『特撮のDNA』精密ミニチュアが生んだ平成ガメラ3部作のリアリズム

「特撮の技術」とその「継承者たち」にスポットをあて、まだ見ぬ世界を具現化し、空想と現実の境界を軽々と飛び越えた特撮マンたちの仕事を展観するイベント「特撮のDNA」。今回は数々の怪獣映画、特撮番組に ”出演” し、破壊されてきた聖地・東京タワーにちなんだ展示企画を開催、前半の『ゴジラ』&東宝特撮に続き、8月11日(木・祝)からは平成ガメラシリーズをテーマにした展示が公開される。

今回は平成ゴジラと平成ガメラの両シリーズで東京タワーの特撮美術に関わった特撮美術デザイナー・三池敏夫氏に、東京タワーのミニチュアを造った時のエピソード、現在の特撮美術が置かれている立場についてお話を伺った。

>>>「特撮のDNA」展で初公開となる平成ガメラシリーズの展示物を見る(写真7点)

――三池さんと「特撮のDNA」展の関わりについて教えてください。

三池 2018年~2019年に蒲田で行われた東宝特撮メイン企画(「特撮のDNA」東京展~『ゴジラ』から『シン・ゴジラ』まで)のゲストとしてお招きいただいたのが最初です。その後、「特撮のDNA~平成ガメラの衝撃と奇想の大映特撮」展(2019~2020)をやる時に本格的に関わりまして、「(展覧会場となった)日本工学院専門学校の学生さんとワークショップをやってほしい」と言われて綿雲の(雲海)セットを組みました。

――三池さんのお名前が広く有名になるのは、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)からだと思います。当初の予算や制作の背景はどんな感じだったのでしょうか。

三池 そうですね。怪獣映画の特撮美術の責任者を務めたのは『ガメラ』が最初でした。当時、1991年の『ゴジラVSキングギドラ』やその翌年『ゴジラVSモスラ』が大変な興行成績を収めていたでしょう。東宝が『ゴジラ』シリーズで当てているのだから、大映も「俺達にはガメラがいるじゃないか」という話になった。そこで樋口(真嗣)さんが特撮パートをまとめることとなり、『敦煌』(1988)や『おろしや国酔夢譚』(1992)の徳間大映だからお金も潤沢にあるだろう、と二人で期待していたんです。

でも、蓋を開けてみるとそんなことはなくて(笑)。当時のゴジラの製作費に対してガメラはほぼ半分で作ってほしいということで、「じゃあ、どうやって対抗していくんだ」って頭を悩ますことになるんです。だけども最終的にはかなり製作費がオーバーしちゃって、その後の2作もずっとその金額で据え置きだったはずです。まあ、プロデューサーが増額を決めてくれたおかげで予定通りの特撮シーンを撮り終えたわけですね。

――その予算で、どうしてあのクオリティを保つことができたんですか。

三池 東宝の場合は準備期間が2カ月ほどでかなり慌ただしいんですよ。結果、人海戦術になるので、あちらこちらに無駄も出てくるんです。ちゃんと準備期間をとれば、やりたいことを精査して方法論も各部スタッフ納得した上で出来るし、クオリティも上がるんです。樋口さんも思いは一緒で「少数精鋭でじっくり時間をかけたい」という考えでしたね。だから大映では東宝の倍以上の準備期間をもらいました。

――1作目『大怪獣空中決戦』はミニチュアの数も多かったと思うのですが、ゴジラみたいに前作、前々作のストックがあるわけじゃないから大変だったんじゃないでしょうか。

三池 大映には昭和ガメラのミニチュアが全く残って無かったんですよ……だから必要なものを僕とチーフ助手の稲付正人くんが図面を起こしてミニチュアの制作会社に発注しました。納品された後は汚しを入れてディテールアップするわけです。マンションだと物干し台があったり、エアコンの室外機がバーッって並んでたりしますよね、ああいうのは現場のスタッフが総がかりでやりました。

それから電柱や自動販売機のような小物も寒河江弘くんを中心として美術スタッフで一から作りました。本来外注でやるところを自分たちで賄うことで予算が浮くわけで、その考えで『ガメラ』3部作をやりましたね。だから、美術部のスタッフは自分でミニチュアを作れる人ばかり(笑)。

――今回の会場でもある東京タワーのミニチュアは光製作所さんに頼まれていますね。

三池 金属部分に関しては光製作所ですが、エレベーターおよび下の建物はマーブリングファインアーツに頼みました。白とオレンジの塗装もマーブリングファインアーツです。

――どれくらいの大きさで造ったんでしょうか。

三池 全景が映るのは70分の1で、折れた後スーツアクターが入ったギャオスが乗るのは35分の1で部分だけ作りました。

――人が上に乗るというプランでなければ、鉄骨で造る必要性はなかった?

