マクラーレン・オートモーティブは同社初となる量産型プラグインハイブリッド車(PHEV)「アルトゥーラ」(Artura)の日本ツアーを開始した。PHEVといえばエコカーとしての性能であったり、ランニングコストの低さであったりに注目しがちだが、マクラーレンが作るとどんなクルマになるのか。マクラーレン正規販売店で聞いてきた。

  • マクラーレン「アルトゥーラ」

    マクラーレン初のPHEV「アルトゥーラ」が日本上陸! どんなクルマ?

電気はエコに使う? 性能に振る?

アルトゥーラはマクラーレン初のPHEV。既存モデルのPHEVバージョンではなく、同社がゼロから開発した新型車だ。

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    マクラーレン・オートモーティブは「アルトゥーラ」の日本ツアーを実施中。日程はマクラーレン麻布:6/10~6/14、マクラーレン東京:6/15~6/21、マクラーレン名古屋:6/23~6/28、マクラーレン大阪:7/1~7/4、マクラーレン福岡:7/8~7/12。実車は相当に流麗でカッコいいので、気になる方は足を運んでみては?

  • 「アルトゥーラ」の概要
全長 4,539mm
全幅 2,080mm(ミラーをたたむと1,976mm)
全高 1,193mm(ドアを開けると1,954mm)
エンジン V型6気筒ツインターボ、3.0L(2,993cc)
エンジンの最高出力 585ps
エンジンの最大トルク 585Nm
駆動用モーターの最高出力 95ps
駆動用モーターの最大トルク 225Nm
システム合計の動力性能 最高出力680ps、最大トルク720Nm
車両重量(DIN) 1,498kg
0-100km/h加速 3.0秒
バッテリー総電力量 7.4kWh
電気のみの航続距離 31km

実車を見つつ話を聞いたのは、マクラーレン麻布 ゼネラルマネージャーの向田大輔さん。アルトゥーラについては「ハイブリッドのクルマというよりも、新しいライフスタイルを提案させていただくという気持ち」で販売するという。そのココロは。

「ゴルフなどに出かけて夜に帰宅する際、これまでだと大きな音を発生させながら帰ってきていたところが、アルトゥーラでしたら無音で帰ってこられます。軽井沢など、静かなところに別荘をお持ちのオーナーさまであれば、例えば森の中をドライブするとき、EVモード(電気で=エンジンを稼働させずに走るモード)にして窓を開けて走れば、鳥のさえずりや木の葉の擦れ合う音まで助手席の方と一緒に楽しめるんです。これは新しいスーパーカーとのライフスタイルだと思います」

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    フロントデザインについての向田さんの解説:従来のモデルよりも、ぐっと低くなりました。止まった状態でも、クルマが今すぐにでも前に進んでいきそうな迫力があります。「720Sスパイダー」など、フロントの先端が丸くなっているクルマが最近は多かったんですが、アルトゥーラは少し鋭く、アグレッシブな印象になりました。フロントのエアインテークもあえて見せることで、アグレッシブさが増しています

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    サイドについての解説:今まではオプションだったフロントルーバーが標準装備になりました。タイヤからの空気で上方向に圧力がかかるところを、ここから空気を抜くことでダウンフォースを強める効果があります。サイドのエアインテークも、今までは見えない形だったりしたんですが、今回は大胆に見せています。ドアパネルは一枚モノで継ぎ目がありません。「フライングバットレス」と呼ぶんですが、Cピラーの下に空間があって、ここも空気の通り道になります

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    リアについての解説:リアも一枚モノのパネルを使っていて、コンパクトなクルマなんですが、それを感じさせないようなデッキの広さがあります。マフラーはセンターの2本出しで、上はエンジン、下はトランスミッションが丸出しになっています。後ろにとまったクルマから見ると、「こんな丸出しの状態で公道を走って大丈夫なの? レーシングカーみたいだな」と思われるかもしれませんが、レーシングカーがベースのクルマであることを、他のドライバーの方に見て感じていただけることも意識しています。当然、車体を軽くするためででもあるですが。リアディフューザーも標準装備です

