軽井沢の街を“屋根のない病院”と見立てる医師・稲葉俊郎が関心を寄せる「医療×アート×福祉の可能性」とは?
UoC UNIVERSITY of CREATIVTY(UoC)の近藤ヒデノリ(Hide)と平井美紗(Misa)がお届けするinterfmの番組「UoC Mandala Radio」。クリエイターに“ワクワクする社会創造の「種」を聞く”というテーマで、毎回さまざまな領域で社会創造をおこなっているゲストを招き、未来に向けた創造やアクションについて語らいます。

今回のオンエアはHideのみがパーソナリティを担当。5月25日(水)の放送では、医師の稲葉俊郎さんがゲストに登場し、軽井沢の医療プロジェクトや自然治癒力の重要性について語ってくれました。

(左から)稲葉俊郎さん、Hide

稲葉さんは心臓疾患が専門で、東大医学部付属病院を経て、2022年4月に軽井沢病院の院長に就任。町全体を“屋根のない病院”と見立て、新しい医療の形を創造していこうと画策しています。それ以外にも、山形ビエンナーレの芸術監督をつとめるほか、著書「いのちを呼びさますもの —ひとのこころとからだ—」(アノニマ・スタジオ)、「いのちは のちの いのちへ ―新しい医療のかたち―」(アノニマ・スタジオ)なども出版しています。

◆軽井沢で構想する「屋根のない病院」とは?

Hide:実は、UoCの立ち上げの頃からいつかチャンスを作って稲葉さんにいらして頂きたいと思っていました。今年4月に院長になられて、「屋根のない病院(hospital without roof)」を発表されたとき、「今だ!」と思いお声をかけさせてもらいました。

稲葉:ありがとうございます。

Hide:先日「いのちは のちの いのちへ ―新しい医療のかたち―」を読ませていただきました。医療の場の話なんだけども、僕ら全体、そしてUoCにも深く関係がある気がしました。医療×アート×福祉のプロジェクトとして、「屋根のない病院」を始められましたけども、このプロジェクトについてお聞かせいただけますか?

稲葉:私は元々、東大医学部付属病院で長く心臓の医師をやっていまして、その頃から医療の場というものが、病院のなかだけで完結するものではないなとずっと思っていたんですね。

Hide:うんうん。

稲葉:その人の暮らし、家族、仕事、そういうもののなかで、その人の“生きる力”があるんです。私たちは病院でその一部しか診ていないことに対して、違和感がずっとあったんですね。病院で働いていると、病院というシステムのなかに組み込まれていくんだけども、私たちが生きているところには暮らしがあるわけです。生活の場を作ることの一帯として医療の場を作りたいっていうことを、大学病院のなかで思っていましたし、「それはどこでできるんだろう?」とずっと考えていたんですね。

実は軽井沢のことは詳しくなかったんですけども、別荘とか保養地として有名であることは知っていました。その原点はどこにあるかっていうと、明治20年前後ぐらいに北米の宣教師の方がキリスト教を伝えにきたときに、軽井沢全体を「屋根のない病院のような場所だ」と言って、保養地を作り出したんです。

Hide:「屋根のない病院」という言葉は、そのときにもう使われていたんですか?

稲葉:はい。そういう言葉を残しながら、保養地や別荘を作って住みだしたんですね。その話を聞いて、僕がやりたいことはまさに「屋根のない病院」を作りたいんだってことに気付いたんですよ。

しかも軽井沢という場所は、人間ではなく自然を中心に考えられているんですよ。たとえば土地を買ったら、その20パーセントしか家を建ててはいけない。残りの80パーセントは自然を残さなければならないんです。虫や動物が(その土地を)通れなくなるから塀を作らないとかね。視点が全部自然や動物といった生命にあるんです。

Hide:なるほど。

稲葉:そういう場所でこそ、「私がやりたいと思っている医療を形にできるかな」と思ったので、引っ越したという部分はありますね。

Hide:生活がすべての根本にあるから、そこ自体を変えていかないと健康にはならないだろうっていう考えですね。

稲葉:そうです。健康になるためにリペアというか、部品を取り換えているという感覚はすごくありますね。人がもう一度生きる力を取り戻すっていうのは、再生、蘇生に近いんですよね。

◆本当の意味での“自立”とは何か?

Hide:この先、どんなことを構想されているんですか?

稲葉:病院のなかの空間そのものをもう少し変容させたいですね。病院に行くといろんなポスターがあってごちゃごちゃしていたりして、必ずしも居心地のいい空間ではないですよね。

Hide:そうですね。

稲葉:「自由な空間とは何なのか」ということを考えたい。私たち医療従事者だけでは力不足であるならば、建築、デザイン、技術、いろんな(分野の)人の力を吸収して病院を構想していきたいです。

Hide:命というか、人間の全体性を大切にされていますよね。

稲葉:はい。そうですね。私たちは生きているだけで、いろんな“場”の影響を受けてしまうんです。空間や人間関係が、自分の体に治癒的に働いているのかっていうことを、僕は問い直したいわけです。

もし社会全体が病んでいるのであったら、そのこと自体を治癒させるというのも私たちの役割であり使命でもあるので、医療従事者はちゃんと向き合うべきだと思っています。自然治癒力というのは、そういう場でこそ一番発動されるんじゃないかって思っています。

Hide:いろんなところに共感しております。西洋医学が見過ごしている部分が自然治癒力なのかもしれないですね。

稲葉:うんうん。

Hide:代替的なものや東洋医学を取り入れることも考えていらっしゃるんですか?

稲葉:そうですね。そういうものって対立概念ではなくて、補完的概念なんですね。だけど今は対立概念という風に捉えられているので、僕はそれを残念に思っています。

西洋医学という、誰かの力を借りることも絶対に大事だと思いますが、東洋医学や伝統医学のなかで培ってきた、自分のなかで自分の健康を作る自力的なものも必要なんですよ。自力的なものと他力的なもの、そういうものが合わさったところにこそ、本当の自然治癒力が発動すると思っています。

全部自己完結するわけでもないし、全部誰かに任せるわけでもない。適切に依存していくことが本当の意味での“自立”だと思っています。

医療の現場に立っていると、そのバランスがすごく悪いなってことを感じています。僕は美術とか音楽にその状況をひっくり返す力があると思っているので、「医療と芸術が双方的に補い合いながら存在すべきだ」っていうイメージを持っているんですね。

◆自身が抱える違和感を解消するためには創作活動が必要

Hide:稲葉さんにとって、ワクワクする社会創造のタネは何ですか?

稲葉:僕は“違和感”かなと思っています。自分のなかにある違和感の正体を突き詰めていったときに、積極的に何かを作るっていうことが必要だと思います。自分が何かを作り出さない限り、永遠にその違和感は解消されないのかなと感じています。

Hide:違和感が溜まっていくと、何かしら心と体に“炎症”のようなものが出てくると。

稲葉:そうなったときに、“病気”に自然治癒力が発動していく。その前に、物事を作るっていうプロセスで解決していけば、ポジティブな社会創造に繋がっていくんじゃないかなと思っています。

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番組でお届けしたトークは音声サービス「AuDee」と「Spotify」でも配信中。ぜひチェックしてみてください!

<番組概要>

番組名:UoC Mandala Radio

放送日時:毎週水曜23:00-23:30

パーソナリティ:近藤ヒデノリ(Hide)

番組Webサイト:hhttps://www.interfm.co.jp/mandala