三池 それだけではないんです。1961年の『モスラ』の時のミニチュアは、板金製なんです。板金のモデルはトタン板を細割きにして折り曲げて、トラス1本1本「ロウ付け」という金属の接着付けで制作されていて、リアルではあるんですが、強度的に弱いんですね。1回グニャリと曲がると、潰れた場所は簡単には元に戻りません。

樋口監督の絵作りでは今までにない複雑な壊れ方を狙っていて、『大怪獣空中決戦』の東京タワーは2か所折れるんです。それはとても一発勝負でうまく壊れるとは思えませんよね(笑)。結局何回も撮影することを想定して頑丈に造らないといけない。

光製作所のモデルはレーザーでくりぬいた4面を鉄板で組んだ後に内側に鋼材をいっぱい入れているから本当に丈夫ですよ、人が足をかけても曲がらないくらいです。

(C)KADOKAWA NH/1995 (C)KADOKAWA NHFN/1996 (C)KADOKAWA TNHN/1999 (C)特撮のDNA製作委員会

――同じく三池さんが特殊美術を手がけられた『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(2003)ではゴジラの吐く放射熱線で東京タワーが壊れる場面があります。こちらのモデルも新たに造ったものですか。

三池 はい。これは浅田英一さんが特技監督ですが、東京タワーを壊す場面が3、4カット連続するんですよ。それはA・B・Cの3カメで同時に狙えるセッティングではなくて、1カット目はスタジオの中で望遠気味に撮って、2カット目はアオリを夜のオープンで、3カット目は倒れるところをロングショットでという内容です。

この場合も何度も倒壊することになるので、『大怪獣空中決戦』同様に頑丈な金属製のものを光製作所とマーブリングファインアーツに制作を依頼しました。しかも同じ図面で(笑)。ただBSデジタルの円筒形の設備を追加したり、第一展望台の色を塗り替えるなど、時代を経ての変遷は反映しています。

――東京タワーはある意味特撮作品の花形のような存在ですが、今の時代ではそのような要望を出しても、実際の建物の所有者が首を縦に振らないケースもあると思います。

三池 怪獣映画ではとにかく建物を壊すことが伝統で、僕らはそれを「破壊のカタルシス」という見せ場にしてきたわけです。しかし実際に制作となると断られたり、あとから「困ります」というクレームが付いたりするわけですね。どうしてもそのビルを出したい場合は、名前をちょっと変えたりしますね。

『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)のすすきののセットは、ロビンソン百貨店札幌(当時)のビルの形状そのままで「バンデラス」という名前にしました。あと、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999)の渋谷セットの丸井も、似ているけれど少し違う看板にしました。

――フジテレビに断られた作品もあったそうですね。

三池 ええ、『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』(2000)。それに関しては僕も図面を担当したので記憶も鮮明です。当初OKという話で進んでいて、図面や絵コンテもできて、ミニチュアの制作にこれから着手というタイミングでダメってことになっちゃった。どうやら上層部でストップがかかったらしくて、しかたなく真ん中の球体をひし形みたいにしたそれっぽいモデルを作って壊しました。あれも突然の変更で結構大事件でしたね。

――逆に、とても協力的だったという場所はありますか。

三池 『大怪獣空中決戦』の福岡ドーム(現・福岡PayPayドーム)は大変協力的でした。だからこその、あの台本の内容ですからね。本物の自衛隊車両が球場の中に肉を運ぶ場面を撮影できたことがすごいと思いましたし、ミニチュアの外観を壊すことも許してくれて、寛大ですよね。

あとは『邪神〈イリス〉覚醒』のJR西日本・京都駅。当時駅ビルが出来たばかりだったんですけれど、ミニチュア破壊は勿論のこと、金子修介監督による俳優さんの撮影で階段に瓦礫を積んだり、施設内での雨降らしも許してもらえたので、本当にありがたかったです。

――現在の特撮はCGが中心となり、ミニチュアによる特撮がどんどん減っている傾向がありますが、三池さんの立場からこの状況はどのように感じられますか。

三池 作品や監督の方針によりけりだとは思いますが、今はミニチュア特撮よりもCGのほうが安く仕上がるし、技術の進歩も圧倒的です。

でも、現場での絵作りの緊張感がどんどん薄れてきた印象がありますね。最終的にVFXでどうにでも変えられるとなると、現場を支える美術部にとって、やりがいの喪失感を覚える部分はあると思います。

――最後に、今回の「特撮のDNA展」に来るお客さんにどんなところを観てほしいと思われていますか。

三池 キャラクターが主役なのは間違いないですが、怪獣とミニチュアセットを一緒に撮影したことで臨場感あふれる特撮が成立していた、ということを展示で感じていただけると嬉しいですね。CGだけの作品だと、何か展示しようにもモニターを置くしかありませんから(笑)。

日本特撮の伝統である精緻なミニチュアがCGに向かってしまう今、特撮美術の価値を理解し、具現化する特技監督が現れてほしいですね。

(C)KADOKAWA NH/1995 (C)KADOKAWA NHFN/1996 (C)KADOKAWA TNHN/1999 (C)特撮のDNA製作委員会