8月13日に放送されたサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:25~)は、「芝部の神様」と呼ばれるターフアドバイザーの松本栄一がゲスト出演。サッカー界の名将から絶大な信頼を得ている松本の“仕事ぶり”に迫った。

Jリーグ発足時から日本のピッチを管理してきた松本は、もともと埼玉の名門・浦和南高校サッカー部の出身で、チームメイトにはサッカーマンガ「赤き血のイレブン」の主人公のモデルとなった永井良和や、現日本サッカー協会会長の田嶋幸三がいたという。

当時はまだプロがない時代。松本は高校卒業と同時に浦和市役所の職員となり、サッカーとも芝生とも無縁の12年間を過ごす。転機が訪れたのは、Jリーグ開幕の4年前。税務課から公園緑地課へ異動した松本は、浦和レッズの前身、三菱重工サッカー部のJリーグ参入に合わせ、駒場競技場の改修工事を任されることになる。

松本が駒場競技場の目玉に据えたのは、これまで使われてこなかった種類の芝生だった。当時、日本では高温や乾燥には強いものの、寒さには弱い「暖地型」の芝生が使われていたが、松本が採用したのは冬でも枯れにくい「寒地型」の芝生。なぜ、寒地型の芝生を選んだのか。その理由について松本は「おそらくJリーグが始まれば、ヨーロッパに移籍する選手たちが出てくる。慣れてもらおうという意味合いも込めて、寒地型の芝生を導入することに決めたんです」と明かした。

欧州サッカーのシーズンは秋春制で、芝生も冬に育つ寒地型が主流。丈の長い寒地型の芝は、ドリブラーにとってボールが流れにくく、キープしやすいのが特徴だという。いつか海外に渡る日本人選手のために寒地型の芝生を採用した松本だったが、Jリーグ開幕時は、むしろ外国人選手からの称賛を受けることになる。

創設期からJリーグを知る解説の福田正博は「海外の選手からはやっぱり評判良かったですもんね」と振り返り、松本も「ジェフにいたリトバルスキーが最初に喜びました。ジーコも“鹿島のスタジアムもこの芝にしろ”と言ったくらい、良い芝生だった」と懐かしんだ。

しかし、浦和レッズのために設えたピッチだったが、Jリーグ開幕当初はチームも最下位が定位置に。リーグ戦36試合78失点という不名誉な結果で、「Jリーグのお荷物」とまで呼ばれていた。そんな浦和レッズをどうしても勝たせたかった松本は、ある事件を起こしてしまう。

通常、ピッチ上は水はけのために20~30cmほどの高低差がつけられており、ボールを蹴るとどうしてもタッチライン沿いに流れていってしまうもの。浦和レッズの「野人」の愛称で親しまれていた岡野雅行もタッチライン沿いを走り、ボールを外に出してしまっていた。松本は「どうにかボールを外に出ないように工夫したいなというので、タッチラインの上に砂を盛りましてね、わからないように。それでボールが外に出ないように細工をしました」と告白。結果、砂の盛りがエスカレートしたことで、審判団からレッドカードが!? この驚きのエピソードに、番組MCの勝村政信は「ちょっと警察呼んでもらえませんか!」と笑わせ、浦和レッズに所属していた福田も「そこまでやってくれているのは知らなかった」と驚いていた。

チームに尽くす松本の献身的な姿勢は、2002年の日韓ワールドカップでも発揮される。アルゼンチン代表のキャンプ地となった福島県のJヴィレッジの芝生を担当した松本は、各試合会場の芝に合わせて、アルゼンチンのホームのごとく、ピッチに細かな調整を施した。そのこだわりには、元アルゼンチン代表監督で世界的な名将のマルセロ・ビエルサも絶賛。ビエルサがチリ代表監督を務めた際も、松本をチリに呼び寄せ、ピッチの管理を任せている。また、元日本代表監督のフィリップ・トルシエも松本に信頼を寄せる一人。同い年の松本を「兄弟」と呼び、松本が手掛けるピッチを好んで、練習場に選んでいたという。

そんな松本が、11月に開催されるカタールワールドカップの芝生にも言及する。日韓ワールドカップの際、初戦で日本代表が引き分けたベルギー戦の芝の長さは25mm。続くロシア戦では、芝の長さが18mmと、日本のパス回しがハマるスタイルで記念すべき初勝利をあげた。開催国によって芝生に規定はないものの、松本は「カタールは8つのスタジアムと、41の練習会場があり、これらが同じ芝の状態で管理できるように望まれています」と指摘した。

国土の半分が砂漠で、11月でも気温が20℃を超えるカタール。松本は「周りが海なので、塩害と暑さに強い品種改良が進んでいて、そういう芝がどんどんこれから出てくると思う」と予想する。一方、福田は「気候もそうですし、食事も文化も、対応する力がサッカーの場合は求められる。日本は最高のピッチですけど、海外だと荒れていたりもするから、慣れているんじゃないですかね。海外でやっている選手は多いですし、タフになってると思います」と、日本代表に期待を寄せた。