立候補するにもお金と忍耐が必要!? 参院選挙の事前説明会に迷い込んだ交通ジャーナリストの昔話

第26回参議院選挙(2022年7月投開票)が近づくなか、「みんな選挙の一月前に開かれる『立候補予定者事前説明会』に出るといい」と畠山理仁さんがツイートした(https://twitter.com/hatakezo/status/1524788493251059713)。同氏の著書『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社e文庫)は私も読んだ。あんな面白い本を書ける人は他にいない。

【関連】畠山理仁さんのツイート:「立候補の仕方」を義務教育にしたら、候補者をバカにする人は減ります

今回のツイートを見て、じつは「おおう!」となった。事前説明会、私は出たことがあるぞ。あんまり面白くって、どこかに記事を書いたぞ。遠い記憶をたどってみた。なんと、今からちょうど30年前、第16回参議院選挙(1992年7月投開票)の事前説明会に私は出て、バイク雑誌『モーターサイクリスト』(八重洲出版)に書いていた。そのコピーが発見された!

当時、同誌に私は「今井亮一の“バイクが下半身”」という見開き2ページの連載コラムを書かせてもらっていた。バイクにからめて、無理やりからめたふりをして、好き放題なことを書いたりしていたのだ。コピーを読み返した。けっこう面白いじゃん。少し加除訂正等して、ここに再掲させてもらう。はっきり言って、事前説明会、諸兄(諸姉)も出てみたらいいと思いますよっ。

☆☆☆1992年の『モーターサイクリスト』より☆☆☆

玄米はいい。ビタミンと繊維質をまとめて摂れるうえ、あごが疲れてたくさん食べられない。清貧に甘んじる者に最適だ。ある朝、玄米を噛みながら新聞を眺めてたら、こんな広告を見つけた。

≪ 参議院比例代表選出議員の選挙における政党その他の政治団体の名簿による立候補の届け出の手続き及び確認団体の申請の手続きについて事前説明会を次のとおり行います。日時(省略) 場所(省略) 中央選挙管理会 ≫

普通ならそんなの読み飛ばすとこだ。が、9つもの「の」でつなげた官僚っぽい文章に興味を引かれ、どの単語がどれにかかるのか、何度も読み返した。要するに「選挙について説明会をやるよ」という告知なのだね。へえ、今までぜんぜん気がつかなかったけど、選挙の前にはそういうのがあるんだぁ。

ここで私は、はたと箸を止めた。待てよ。官僚の告知に漏れがあるはずはない。参加資格や入場料が書いてないってことは、誰でも無料で入れると理解していいんだよな?

無料。この2文字になぜか私は弱い。いつまでも記憶に残る。そして説明会の当日、幸か不幸か天気がよかった。そうだ。昼めしでも食べがてら、ひとっ走り出かけてみるか。無料だし。

そんなふうにしてボク(※当時私は「ボク」と称していた)は、霞が関の合同庁舎2号館へ行ったわけ。いつもの格好、すなわち革ジャンとジーンズとオフロードブーツで、首にバンダナを巻いてバイク(※ホンダのCB250RS)に乗って。

階段をのぼって会場前のフロアに着いた途端、びっくりたまげた。受付はスーツにネクタイの紳士たちで大混雑。そこにまぶしくライトが当たり、NHKと民放各局のテレビカメラが何台も並んで撮影していたのだ。

どっひゃーん! 今回の参院選に出馬する本物の政治家たちが来てるんだ! うわ、オフロードブーツの奴なんか1人もいねえぞ! 場違いもいいとこ、ヤバイっつーの! けれどすぐこう思い直した。待て待て、ボクだっていちおう日本の国民だ。被選挙権もある。説明会に参加する権利があるんだ。

スーツの紳士たちに交じり、受付の用紙に氏名等を書くことにした。説明会に来た人はみんな書くらしかったので。だがその用紙を見てまたびっくり。氏名の前に「政党名」を書く欄があるではないか。しかもっ、机のわきには報道記者が鈴なりで、ペンとメモを構えてボクの手元に注目している。どんな奴が立候補するのかぜんぶ書きとめようというのだ。

げっ、政党名なんて、んなもんねえよ! あそうだ、昔、冗談で「世紀末ハルマゲ党」ってのを思いついたっけ。ハルマゲはハルマゲドンの略である。丸禿げと混同する者は党の名誉にかけて断固粉砕する、とか言って。この際、それでも書いとこうか。

