フィアットの電気自動車(バッテリーEV=BEV)「500e」(チンクエチェントイー)には気になるポイントがたくさんある。実際の航続距離は? 走りは? 走行モード3種類の使い心地は? サイズ感は? オープンにして走るとどうなる? じっくり乗ってチェックしてきた。

  • フィアット「500e」

    試乗したのは「500e」のキャンバストップ版である「500eオープン」

シートの座り心地は? 足元の広さは?

エンジンモデルとの見た目の違いを比べてみた前稿に続いて、今回は500e(チンクエチェントイー)の走りについてだ。

ボディは全長3,630mm、全幅1,685mm、全高1,530mmで、相変わらず日本の5ナンバーサイズに収まる。フロントボンネットを開けると定格出力43kW、最高出力87kW(118PS)/4,000rpm、最大トルク220Nm/2,000rpmのフル電動パワートレインを見ることができる。前端にはエンジンモデルに取り付けられていたような大きめのファンが装着されていて、ブンブンと回っているのがちょっと面白かった。

  • フィアット「500e」
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  • ボディカラーは三層パール塗装が施された薄い水色の「セレスティアルブルー」で、強い光が当たった反射部分が淡いピンクに輝く美しいペイントになっている。ルーフのキャンバストップはブラックだ

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    「500e」のパワートレイン

凹みに逆手で手を差し込む電動ボタン式のドアを開けて、FIATのモノグラムが刺繍されたリサイクルレザー使用のエコレザーシートに腰掛けてみると、そのサイズは意外と大ぶりで、膝下の長さやクッションの量が適切なのが嬉しい。一方で2ペダルの足元はちょっと狭くて、左足を置くスペースはギリギリ。細めのドライビングシューズを履くことをお勧めする。リアシートは背もたれが立ったミニマムサイズだけれど、キャンバストップをフルオープンにすると上方にポッカリと空間が開くので、頭がつっかえる心配がなくなる。

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    ドアハンドルは電動ボタン式

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  • 後ろも座席として使いたい方にはオープンがいいかも

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    左足の置き場は狭い

スタートボタン(なぜかENGINEと書いてある)を押して電源を入れると、あの「ポロポロ」とちょっとうるさかった2気筒エンジンの音が聞こえずに、シーンとしているのが不思議な気分。目の前の丸型単眼メーターには、デフォルトでは中央に車速、左側にバッテリー残量(%表示)と残りの航続距離、右側に「e-Mode」の走行モードが表示される。e-Modeは3種類のセッティングがあり、センターコンソールのスイッチで選ぶことができる。各モードの詳細は以下の通りだ。

  • NORMAL(ノーマル):通常の内燃機関のような走行を想定したモード。ガソリン車のドライブを思わせる、快適かつスムーズな走行が楽しめる。

  • RANGE(レンジ):アクセルペダルだけで走行し、ブレーキは完全に停止した時のみ使用するワンペダルでのドライブを可能にするモード。

  • SHERPA(シェルパ=ヒマラヤ登山で有名なネパールの小民族の名。転じて遠くの目的地に確実に届くという意味を持たせた):長距離走行を実現するモード。80km/h以下の走行となり、エアコンやシートヒーターが自動的にオフに。当然、手動で再起動はできる。

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  • 「e-Mode」のダイヤルを上下に操作すると走行モードが切り替わる

シフトは、エンジン車ではダッシュ中央にニョッキリと突き出していたレバーがなくなり、同じ位置に左から「P」「R」「N」「D」のスイッチが並ぶという電動車らしいスタイルになった。

  • フィアット「500e」
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  • 左が「500e」のシフトセレクター(ボタン)、右がガソリンエンジン車「500c」のシフトセレクター(レバー)

BEV版500の走りは?

銀座木挽町にある料亭の土壁をバックに写真を撮りつつ(これが本当によく似合うのだ)、RANGEモードでスタート。エンジン車に比べると最小回転半径は少し大きくなったものの(4.7m→5.1m)、コンパクトなボディとワンペダルの軽快な走りがピタリと決まって、街中の狭い道もスイスイと駆け抜けてくれる。

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  • ワンペダル走行は「500e」にピッタリ

半円形のECOメーター部分には、トップから右側にアクセルオンのPOWER、左側にアクセルオフのCHARGEの様子が表示され、そこが結構敏感に反応するので、余計にキビキビ感が伝わってくる。路面が荒れた部分では少しピッチングがキツくなってきたり、ロードノイズが大きくなったりするけれども、500eならご愛嬌ということで我慢できるのだ。

  • フィアット「500e」
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  • 走り方により、メーターが「POWER」と「CHARGE」に敏感に振れる

銀座ランプから首都高に乗る。その短い合流部分でアクセルペダルをグッと踏み込むと、これまでの500とは比較できないほどの力強い加速感を体験することができた。本線に乗ったら巡航モードであるNORMALに。アクセルオフでも回生ブレーキが入らないので気持ちよく流していけるし、1.3tの車重も相まってどっしり感さえ感じることができる。直進性も悪くない。

せっかくなので500eから新たに搭載されているACC(アダプティブクルーズ・コントロール)を試してみると、こちらはちょっとひと世代前の制御かな、というセッティング。前走車の追従はしっかりと行うし、コーナーではステアリング制御も入るのだけれども、カクカクとした挙動が少しだけ残る。それでも、オートクルーズしかなかった従来モデルからすると、大進歩だ。また、湾岸線でSHERPAモードに入れてみると、80km/hに達したところでエンジンブレーキのような減速Gが効いたので、モードによって車速がしっかりとコントロールされていることがわかった。

高速道路でキャンバストップを開けていると、70km/hあたりまでは快適な走行が楽しめる。しかし80km/hまでいくと盛大に風を巻き込むし、風切り音が相当に大きくなってくるのでそれ以上はムリだ。この時、背後に折り畳まれたキャンバストップが室内ミラーに大きく写り込んで後方確認がほとんどできなくなるので、注意する必要がある。

さて、この日のスタート時のバッテリーは残り94%で、走行可能距離は239km(単純計算で100%だと254km)、高速と一般道を70kmほど走った後の残りは70%で185kmと表示されていた。500eのWLTCモードの一充電走行距離は335kmと公称されているけれども、実質は250~260kmほどと考えてよさそう。通常使用での航続距離はシティコミューター+αといったところか。

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    フル充電での走行距離は実質250kmくらいか

とはいえ、なんだかんだいってとにかく愛らしく、ちょっと高級で素敵な500e。しばらく走ってクルマを降り、振り返ってみた時の500eの佇まいは最高で、個人的には、これまで試乗したBEVの中で“欲しくなったクルマ”の2台目にランクインした。ちなみに、候補の1台目は「ホンダe」だ。今、個人で所有している30年前のメルセデス(W124)をロングドライブ用、BEVの500eやホンダeをショートドライブ用に使うという“二刀流”は理想的だと思うし、マンション住まい(充電設備の設置計画はあるらしい)や国内の充電インフラ不足といったネガ部分が払拭されれば、これ1台だけでも賄っていけそうな気さえしてくるほどだ。

500eの販売には2つのカーリースプランがあって、サブスク型の「FIAT ECO PLAN」なら5年契約で月々5万9,400円、ボーナス払い(10回)11万円、残価設定(154万円)の「パケットFIAT」(60回)なら月々4万円、ボーナス払い(10回)11万円となっている。詳細はディーラーで確認してほしい。