舞台『機動戦士ガンダム00』で水島精二監督が守り続けたブランド力

2022年2月7日~14日まで上演された舞台『機動戦士ガンダム 00 -破壊による覚醒-Re:(in)novation 』が、この度Blu-ray&DVD化された。TVアニメセカンドシーズンのエピソードを約3時間に凝縮した本舞台は、これまでの『ガンダム』という作品概念を大きく更新した画期的な内容に仕上がっている。

これは『機動戦士ガンダム00』という作品そのものの懐の深さが成したものではないか――本舞台に監修として携わった水島精二監督に、改めて『ガンダム00』という作品の出発点、またいかなる形でブランディングを進めたかについて語って頂いた。(前編/全2回)

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――舞台に触れる前に、改めて水島監督が2007年の『機動戦士ガンダム00』を手掛けることになった経緯を教えて頂けますか。

水島 僕に声が掛かったのは『機動戦士ガンダムSEED』と続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の間に放送された、『鋼の錬金術師』の監督をやっていたということが大きかったです。当時の毎日放送プロデューサーの竹田靑滋さんが僕と脚本の會川昇を評価してくださっていて、その後企画を立ち上げる時に、サンライズのプロデューサーの池谷浩臣さんが監督候補として僕をリストに入れてくれていたのを見て、竹田さんが「水島君がいいじゃないか」と推してくれたんですよ。

自分としても、いわゆる「土6」と言われる全国27局ネットというメジャー枠で、原作に頼らないオリジナリティを出せる作品を作れるという部分に魅力を感じました。

――『ガンダム』というブランドを手がけるに当たり、どういった部分を重視されましたか?

水島 やはり広くいろんな方に観ていただける枠なので、ガンダムだからこそできる、いろんな商品やゲームなどで広がっていくメディアミックス展開ですね。それもお任せにするのではなく意識的に我々現場側の人間が関わっていくようなやり方ができないか、と考えました。

竹田さんが元々報道上がりの方で、「土6」という枠でキチンと現実と向き合っているものを届けたい、ということを常々言われていました。それは必ずしも主人公に都合のいい世界ではない、という部分で、それを『鋼』でやった僕と會川さんにガンダムを、というのが竹田さんの頭の中にはあったと思います。ただ、サンライズから「もっとジュブナイルっぽいものを」という要望があり、脚本は黒田洋介さんと組むことになったんです。

とはいえ、現実に根ざした戦争を描くということを自分で目指した以上は、そのラインも推し進めていこうと最初から思っていました。

――それ以外に、サンライズから何らかの提案のようなものはありましたか?

水島 「コズミック・イラ」を継いで『ガンダムSEED』と同じ世界観でやるのもアリだ、という提案はありましたが、やはり(サンライズの)外から新しい監督が来るということは「変化」を欲しているのではないかと思っていたんです。

実は、その段階から作品の世界設定を西暦でやりたいと思っていました。戦争を描くにあたって、過去の歴史を振り返ることがある場合、それがいわゆる「仮想の歴史」だと逃げになってしまうのではないかと思ったんです。

――作品の中の戦争は、2つの世界大戦などリアルと地続きの出来事である、と。

水島 そうです。あと富野(由悠季)さんの「宇宙世紀」は西暦と繋がっていると思うんですが、一部のマニアの人たちはガンダムが兵器であるということから目をそらすためにフィクションとしての「宇宙世紀」を作ったと解釈している、という話を聞いたりもしたんです。

ガンダムは間違いなく戦争の道具なんです。しかし、その悲劇性にスポットを当てるだけでなく、ガンダムというキャラクターの可能性をどう広げていくかという2つの要素のバランスをすごく考えながらやっていました。視聴者に「カッコいい!」と思ってもらえる物語性やメカとしての魅力も、きちんとコンセプトに落とし込んで描いていけたらと思っていました。

――西暦を背景とした未来の世界を描くにあたり、どのような部分を意識しましたか?

水島 地域性をすごく意識しました。世界をヨーロッパと中国、そしてアメリカの3つに分けたのは、かなり極端ですが判りやすさを重視した結果です。極端ではありますが、自分の目から見た世界を忠実に落とし込むための舞台という感じですね。

あと、中東の小国を物語のスタート地点にしたのは大きいかもしれないですね。攫った少年を兵士にするというのは、実際に起こっていて社会問題にもなっていた。そこに平和な日本の若者が目を向けるきっかけになってほしいと思って、主人公の刹那に日本人から見て一番理解しづらいキャラクター性を持たせることは、最初から狙ってやっていました。

そういった戦争に麻痺した感覚は、実は自分も共有しているわけです。しかし、そういう戦争の背景や歴史を物語のベースに置いておかないとダメだと思いましたから、このタイミングでそれらに関して一気に勉強しましたね。

また、軍事評論家の岡部いさくさんに、300年後の世界でどんな戦争が起こりえるか、その時に日本はどういう立場にあるのかを一緒にシミュレーションしてもらったり、ハードSFがめちゃくちゃ好きなメカニックデザインの寺岡賢司さんやスタジオオルフェの千葉智宏さんにも入ってもらって、世界設定を詰めていきました。

とにかく、今までのサンライズがやっていたのとは違う取り組み方をするのが僕に与えられたミッションだ、と勝手に思ってやっていた感じです。

(C)創通・サンライズ

――ガンダムファンを納得させるハードな設定を固める一方で、キャラクタービジュアルは華やかにまとめられていますが、これも水島監督の狙いですか?

