「日経クロステック」発行人・戸川尚樹、コロナ禍によって「“働きやすさ”“働きがい”を考えさせられるきっかけになった」
笹川友里がパーソナリティをつとめるTOKYO FMの番組「DIGITAL VORN Future Pix」。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。6月25日(土)の放送は、日経BP・技術コンテンツユニット長 日経クロステック発行人の戸川尚樹(とがわ・なおき)さんをゲストに迎え、お届けしました。

(左から)戸川尚樹さん、笹川友里

戸川さんは、1996年に日経BP入社。日経コンピュータ副編集長、日経ビジネス編集記者、ITpro編集長を歴任。2015年9月、デジタル変革リーダー100名を会員組織化した「日経ITイノベーターズ」事業を立ち上げ・運営。2018年2月、「日経クロステック」を創刊し、日経クロステック IT編集長に就任。2019年4月に日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ所長に就任。2022年4月より現職。DX(デジタルトランスフォーメーション)をテーマにしたイベント・ウェビナーも多数プロデュースしています。

◆やる気と知恵さえあればトライできる時代

戸川さんが日経BPに入社した1996年当時からこれまで、インターネットやSNSの普及、デジタル化やテクノロジーの進化などで、社会は大きく変化していきました。今では従業員にそれぞれパソコンやスマートフォンが配布されることが当たり前になるなど、「とにかくデジタルデバイスが相当普及した」と実感を語ります。

これにより、「従業員の仕事の効率化、生産性を上げる動きや顧客サービス、取引先や顧客の方々にとって便利なモノを提供するために、IT・テクノロジーを活用していろいろな施策・プロジェクトが進められてきた」と戸川さん。施策やプロジェクトがうまくいったケースもあれば、逆もしかりで「そこにはいろいろなドラマがあり、とてもエキサイティングな25年でしたね。これからも、それが続くと思う」と話します。

近年、多くの企業がDX化推進に取り組むなか、コロナ禍となったことで「ペーパレス化とリモートワークが良くも悪くも強制的に進み、これらの取り組みが一気に加速した。いろいろな人たちの価値観や考え方、常識を刺激したという意味では、必ずしも悪いことばかりではない」と語ります。

また、企業でもアプリやSNSが活用されるようになったことで、顧客とアプリやSNSで(企業と)つながっていたり、それらを介してやり取りしたりするなど、「あらゆるサービスがデジタル化されてきたことが一番大きい。それによって、いろいろなIT製品・サービスを使いこなして、さまざまな新しいことに取り組めるのは素晴らしいところ。やる気と知恵さえあればトライできる。お金だけじゃないところが、いい世界観になってきているように思う」とも。

現在、技術情報メディア「日経クロステック」の発行人をつとめている戸川さん。システム障害やリコール問題などトラブル関連の記事がよく読まれているなか、最近では、AI(人工知能)、クラウド、機械学習、量子コンピュータなどのキーワードが入った記事も「以前よりも読まれるようになった」と言います。

なかでも注目するキーワードとして挙げたのは“リスキリング(Reskilling)”。「デジタル人材を増やすための、いわゆる“学び直し”。専門家だけでなく、いろいろな仕事をしている方がデジタルの素養を身に付ければ“こういうサービスに、こういうテクノロジーを使えば、お客さまへのサービスがもっと良くなるのでは”といったことが想像できる」と戸川さん。

“プログラミングができない”“ITに苦手意識がある”など、デジタルに関する知識が浅い人ばかりの企業だと「“いい仕組みを作ろう”というときに、なかなか良いアイデアが浮かんでこないので、デジタル教育に力を入れている企業が増えている」と説明。

リスキリングやデジタル教育などに関連する記事も最近よく読まれていると言い、「教育はすごく大事ですし、“社員を大切にしている”というメッセージにもなる。お給料ももちろん大事だけど、その会社がキャリアとしていい人生になりそうか、勉強ができそうかということを考えている方も多いので、リスキリングに力を入れるのはとてもいいこと」と話します。

◆戸川尚樹がコロナ禍で考えさせられたこと

コロナ禍で生活様式や働き方が大きく変わるなか、「現在、出社する方が増えていて元に戻りつつある会社もあれば、出社とリモートワークが混在するハイブリッドな働き方をする会社も増えていて、そのどちらが正しいかは難しい」と言います。

社員が働き方を選択できるところも増えているものの、会社にとっては「働き方やルールは増えないほうがいい」と戸川さん。というのも、働き方の選択肢が増えれば増えるほど、「管理がとても煩雑になり、評価も難しくなる」とデメリットを指摘。

「個人が最高のパフォーマンスを発揮するには選択制がいいし、それが理想」としつつも、そうした働き方のなかで組織としてきちんと管理し、不公平感なく正当な評価を下すことの難しさに触れ「経営者や人事部門にとってはチャレンジングなこと。いろいろな企業を取材して何が正しいのか、そのあり方を追究してみたい」と力を込めます。

さらには、「どういうふうにするとその人が幸せで生き生きと働き続けられるか。それをずっと模索していかなきゃいけないし、今ある制度がすべて正しいわけでもない。また、制度が本当にいいものであるのか検証しないといけないし、どこに軸を置くのかですよね。“生産性”なのか“幸せ”“ゆとり”なのか……答えは分からないけど、“何が人間にとっていいんだろう”“どういう働き方がこの組織にはいいんだろう”といったことを、経営者やリーダーは考えなきゃいけない時期なのかなと思う」と見解を示します。

これに笹川は、「新卒や転職で“自分が”と考えたときに、今までの企業は『こういう業態で、給料はこのぐらいです』ということでしか選択の余地がなかったですけど、『うちは社員が幸せに働けることを一番に大切にしている』といった意思表明がそれぞれの企業にあると、選択するときの観点がもっと楽しくなりそう」と話します。

これを受けて、戸川さんは「人によって“良い企業の定義”っていろいろとあると思うけど、それぞれの企業が何に軸足を置いているのか、理念やミッションを伝えていくことで、働く人々のロイヤルティを高めて競争力を上げていく。企業として儲けるための手段は生産性だけじゃなく、『ウェルビーイング』と言われる働きやすさや働きがいといったことも大切であることをコロナによって我々はこれまで以上に考えさせられている」と語ります。

最後にあらためて、戸川さんの思う“少し先の未来の風景”について尋ねると、「AIやロボットが、もっとコモディティ化(一般化)されていろいろな企業が使いこなすようになり、人間があまりやりたくないことや危ないことは、どんどんAIや機械に置き換えていって、人間は創造的な仕事により多くの時間を割くようになるともっと面白いし、きっと人の幸せにもつながる」と言います。

そのためにも「何を人間がやり、何をAIや機械に任せるのかをきちんと設計、デザインしていくことが重要になる。それができれば、とても便利な時代になると思う。技術と人間がどう共生するか、幸せな世界観をデザインすることが求められていて、そういう時代がくれば必ずいいことがあると信じています」と力説しました。

次回7月2日(土)の放送は、株式会社グラファー 代表取締役CEOの石井大地(いしい・だいち)さんをゲストに迎えてお届けします。自治体のDXを取り巻く状況やDX化における今後の課題など、貴重な話が聴けるかも!? どうぞお楽しみに!

<番組概要>

番組名:DIGITAL VORN Future Pix

放送日時:毎週土曜 20:00~20:30

パーソナリティ:笹川友里

番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/