ボールペンを用紙に近づけると、記者たちが一斉に身を乗り出した。や、やっぱそんなふざけたの書けないよう。結局、政党名は「未定」とし、氏名、住所、電話番号だけ書いた。

受付をとおって会場に入り、またまた驚いた。3人掛けの机が横に3列、縦に11列、優に100人を超える人たちでごった返していた。あちこちでフラッシュがピカピカ。テレビで見たような人もいる。そうとう著名な政治家も来てるらしい。メモを手にした記者とカメラマンたちが走り回っている。

1人だけ和服のおっさんがいた。テカテカしてやたら声がでかく、ほとんど躁状態だ。ははあ、とボクは思った。選挙って、UFOと協力して世界平和とか、だいぶ変わった人も出るんだよね。してみるとボクなんか、現代社会の縮図たる交通違反・取り締まりを通じて社会をよくしようと考えてたりなんかするわけで、けっこうまともな部類じゃん?

異様な熱気の中でボクは、自分がただの野次馬であることを忘れ始めていた。ちょっと政界に打ち出でてみっかな、政見放送で好きなこと言ってみるのもいいかもしんない、そんな気分になりかけていた。

やがて説明会が始まった。自治省や法務省のお役人が次々に出てきて、受付で配布の資料にしたがい、説明するのだ。資料が入った茶封筒は6つもあった。中身は「通常選挙における政党その他の政治団体の確認等に関する取扱要領」「名簿届出政党等のしおり」「政見放送のご案内」等々。さらに「様式甲」「様式乙」「第5号書式」といった各種届出用紙とその記載例がもう山ほど。

「続きまして××でございます。これにつきましては××により××できることになっておりますので××していただきたいと存じます。それから××でございますが…」

そんな感じの説明がなんと2時間半も続いた! とんでもないことがわかった。立候補するには1人400万円の供託金が必要で、一定の得票数がないと供託金は没収されるというのである!

ただでさえ家賃でひいひい言ってるのに、その数年分をイッパツ勝負に賭ける? てかそもそも賭け金がねーよっ。資力のない者の参政権を奪うのか。いやしかし、昭和の初めまでは納税額によっては投票さえできなかったのだ。アメリカに占領されるまで女性に参政権はなかったのだ。ううむ…。

けど眉間にしわを刻んだのは一瞬だった。じつはけっこうニコニコしてたのだ。なぜって、資料の中に3冊の本、『公職選挙法令集』と『参議院選挙の手引』と『政治活動の手引』があり、定価の合計が5200円だったから。売ったら大した金になるかも、うふふ。 ※結局売らなかった。

ただ、困ったことがあった。翌日からじゃんじゃん問い合わせの電話がきたのだ。

「××新聞の選挙本部ですが、政党名はお決まりになりましたでしょうか。名簿登載人数は何人になりましたでしょうか」

最初は「未定です」と逃げていたが、何度でも「もうお決まりでしょうか」と電話がかかってくる。ついに、こう答えることにした。

「協議の結果、残念ながら出馬を断念することとしました。当分は執筆活動をとおして政策に沿った活動をしてまいります」

もともとは野次馬だった、途中ちょっとその気になった、400万円と聞いてくじけた、とは言えなかった。申し訳ない、反省しております。

でもね、ふとした野次馬根性のおかげで、選挙公報や政見放送を「自分だったらこうやる」と真剣に見ることができるようになった。陣中見舞いに来た有権者に弁当とかふるまっている選挙事務所があったら、さんざん食ってから「公職選挙法第139条違反だあ!」とわめいてやろう、なんて智恵も身についた。大きな収穫だ。中央選挙管理会も喜んでくれるに違いない。

☆☆☆2022年へ戻る☆☆☆

きっかり30年前の、いわば“異世界へ迷い込みレポート”、いかがでしたでしょう。もしも私が国会議員になったら、国会議事堂、永田町という超弩級の異世界を徹底レポートしたい。そんでもって本格のジャーナリスト諸氏を公設秘書とし、議員特権を利用して取材、調査しまくるね。

政党名は「ジャーナリス党」、駄洒落とは斬新だ。略称は「蛇党(じゃとう)」。縮めて「蛇(へび)」。天下りや中抜きなどを暴きまくり、「また蛇がスクープを打った!」と怖れられる。すごいぞ。夢は広がるが、相変わらず供託金は…ないと言いかけ、ちらっと調べてみた。今は400万円じゃなくて、あらびっくり600万円。ぎゃふん~。

文=今井亮一

肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。