トヨタ自動車とKINTOは、クルマを好みの色に着せ替えられる夢の新技術「剥がせるボディカラー」を開発している。2022年中にはサービスの提供を開始する予定だ。今までなかったことが不思議なくらい需要のありそうなサービスだが、いろいろと気になることもあるので聞いてきた。

  • トヨタ「bZ4X」

    「剥がせるボディカラー」とはどんな技術なのか(写真はKINTOがサブスクリプションで展開するトヨタの新型電気自動車「bZ4X」)

水で剥がせるボディカラー塗装技術を実用化

クルマの色選びは好みだけで済ませられる問題ではない。そのうちクルマを売るときのことを考慮して、なるべく高く売れる色を選ぶという人は実際、多いという。はっきりいえば1番は白、2番は黒といった具合で、新車に赤や黄色が設定されていたとしても、選ぶ人はほんの数%にとどまるそうだ。

でも、1年だけであれば赤いクルマに乗ってみたいとか、一生に一度は黄色いスポーツカーで走ってみたいというニーズは、間違いなくあるはず。「下取り価格のリスクを取らずに好きなボディカラーを選択できれば」という声に応え、トヨタとKINTOが準備を進めているのが「剥がせるボディカラー」という新サービスだ。

  • トヨタ「bZ4X」

    トヨタとKINTOは羽田空港にて「bZ4X」の展示イベントを開催中(第一旅客ターミナル2階イベントスペースにて5月1日まで)。ここでは「剥がせるボディカラー」でマットカラーを施工した特別なbZ4Xを見ることができる

「剥がせるボディカラー」はクルマをユーザーの好みのカラーに塗装し、元の状態に戻せるようにもする独自技術。具体的には元の塗装と新しい塗装の間に、水を高圧で吹きつけることで剥がせる特殊な塗装を施す。選べる色は100色以上。水性塗料なので環境への負担も少ないという。フルボディの塗装だけでなく、ドアミラーやルーフなどパーツごとの塗装も可能だ。

  • トヨタとKINTOの剥がせるボディカラー

    「剥がせるボディカラー」のカラーバリエーションはご覧の通り(提供:KINTO)

同サービスはトヨタとKINTOが2022年1月から始めた「KINTO FACTORY」(購入したクルマやサブスクのクルマをアップグレードできるサービス)のメニューのひとつとして提供するが、KINTOユーザー以外でも利用できるようにする方針だという。下取りのことも考えて買った白いクルマを、例えば1年だけ赤に塗って乗るというような使い方が、同サービスで可能となる。クルマの保有期間は長期化する傾向にあると聞くが、このサービスを使えば、1台のクルマを飽きずに長く楽しめるかもしれない。

羽田空港の展示イベントで実際に見てみると、マットカラーのbZ4Xはかなりカッコよかった。現場にトヨタ自動車 第1材料技術部 塗装設計室 主幹の山口賢二さんとKINTO マーケティング企画部の井田崚太さんがいたので、気になることを質問してきた。

  • トヨタ「bZ4X」

    KINTOは最長10年の「bZ4X」専用プランを設定。長い付き合いになりそうなbZ4Xだが、定期的にボディカラーを変えれば新鮮な気持ちで乗り続けられるかも?

車種は決まっている? チェック柄は可能?

マイナビニュース編集部:剥がせるボディカラーは、どのクルマでも施工できますか?

山口さん:対応車種は現時点で未定です。できるだけ広げていきたいとは思いますが、まずは小規模に初めて、お客さまとキャッチボールをしながら検討してきたいです。

井田さん:KINTOユーザー様だけではなく、保有車でも対応可能なサービスです。

編集部:需要がありそうですね!

山口さん:まだない技術なので、需要をつかみきれていない部分があります。お客様の声を聞かせていただきたいと思います。

編集部:選べるカラーは100種類以上とのことですが、決まった選択肢の中から選ぶんですか?

山口さん:基本的にはトヨタで出している色、持っている色をと考えてます。

編集部:すでにある塗料を使っていくわけですね。

山口さん:新たなカラーを開発費をかけて作って、お客さまにもご負担をお願いするというよりも、今あるものを有効利用して、選択肢を増やして提供したいという考えです。今ある色は当然、トヨタのクルマに合う色として提案しているわけですからね。

編集部:ランボルギーニでは顧客の注文に合わせて色を作り出すと聞いたことがありますが、それは3,000万円のクルマの話ですもんね。

山口さん:技術的には対応可能なのですが、色を作るためにお客様をお待たせしたり、コストを負担していただいたりといったことは、あまり考えていません。お客様の負担ができるだけ少ない形で提供するにはどうしたらいいかを考えながら、開発を進めています。

編集部:このサービス、トヨタ側にも学びとか発見がありそうですね。意外な人気色が判明したりとか。

山口さん:おっしゃる通りです。クルマのカラーというのは今まで、ある程度は限られた中から選択するものでしたし、こちら側に思い込みがあったかもしれません。「剥がせるボディカラー」でいろいろ試せる、といったら失礼かもしれませんが、お客様の声を聞けるのは嬉しいですね。