もちろん、電動車だからといって走りには妥協していない。これまでV型8気筒だったエンジンが6気筒となったことを心配するマクラーレンファンもいそうだが、向田さんによれば「音に関しては従来よりも迫力が増しているくらいですし、6気筒になったことで高回転まで回しやすくもなっています。ファントゥドライブをお望みでしたら、ぜひマニュアルモード(ステアリングのパドルでシフトを選べるモード)を試していただければ」とのこと。マクラーレンにとって電動化とは、燃費を向上させたりランニングコストを抑えたりする手段というよりは、「あくまで、さらに高いパフォーマンスを実現するための選択肢」(向田さん)という捉え方のようだ。

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  • 内装・コックピットについての解説:マクラーレンらしく非常にシンプルです。サーキットを走っていると、ボタンがたくさんあっても操作できませんから。ドライブモードはステアリングの奥にあるボタンで変更するのですが、ステアリングの位置を調整するとクラスターパネルも一緒に動くので、手を離さずに指で操作できます。右はエンジンとトランスミッションの調整、左がハンドリング・ステアリングの反応を調整するボタンです。パドルはステアリングと一緒に回りますし、シーソーのように1枚の板になっているで、片手で引くことも押すことも可能です

  • マクラーレン「アルトゥーラ」
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  • シートについての解説:シートの形は今までと違います。パイピングも、これまではなかったデザインです。標準のシートは上下を電動で、前後を手動で調整します。リクライニングは上下の位置調整に合わせて自動で動きます。オプションでコンフォートなシートに変更すればリクライニングも自由に角度調整できますし、シートヒーターも使えます

マクラーレンファンは電動化を歓迎している?

とはいえ、マクラーレンの顧客にはモータースポーツの往年のファンも多そうだから、電動化には否定的なのでは……。向田さんに聞いてみると、そうでもない様子だ。

「私も否定的な声が多いのかなと思ったんですが、PHEVにも興味があるという方は実際、かなりいらっしゃいます。もちろん、純粋なガソリンエンジン車の方がいいということで、既存モデルを買い足すお客さまや、『完全なEVではないから、PHEVの方がまだマシか』とおっしゃる方もいらっしゃいますが(笑)。結局、現代のF1で走っているクルマもV6のハイブリッドなので、リッター数こそ向こうの方が少ないんですが、メカニズムは同じです。マクラーレンはF1に実際に参戦しているコンストラクターが作ったロードカー。そこが魅力です」

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    「アルトゥーラ」はEVモードで起動するので、エンジンをかけた瞬間に爆音のうなりをあげることは(充電状況にもよるだろうが)なさそうだ

アルトゥーラの日本導入に向けては「乗ってみたいという声は、かなり届いています」と手ごたえを感じている様子の向田さん。このクルマには、新しいユーザーとの出会いも期待しているそうだ。

「IT企業を経営していらっしゃる方やテクノロジーに興味のある若手経営者、あとは、SDGs関連のコンサルタントをしているフリーランスの方々にも、アルトゥーラに興味を持っていただいています。そうした方々は、環境に配慮したスポーツカーに乗っているという、ご自身のPRもかねたクルマ選びをなさっているようです。実際に皆さまクルマがお好きなんですが、『エンジン車に乗っていると(SDGs推進の立場としては)言い訳できない』という部分もありますからね(笑)。アルトゥーラであれば、『ただ単に我慢するだけがSDGsではないよ』ということを発信できるかもしれません」

スーパースポーツカーとしての性能を失わないまま、森の中も静かに駆けぬけられるという新たなキャラクターを手に入れたマクラーレンの新型車・アルトゥーラ。若くして富を手にした現代の富裕層がどんな嗜好の持ち主なのかは知る由もないが、こうした新しい乗り物が、ひょっとすると彼らにとって名刺代わりのアイテムになるのかもしれない。