書道家・涼風花「大河ドラマ『おんな城主 直虎』リハ分も含めて写経10枚が大変だった」

書道パフォーマンスや、東武鉄道SL『大樹』の文字を書いたりと、書道を通して日本の文化を伝える活動を行っている書道家の涼風花(りょう ふうか)。大河ドラマ『おんな城主 直虎』では主演の柴咲コウに書道指導を行うほか、手元の吹き替えとしても出演した。今回はそんな彼女に、東京・高円寺のコワーキングスペース・小杉湯となりの和室を借りて実際に一筆書いてもらうとともに、書道家になるまでの軌跡を聞いた。(前後編の前編)

【写真】美しき書道家・涼風花、凛とした撮りおろしカット【10点】

──涼さんはいつぐらいから書道を習い始めたのですか?

涼 小学2年生のとき、祖母に「お小遣いをあげるから書道教室に行かない?」と誘われたのがきっかけです。最初はお小遣い目当てだったのですが(笑)、だんだん書道が上手くなって級が上がるのが楽しくて、ちゃんと通うようになりました。そして中学2年生のときに書道の歴史を覚えたり、お手本を見ながら実際に書いたりする試験に受かって、書道師範の資格をいただきました。

──中学生で師範の資格を取っていたんですね。周りにも書道教室に通っている人は多かったんですか?

涼 いや、中学に上がると受験や部活で忙しくなるので、自然と書道教室に通う子は少なくなっていました。でも私はおばあちゃんがずっとお小遣いをくれ続けていたこともあって通い続けていました(笑)。

──書道家になる前はどのような活動をされていたのですか?

涼 高校でテニス部に入ったので、しばらく書道は休んでいました。でも文字を書くこと自体は好きだったので、勝手に友達の名前を見本として書いてあげたりとかしていました(笑)。その後、高校を出てからは歯科衛生士の専門学校に通って、歯科衛生士として病院で働いていました。

──えっ! そうだったんですか?

涼 親に「上京したい」っていう話をしたら、「東京は危ないから資格を取って食べていけるようにしてからにしなさい」って言われたんです。それで歯科衛生士の資格を取って。

──上京したいというのはどうしてでしょう?

涼 小さいころから祖母と『暴れん坊将軍』とか時代劇を観るのが日課で、出てくるお団子屋の娘さんとかがすごく楽しそうだし可愛いくて。なのでドラマに出てそういう役ができたら祖母も喜ぶかもって思ったのがきっかけで、東京に行こうって決めました。

──なるほど、最初は女優志望だったと。

涼 そして上京して事務所に入ったのですが、事務所の方針的にレースクイーンからスタートする感じだったんです。それ自体に嫌悪感とかはなかったものの、このまま行くと時代劇よりも『バカ殿様』のようなバラエティ路線にならないかな、と考えて。それなら最初から「和」のイメージがつくように、着物が着られて、なおかつ持っている師範の資格が活かせる“書道家”として活動をしていくのはどうだろうと思いました。

──お祖母さんを喜ばせたいというところから書道家としての活動がスタートしたのですね。

涼 たとえ時代劇に出られなかったとしても、書道家として「題字を書きたい」という夢を新たに掲げて始めました。数年後、夢かなって土曜時代ドラマ『そろばん侍 風の市兵衛』(NHK)で題字を書かせていただいたんですけど、祖母は番組ポスターをあちこちに配りまくっていましたね(笑)。ほかにも、『美文字練習帳』とか、私がラベルを書いたお酒とか、そういうものは全部買って近所中に配りまくっています。

──涼さんの活躍がやはりうれしいんでしょうね。お酒のほか、地元でのお仕事も多いんですか?

涼 SLのヘッドマークを書かせていただいたりしましたし、栃木では私が書いた文字を見かけることも多いかもしれないです。書道で地域に貢献できているのならうれしいです。

──涼さんが考える、手書きの良さというのはどういう部分だと思いますか?

涼 うーん、やはり味があるところですかね。活字だと良くも悪くも癖がないので、頭に残ることが少ないじゃないですか。その点、手書きだとすっと人の心に入ってくるものがあるというか、「上手い」でも「下手」でも、何かしらの感想が生まれると思います。

──確かにそうですね。どうしたら読みやすい綺麗な字が書けるのでしょう?

涼 しっかり留め、ハネ、はらいなどを意識して気を付けて、ゆっくり書くのが大事かなと思います。急いで書いた字はやはり読みにくくなってしまうので……。あとは、そもそもまっすぐ線を書くのはすごく難しいので、まずはまっすぐな線を書く練習をしてみるとか、文字を等間隔に書くことを意識してみると綺麗な字が書けると思います。

──字が上手くなる練習法はやはり書くことでしょうか?

涼 そうですね、とにかくお手本を写しまくることがポイントです(笑)。お手本を横においてもコツをつかめないことが多いと思うので、実際にその上から書いてしまうとより分かりやすいです。黒い線を見るのではなくて、白い余白がどのぐらい空いているのかを考えるとさらに上達していくと思います。

──打ち込むことが増えた現代では、字の余白を気にしなくなっている方も多いでしょうし、意識するだけでも変わりそうです。涼さんのこれまでのお仕事の中で、特に大変だったものはありますか?

涼 大河ドラマで書いた、花押(公家や武家が発行した文書の最後に書いたサイン)です。誰にも書けないようにわざと複雑にしてあるので、お手本のように書くのが難しくて(笑)。あとは書道指導のときに、女優さんにとって難しいものは私が代わりに書くのですが、その枚数がすごくて!

──本番に使う1枚+予備程度ではないと?

涼 大河ドラマの場合は、リハーサルで使用する分もすべて必要なんです。たとえば、女優さんと主役の方が口論になって、写経をくしゅくしゅって丸めて捨てるシーンがありました。そこで「リハーサル分も含めて写経を10枚お願いします」って言われたときは「嘘……。リハはコピーでも良くないですか?」ってこっそり思いました(笑)。全部手書きで書くのは、体力的にきつかったです。

──改めて聞くと、裏側で本当に大変な作業をされているのですね……。今度から注視してみます(笑)。

涼 小道具作りのほかにも、「筆のこのあたりを持ってください」というような指導もしています。ここだけの話、大河ドラマってたとえ「姿勢大丈夫ですか? 」「はい」っていうような確認作業だけだったとしても待ち時間がものすごく長いんです。テレビ局に1日いるとかもあります(笑)。

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(取材・文/池守りぜね)

▽涼風花(りょう・ふうか)

1985年10月12日生まれ、栃木県出身。2010年に「美人過ぎる書道家」として注目を集め、NHK大河『直虎』『西郷どん』等で書道指導と書状書きの手元吹き替えを行うほか、商品ロゴや番組タイトルなども手掛けている。主な著書は『美文字練習帖』『美の書道』『20日で驚くほど上達、美文字練習帳』。

Twitter:@ryo_official