東海道新幹線の最速達列車「のぞみ」は今年3月、運行開始30周年を迎えた。30年間で車両やサービスは大きく変わっている。より速く、安全で、快適な旅をめざし、最新技術を取り入れた結果だろう。改めて「のぞみ」が歩んだ30年を振り返ってみたい。

  • 東海道新幹線「のぞみ」は現在、N700系・N700Aと最新車両N700Sにより運行されている(2020年6月の試乗会にて、編集部撮影)

まずは「のぞみ」が歩んだ30年の歴史について、簡単に振り返ることにする。

■300系でデビュー、500系・700系など経て現行車両に

「のぞみ」は1992(平成4)年3月14日、東海道新幹線の最速達列車としてデビューした。JR東海が新たに開発した300系で運転され、東京~新大阪間の所要時間は約2時間30分。新横浜駅に停車する一方で、名古屋駅と京都駅は通過という大胆な停車駅設定が話題となるなど、注目を集めた。翌年、運転区間を博多駅まで拡大。最高速度270km/hで、東京~博多間を5時間4分で結んだ。

1997(平成9)年には、JR西日本の開発した500系が運転を開始する。デビュー時は新大阪~博多間の設定だったが、同年11月から東京駅への乗入れをスタート。山陽新幹線区間では最高速度300km/hで走行し、当時の世界最速列車として一時代を築いた。

500系はスピードアップに特化した車両だったため、乗り心地との両立が求められるようになる。試験車両での検証結果を踏まえ、1999(平成11)年に700系が登場した。最高速度は285km/hとされ、500系と比べて減速したものの、乗り心地は大幅に向上。長期間にわたって活躍した。

2003(平成15)年、東海道新幹線の品川駅が開業。あわせて山陽新幹線に直通する「のぞみ」がすべて新横浜駅に停車するようになった。

  • 初代「のぞみ」車両300系。2012年に引退した

  • 1999年から「のぞみ」に使用された700系。2020年に東海道新幹線から引退した

700系の後、新型車両の導入がなかった東海道新幹線だが、2007(平成19)年にN700系が登場。翌年、すべての「のぞみ」が品川駅と新横浜駅に停車するようになった。その後もN700系の増備が続き、2010(平成22)年に500系「のぞみ」が運行終了。2012(平成24)年には、初代「のぞみ」として親しまれた300系が引退し、「のぞみ」の定期列車はすべてN700系に統一された。その後、N700系を改良したN700Aも加わった。

2015(平成27)年、東海道新幹線の最高速度が285km/hに引き上げられ、所要時間が最大3分短縮される。同年、寝台特急「北斗星」の運転終了にともない、「のぞみ」は日本最長の運行距離を誇る定期列車となった。

2020(令和2)年、20年以上活躍した700系が引退。同車両による臨時「のぞみ」が運転予定だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大で運休となり、ひっそりと引退した。同年7月、東海道新幹線の新型車両N700Sがデビュー。現在はN700系・N700AとN700Sにより運行されている。

■「のぞみ」が持つ「絶妙なバランス」

筆者は1991(平成3)年生まれ。「のぞみ」とともに人生を歩んできたと言っても過言ではない。これまで幾度も「のぞみ」を利用してきたが、もともと鉄道が好きだったためか、東京から大阪までの移動で飛行機という選択肢を考えたことすらなかった。

「のぞみ」について、とくに印象深い出来事といえば、中学校の修学旅行で新横浜駅から広島駅まで500系「のぞみ」に乗車したときのことだ。鉄道にまったく興味がない同級生たちも、新横浜駅に入線してきた500系に強く関心を持った様子。皆カメラを向け、完全に旅行気分になっていた。姫路駅を通過し、「この電車は、現在300km/hで走行しています」という案内が流れたときは、全員大興奮であった。

  • JR西日本が開発し、かつて「のぞみ」に使用された500系。現在は8両編成となり、山陽新幹線「こだま」で活躍している

このように、「のぞみ」は学生や若者にとって、修学旅行や家族旅行でお世話になる存在だろう。遠くに向かっていると実感させるだけのスピードや車窓も、旅行の感覚を後押ししているかもしれない。

ただし、「のぞみ」にはもうひとつ、ビジネス輸送という重要な役割がある。実際、「のぞみ」のキャッチフレーズは「午前9時の会議に間に合う」だった。300系の内装デザインはビジネス利用を強く意識したものだったし、その後も「のぞみ」は時代の進歩や働き方の変化に応じてサービスを刷新している。

「のぞみ」の乗客には、旅行客とビジネス客という大きな両輪がある。「のぞみ」が歩んだ30年は、乗客のニーズに対応しつつ、スピーディーかつ快適な移動を追求してきた30年であったと言っても良いだろう。

■新横浜駅から名古屋駅まで、N700S「のぞみ」に乗車

最後に、30周年を迎えた「のぞみ」に乗車してみよう。

筆者は新横浜駅から、N700Sで運転される「のぞみ213号」で名古屋に向かった。3連休の中日だったこともあり、普通車はほぼ満席。親子連れやカップルが大半で、新型コロナウイルス感染症に注意しつつ、旅を楽しむ工夫が定着しているように感じた。

  • N700Sの普通車(2020年6月の試乗会にて、編集部撮影)

  • 大型化した車内の液晶ディスプレイ(2020年6月の試乗会にて、編集部撮影)

新横浜駅を発車し、高速走行になってもN700Sの揺れは少ない。ペットボトル飲料を見ていても、少々波が立つ程度。当然、こぼれることもなかった。この日は海側の座席に座ったため、富士山はよく見えなかったが、浜松駅を通過してから見える浜名湖は太陽に照らされ、美しく輝いていた。

静岡駅を過ぎたあたりで、車内販売がやって来た。SNSでも話題の固いアイスクリームを購入する。太陽光と体温で温めると、豊橋駅付近で食べやすくなった。三河安城駅を通過すると、「名古屋駅まであと10分ほどですので、お支度をしてお待ちください」という車内アナウンスが流れた。乗客の中には、早くもデッキに向かう人もいた。

新横浜駅から名古屋駅までは約1時間20分。名古屋駅のホームにあるきしめん店から、出汁の香りが漂っている。京都・新大阪方面へ向けて旅立つN700S「のぞみ」を見送り、目的地に向かった。

  • N700Sは東海道・山陽新幹線で活躍中。JR東海は2022年度、新たに13編成を投入予定としている

時代を飾る新型車両が次々と投入され、現在も進化を続ける「のぞみ」。時代の最先端を走る列車に、これからも注目していきたい。