きょう7日にスタートするドラマ『17才の帝国』(NHK総合、毎週土曜22:00~ ※全5話)は、ジャパンアニメの世界観がどことなく漂う。近未来の日本を舞台に、神尾楓珠、山田杏奈、河合優実、望月歩、染谷将太が若き閣僚役となり、星野源が総理候補役を演じ、青春と政治、そして不穏な空気を感じるSFファンタジーを掛け合わせた斬新かつ挑戦的な内容だ。

実は、制作背景そのものも型破りなやり方なのである。『大豆田とわ子と三人の元夫』などを手掛けた民放ドラマプロデューサー歴約10年の佐野亜裕美氏(カンテレ)をクリエイターチームの一員に迎えて実現した経緯がある。その狙いとは――佐野氏と制作統括の訓覇圭氏(NHK)の2人に話を聞いた。

  • 『17才の帝国』に出演する神尾楓珠 (C)NHK

    『17才の帝国』に出演する神尾楓珠 (C)NHK

■今本当にやるべきだと考えるものをやれる

今期注目作の1つにある『17才の帝国』は、かつてない組み合わせの異才クリエイターたちがタッグを組み、実現した。『ハゲタカ』や『あまちゃん』などNHKドラマの名作を数多く生み出してきた訓覇氏が制作統括の役割を担い、『カルテット』(TBS)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ)など代表作に持つ佐野亜裕美氏がプロデューサーを務めている。NHK伝統的な土曜ドラマ枠でなぜ、民放ドラマの名手を迎えることになったのか。訓覇氏がその経緯を説明する。

「民放の方とのコラボレーションを意識したつもりはありません。佐野さんという素晴らしい1人のクリエイターの力をお借りしたいという思いがあったからです。土曜ドラマ枠から新しいドラマを生み出すための開発会議からブレーンに入ってもらい、その第1弾作品の制作現場にも参加していただいたという訳です」

この話を初めに受けた当時、佐野氏はTBSを退職し、フリーの立場というタイミングだったが、その後カンテレに入社し、現在に至る。周りの理解を得たことで「NHKでしかできないことをチャレンジしたい」という個人的な思いをやり遂げたのだ。

佐野氏にとってそれはどのようなチャレンジだったのかを聞くと、「NHKのドラマはハードもソフトもリソースが民放とは異なります。あくまでも外側から見る限りは、0.1%の視聴率にとらわれず、今本当にやるべきだと考えるものをやれるのがNHKのドラマだと、そんなことも思っています」という答えが返ってきた。

だからこそ、今回の『17才の帝国』がSFである意味は大きいと言える。「民放の連ドラでは予算上、SFは扱いづらく、『民放のゴールデンでSFを流せるの?』という雰囲気が現場にあります」と、正直に話す。

  • 柄本明(左)と神尾楓珠 (C)NHK

■世界を意識した企画…ヒットアニメの脚本家とタッグ

本作の中でSFの要素を高めているのは、AIに特化したスーパーコンピューターの存在だ。世界から「サンセット・ジャパン」の烙印を押された近未来の日本政府が実験都市を立ち上げ、理想の政治の実現を目指す17才のリーダーの姿を描いていく中で、最先端政治AIが使われる。開発会議の段階から、AIが登場するSFドラマは必須条件にあったという。

「今年度から土曜ドラマ枠がNHKの国際放送『NHKワールドJAPAN』を通じて、およそ世界160の国と地域の約3億8,000万世帯で視聴できることになり、企画段階から世界も意識した企画を求めていました」と、訓覇氏が理由を説明する。

これまでも、NHKから宮崎あおい(※崎は「立つ崎」)主演『眩(くらら)~北斎の娘~』や、カズオ・イシグロ原作の渡辺謙主演『浮世の画家』など、世界展開を視野に入れたドラマ作りは行われていたが、今回は世界市場のトレンドをより優先した形だ。世界各国のドラマ企画をリサーチしていく中で、絞り込んだものに「AI」や「SF」、「ジャパンアニメ」のキーワードが並べられたという。

そこで佐野氏の提案によって、『けいおん!』や『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などヒットアニメの脚本を手掛けてきた吉田玲子氏を迎え入れ、完全オリジナル作品を目指すことになる。

「SFを作るんだったら、私が普段連ドラをご一緒している脚本家の方より、違うジャンルの作家さんと仕事がしたいと思ったんです」と佐野氏。「早速会いに行き、世界に向けてA Iと青春をかけ合わせたものをというこちらの意図を話したら、吉田さんから『いつかやりたいと思っているモチーフがある』と。それが『17才の帝国』だったんです。もうすでに吉田さんの中でタイトルも決まっていました」という奇遇なエピソードも添えた。