特にそう感じますね。例えば、サッカーでDFがたまに前線にオーバーラップして点を決めるプレーなんかは、バンドで言えばドラムソロとかに相当する感じです。それが入れ代わり立ち代わり行われるみたいな。

そういう意味では、僕はセンターバックの選手に憧れがあるんです。後方から常に全体を見渡して指示を出して……熱いハートもなきゃいけないし、冷静さも一番持ってなければいけないポジションで。きれいなロングパスが通ったときとか、すごく気持ちいいだろうなあと思うんですよ。実際に試合を観に行っても、けっこうセンターバックを見ちゃいますね。FC東京のセンターバックでは、森重真人が大好きなんです。なので、「森重のようになりたい」という回答でいかがでしょう。

川上つよし

1967年1月21日生まれ。東京都出身。1989年、東京スカパラダイスオーケストラのべーシストとしてデビュー。「DOWN BEAT STOMP」「めくれたオレンジ feat. 田島貴男」などの作曲を手がける。2019年にWOWOW「WOWOWスペインサッカー 19-20シーズン」のイメージソングとして書き下ろした「iDale Dale! ~ダレ・ダレ!~ feat.チバユウスケ」では、FC東京サポーター仲間であるチバユウスケが参加して話題となった。2022年7月にはシングル「Free Free Free feat.幾田りら」を発表。11月から2023年1月にかけて全国7カ所を回るツアー「Traveling Ska JAMboree 2022-2023」を全15公演開催。

東京スカパラダイスオーケストラ
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