元『週刊プロレス』記者が見た、SKE48荒井優希“二刀流”プロレスデビューからの1年

SKE48のメンバーであり、東京女子プロレスのレスラーとしてもリングに参戦する、荒井優希。レスラーとして5月4日で1周年を迎え、昨年にはプロレス大賞の新人賞受賞という快挙を遂げた。一方、アイドルとしては悔し涙を流す場面も…。アイドルとプロレスの二刀流として2年目を迎えた荒井優希に、元『週刊プロレス』の記者であり、長年AKB48グループを取材する小島和宏が直撃した。(前後編の前編)

【写真】5月3日後楽園ホール、荒井優希&辰巳リカ&渡辺未詩&vs愛野ユキ&らく&原宿ぽむの6人タッグマッチ

「デビューしたときに1年後の自分の姿を想像していたか、ですか? うーん……正直言って、まったくイメージはなかったですね」

SKE48の荒井優希が東京女子プロレスのリングに参戦するようになってから、1年を迎えた。そこで5月3日、1周年記念試合を終えた直後に「1年前、こうやって後楽園ホールで試合をやって、勝利している自分の姿を想像していましたか?」という質問を投げかけたのだが、戻ってきたのはぼんやりとした言葉。だが、そこには深い意味があったのだ。

「いまだから言いますけど、プロレスデビューした段階では『今年いっぱいで辞めよう』と思っていたんですよ。2021年いっぱいで終わりかなって。だから、1年後の自分の姿がイメージできなかったというよりも、1年後にまだプロレスをやっているなんて思っていなかったら、想像すらできなかったんです」

2021年5月4日、後楽園ホール。 

荒井優希のデビュー戦は衝撃的にして、鮮烈だった。

現役バリバリのメジャーアイドルが、アイドル活動を続けながらプロレスラーになる、というのは非常にインパクトがあった。しかし、当初はどこまで本気でプロレスに取り組むのか? という疑問も。アイドルとしてのスケジュールがあるため、東京女子プロレスの全日程に参加するのではなく「限定出場」という但し書きつき。実戦を重ねないことには、なかなかプロレスというものは上達していかない。はたして限定出場で大丈夫なのか? という不安感もあったのだが、デビュー戦での闘いぶりはそんな不安を一発で吹き飛ばしてくれた。

もちろん技術的にはまだまだだし、体力的にも課題はある。それでも最初から最後まで瞳をギラギラさせて闘う姿は、まごうことなきプロレスラーのそれだったし、試合開始のゴングから試合終了後まで、リング上でその緊張感をずーっと持続しつづけたことは、とてもデビュー戦のレベルではなかった。

そのあたりの表情の見せ方はアイドル仕込みかと思っていたのだが、本人から言わせれば「いや、まったく逆なんですよ!」となる。

「プロレスに関してはまったく素の感情でやっています。むしろ、アイドルのときのほうが表情の見せ方を意識していますね。とにかくアイドルとしてステージに立っているときは、絶対に涙は見せたくないし、ずっと笑顔でいたいと思っているので。プロレスをやっているときは、そんなことを考える余裕がないので、素でやるしかないんですよ(笑)。

もちろんプロレスラーとしてのスイッチが私の中にあって、それが入るタイミングっていうのもあるんですね。最初は会場に来たらスイッチが入るのかな? と思っていたんですけど、入場するときにお客さんがサイリウムや団扇で応援してくれるので、そこまでは完全にアイドルモードですよね。コールされるときもそうかもしれない。だから対戦相手と握手をするときか、ゴングが鳴った瞬間にプロレスラーとしてのスイッチが入る感じです」

まったくの素であれだけの喜怒哀楽を表現できる、というのは、もうプロレスラーとして天賦の才があるとしか言いようがない。もちろん、アイドルとして最初に踏んだステージがナゴヤドームという驚異の経験値から「どんなところでも、どれだけ多くの方に見られていても緊張しない」という武器はSKE48から与えられていた。しかし、本人的にはプロレス入りした段階で「とんでもないところに来てしまった」と思い、デビュー戦のころには「もう逃げ出したくなっていました」という。

「とにかく練習をはじめてショックを受けたのが『私にはこんなにもできないことが多いのか?』だったんですよ。格闘技の経験があるわけではないので、人を殴ったり、蹴ったりしたこともないし、逆に殴られたり、蹴られたりしたこともない。プロレスって痛いし、怖いじゃないですか? それでとんでもないところに来てしまったな、と。

もともと『豆腐プロレス』(AKB48グループのメンバーたちが出演した女子プロレスを題材とした連続ドラマ。そこから派生して後楽園ホールと愛知県体育館で実際の大会まで開催された)に参加させていただいていたんですけど、そのときはなぜか私だけ、すごく甘々にしていただいて(笑)。これはできない、あれはできない、と言うと『じゃあ、やれる範囲内のことをやればいいよ』みたいな(苦笑)。

でも、本格的に東京女子プロレスに参加するとなったら、そんなことは言っていられないじゃないですか? そこで自分のやれないことの多さにガックリしちゃったんです。最初は倒立すらできませんでしたからね。こんなこと、いままでの人生で経験してこなかったので、どうしていいかわからなかったです。SKE48で活動していく中でも、たとえば振り付けで『えーっ、こんなのできないよ!』と思うことはありましたけど、徹夜で練習すればなんとかなってきた。でも、プロレスの練習では徹夜でなんとかなるようなことはなくて……」

リングに上がればスポットライトも浴びれるし、ファンからの応援を受けられる。けれど、道場での練習はひたすら地味で、ただただ痛い。そこに何度やってもできない、という要素が加わるのだから、普通だったら「つらい」となってしまう。

痛い、怖い、つらい。

だが荒井優希には「つらい」という感情が生まれなかった。だからこそ、プロレスを続けていくことができたのだ。

「私、基本的に“人”が好きなんですよ。今日も道場で練習か、嫌だなぁ〜と思うこともあったけれど、道場に行けば先輩方がいるし、練習が終わったら、いろいろおしゃべりもできる。それが楽しくて、楽しくて!

あと試合数がどんどん増えていったじゃないですか? それでプロレスも楽しくなってきたんですよ。年内で辞めようと思っていたのは、最初の1か月ぐらいだったかな? いつのまにか『これからもプロレスをやっていく!』に変わっていきました」

結果、彼女は着々と成長していき、年末のプロレス大賞では堂々の『新人賞』を受賞(あまり語られないことだが、これは女子プロレスラーだけを対象としたものではなく、男子を含めた新人レスラーすべてが審査対象となる賞。まさに快挙である)。今年3月の両国国技館では元アイドル(九州の人気アイドルグループ・LinQに所属していた)の伊藤麻希が所持するインターナショナル・プリンセス王座に挑戦するなど、プロレスラーとしてステップを踏んできた。

その一方でアイドルとしては悔し涙を流す事件も起きていた。(後編へつづく)

【後編はこちら】「これでプロレスを続ける理由ができた」デビュー1年、SKE48荒井優希が味わった悔しさと手応え