▲刹那・F・セイエイ▲リボンズ・アルマーク

水島 こんな世界観でハードな話を作る、と言った時、池谷プロデューサーが「キャラは貞本義行さんのような少年マンガ的な方向性がいいんじゃないか」という話をしていたんですが、僕としてはそれだとバランス的に偏ってしまうという印象があったので、ここは高河ゆんさんに頼もうと思いついて。

サンライズから何人か推薦があったので結局オーディションをすることになり、高河さんにもオーディションへの参加をお願いしましたが、上がってきたものを見たらやっぱり高河さんのデザインが一番良かったわけです。

――女性ファン層の支持が広がった一因は、キャストの豪華さにもありましたよね。

水島 今になって見ると確かに豪華キャストかもしれないけど、当時はそんなこともなかったんですよ(笑)。神谷(浩史)君は黒田さんが仲良くて、ティエリアが決まらない時に「1回オーディションに呼んでくれませんか」と言われて、それで決まった感じですからね。

アレルヤも、音響監督の三間(雅文)さんから、「二重人格を1人でやらせるなら、キレた芝居ができる人がいい」と吉野(裕行)君を推薦してもらったんですが、彼も宮野(真守)君も、当時は主演をバリバリやっているという時期では無かったし、中村悠一君だってまだそこまでのブレイクはしていなかった。唯一、三木眞一郎さんだけは兄貴分のキャラクターだということでお願いしましたけど。

――先程「メディアミックスには積極的に関わるようにした」とおっしゃっていましたけれど、具体的にはどういうことを?

水島 当時のバンダイ ホビー事業部の馬場俊明さんから「ガンプラを買ってくれる層をもう少し広げたい」とオーダーがあったんです。刹那は銃を撃つのが苦手、という設定があるのでエクシアは剣で戦う、みたいなアイデアを黒田さんがいろいろ出してくれて、「じゃあ、エクシアのボディスタイルはマッシブな感じにしたいね」と海老川(兼武)君にプロレスラーのような筋肉質のスタイルに調整してもらったんですね。そういう部分も含めて、ガンダムに求められる商売の部分もきちんと消化した上で、面白いものを作ろうという意識がありました。

▲ダブルオーガンダム

――デザインや演出にまで反映されるほど細やかな配慮をされていたとは。

水島 『鋼の錬金術師』に関わった時、関連商品の売り上げがプロジェクトとしてはとても大事だと聞いていましたし、偉い人たちから「アニメを軸にどのような商売ができるのか」みたいなこともすごく言われましたから。

今までだったら現場スタッフは監修のみということだったんでしょうけれど、朗読劇と生ライブをくっつけた「MBSアニメフェス」というイベントなどにも参加するようになって、こういう形態でファンに作品を届ける際にもコアメンバーが参加していれば、いろんなことにもキチンと対応できる。だから、僕は『ガンダム00』の周辺イベントも「自分でやる」と宣言して関わらせてもらっています。

――そういう部分も含めて、水島監督は『ガンダム00』というブランドをしっかりと守っていらっしゃる印象があります。

水島 僕がプロデューサー気質の監督だと言われるのは、そういうところだと思います。アニメだけ作って「商売は知らん」みたいなのはダメなんです。やはり、世の中に出るものに対して自分の意見を言いたいし、自分の作ったものを曲がった形にしたくないし、メディアによって変化が出てくるなら、そこは知っておきたいタイプなんです。作品を独り占めしたいのではなくて、その世界を広げるならばちゃんと協力したい。

――『ガンダム00』が長く愛される作品になっているのは、そこをしっかりやって来た結果なんでしょうね。

水島 『ガンダム00』の企画に参加した時、当時サンライズにいた宮河恭夫さんに呼び出されて「僕はクリエイティブなことはよくわからないけれど、10年後も売れている作品を作ってほしい」と言われて「それをやろう!」と思いましたね。これまでのシリーズとは軸が違うことを明確にして、現実世界に照らし合わせた、いろんな人たちに引っかかる要素をきちんと押さえながら観た人の心に残る、新しいガンダム像――それが『ガンダム00』なんです。

水島精二(みずしま・せいじ)

アニメーション監督。『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)の演出などを経て、『ジェネレイターガウル』(1998)で監督デビュー。主な作品は『シャーマンキング』(2001)、『鋼の錬金術師』(2003)、『大江戸ロケット』(2007)、『機動戦士ガンダム00』(2007)、『UN-GO』(2011)、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)、『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』(2015)、『BEATLESS』(2018)、『フラ・フラダンス』(2021)など。

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