  • トヨタとKINTOの剥がせるボディカラー
  • トヨタとKINTOの剥がせるボディカラー
  • 羽田空港のイベントでは「bZ4X」のボディ、ルーフ、ドアミラーを好みの色に変えられる体験型のデジタルコンテンツ「My color, My bZ4X」が利用可能。なるべく奇抜な色にしてみようと考え、ボディを「レディッシュパープルメタリック」、ルーフを「グリーンマイカメタリック」、ドアミラーを「アタカマイエロー」に塗ったのが右の写真だが、説明員の女性からは「おしゃれですね」と意外な感想をいただいた。クルマの色については、やはり人それぞれの先入観や感じ方があるようだ

編集部:サービス料はどのくらいになりそうですか?

山口さん:検討中です。

編集部:パーツごとの塗装も可能だそうですね。

山口さん:展示にもある通り、ルーフやドアミラーなどの色を変えることが可能です。ただ、あまりに奇抜すぎて、お客様が不利益をこうむってもよくないので、お客様に選択肢は提示しながら、不利益がないようにこちらから提案していくことも大事かなと考えています。

編集部:その場合の「不利益」というのは?

山口さん:色というのはどうしても、画面上だと伝わりにくい部分があります。

編集部:例えばイメージだけで色を決めて、塗ってみたけど気に入らなくて、すぐに剥がしてしまったら、お金がもったいない。そういうのも不利益ですか?

山口さん:そうです。やっぱり色というのは、塗ってみて初めて「これはいいな!」と感じられる領域でもありますから。

編集部:写真によっても印象が違いますし、室内か室外かでも見え方が違いますもんね。なるほど。

山口さん:そこをご理解いただいたうえで、お客さまの声をくみ取っていきたいと思います。100色以上といわれても、選びきれない部分もあると思いますからね。提案・誘導をしていくのか、あるいは少しチャレンジングではありますが、完全に門戸を開く(どんな色でも選べるようにする)のか。個人的にはチャレンジよりも、少し提案させていただいた方が、お客様のためにもなるのかなと思います。そのあたりもキャッチボールが必要ですね。

編集部:「この車種については、これらの色の中から選んでください」という形にするのか、どんな色でも塗れるようにするのかは、詰めている最中ということですね。

それとパーツごとの塗装なんですが、場所は決まっているのでしょうか。例えばドアハンドルを全て違う色にしたいといったような要望も、あるかもしれませんよね?

山口さん:塗装できるパーツは、ある程度は絞りたいと考えています。すべてに対応するとなると、販売店さん(剥がせるボディカラーの窓口)の負荷が増えてしまいますし、ワンオフで作るとコストもかさんでしまいます。

編集部:サービスを受ける際の具体的な流れは?

山口さん:クルマは販売店にお持ちいただきます。できるだけ広く展開したいですが、スタートは特定のエリアからになると思います。

井田さん:塗装を剥がしたくなったら、また販売店へお持ちいただく、という流れです。

編集部:剥がす際は水道水を高圧で吹きつけるそうですが、本当に傷はつかないんですか?

山口さん:フィルムやシールなどで色を変えると、剥がしたときに糊が残ったりすることがあるんですが、こちらは一切、跡が残りません。

  • トヨタとKINTOの剥がせるボディカラー

    水を吹き付ければ「剥がせる」のが同サービス最大の特徴。ただし、雨風では剥がれないよう、しっかりとボディカラーを吸着させるそうだ(提供:KINTO)

編集部:剥がせるボディカラーを施工すれば、飛び石などの傷を防ぐ効果も得られますか?

山口さん:基本的には塗膜なので、そこまで極端に傷を防ぐ効果が得られるわけではありませんが、塗膜としての耐性は持っているので、そのぶんは傷をカバーできます。表面に傷がついても、ボディカラーを剥がすときれいになった、ということもあるはずです。そこもアピールポイントのひとつになると思います。

編集部:普通は1枚の塗装が3枚になるわけですから、そのぶんは耐性が高まりますよね。なるほど。

井田さん:ちなみに、KINTOは契約終了後に車両を返却していただくのですが、返却時は原状回復が原則ですので、「剥がせるボディカラー」は必ず剥がしていただくことになります。

編集部:ボディカラーを変えられるのは嬉しいのですが、柄はどうですかね? チェック柄とか、やってみたいような気もしますが。

山口さん:技術的に不可能ではないのですが、現時点で対応は考えていません。このサービスは、どの販売店でも展開できるものじゃないと意味がありません。なので、すごく特殊な設備が必要になるとか、そういったことはできるだけ避けたいんです。幅広く展開するためには柄で攻めるよりも、手持ちの技術をうまく使っていくのが最適解だと考えています。